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厚労省インフルエンザ総括会議を改めて総括

 8月10日、世界保健機関(WHO)は新型インフルエンザ(A/H1N1)の世界的な状況について「最盛期後」(ポスト・パンデミック)と宣言した。事実上の終息宣言とみられる。だが、新しいインフルは確実に生まれてくる。今後10年、20年のスパンで国内に入ってくる可能性は十分ある。しかも、地震とは違って予測は非常に難しい。対策という意味では決して終わりはない。<br / 厚生労働省は昨年来の政府の取り組みについて「新型インフルエンザ総括会議」を行った。「4月1日から6月1日まで、約2カ月間で7回の会議を開催。集中的に議論を行い、6月10日に報告書を提出。国内外でこれだけ大きな影響を及ぼした施策について、厚労省主導で検証・評価を試みたのは異例のことだ。
 そこでは何が話し合われたのか。抜け落ちた課題はないか。今後の審議会・検討会、医療行政の在り方に影響を及ぼすのだろうか。
 会議のメンバーとして議論をリードした岡部友彦・国立感染症研究所感染症情報センターセンター長、岩田健太郎・神戸大学医学部附属病院感染症内科教授と、総括の過程に一貫して疑問を呈してきた森兼啓太・山形大学医学部附属病院感染制御部副部長に再度「総括」を聞いた。
 昨年4月28日、麻生太郎首相(当時)を本部長とする対策本部が発足。5月1日には「新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会」が設置された。メンバーは尾身茂・自治医科大学教授、岡部氏、河岡義裕・東京大学医科学研究所感染症国際研究センター長、川名明彦・防衛医科大学校内科学講座2(感染症)教授、田代眞人・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長の5人。政治家を中心とする対策本部に専門家の観点から助言をする機関と見られる。森兼氏が指摘する。
専門家諮問委員会の功罪
 「専門家の直属チームを作ること自体はいい。ただ、5人しかいない委員に、行動計画の策定にかかわっていない尾身氏が加わっているのはなぜか。厚労省が都合の良い人物を充てたとしか思えない人選です」
 当事者である岡部氏はこう語る。
 「内閣官房が決めた。何とも言えないが、良いメンバーでした」
 H1N1対策に大きな影響力を持つ諮問委員会の人選は役所の恣意性に任せて行われたのか。この委員会の会議には議事録がなかったことが後に明らかになっている。総括会議の席上では尾身氏が個人的に取ったメモを元に発言する光景が見られた。
 そもそも政府はH1N1の流行以前に強毒性のH5N1を想定して計画を立ててきた。結果として違う病気が入ってきたことになる。この点の評価についても意見は分かれた。
 「何でH1N1の一本買いでほかの可能性を一切考慮しなかったのか。そこの議論がいい加減。新しくできた感染症のふるまいは完全に予測できるわけがない。できるという前提で計画を立て、当たらなかったからいけない、当たりさえすればよかったという話にしている」(岩田氏)
 「今までは感染症は大流行があってから慌てて動き出し、調べていた。今回は一つの目標を定めて対策を立てた。あまり低く設定するわけにはいかない。ぼやではなく、大火事の想定をしておいてこそ、普通の家屋の消火ができる。そういう意味ではH5の想定は悪くない」(岡部氏)
 H1N1対策の問題点については以下のような指摘がなされた。
 「日本の感染症対策は昔から微生物学者が中心。彼らは患者を診ることを専らとしていない。国内には臨床の感染症専門家が少ない」「行政官である厚労省の役人が技術的な調査を行うのはおかしい。素人の医系技官がプロフェッショナルな仕事をしていることが、日本の感染症行政の貧弱な体制の証明」(岩田氏)
 「新型インフルガイドラインがあって良かった。大まかな状況は分かる。ただ、時間がなく内容の詳細が伝わらなかった。十分なものとは言えませんでした」「インフルは分からないことだらけだと改めて分かった。一般的な病気ではあるが、研究は遅れている面が多い」(岡部氏)
 「流行の度合いに応じて最初は押さえ込みを図り、途中でスイッチを切り替える。その流れがまずかった」「ワクチンも問題。国産も輸入も最初は少量。それは仕方ない。使い方を細かく決めすぎ」(森兼氏)
議論の内容をどう生かすか
 議論の進め方についても、真っ向から意見が衝突している。
 「顔ぶれを見た時点で予測できた。検証や評価がなされていない。報告書の提出先である厚労省が事務局になっているのもおかしい」(森兼氏)
 「当初とまどいがあったが、最終的には生産的だった」(岡部氏)
 総括会議には前記の諮問委員会のメンバー5人も加わった。「当事者による総括」には疑問もあった。「総括会議は対策本部が主催すべき」との声もある。この点を岡部氏に確認したところ、同様の疑問は5人にもあった。当事者にしかできない総括を行い、結果を首相や所管大臣に上げることで了承したという。
 報告書についてはどうか。
 「一応はやりましたということ。どう見てもこれで終わり」(森兼氏)
 森兼氏は報告書の「無署名性」についても批判的だ。出席者の名前はおろか、議長の金澤一郎氏の氏名さえどこにも見当たらない。バイネームで仕事をする習慣のない霞が関特有の仕上がりになっている。この点は岡部・岩田氏も不備を認めた。
 岩田氏は会議の席で報告書に何らかの効力を担保させるべく発言をしてきた。現在はどう考えるのか。
 「議論されたことがどう生かされるのかに興味がある。今まではなし崩しになることが多かった。今、非常に危惧しています」(岩田氏)
 「会議の出席者が言いっ放しにするのではなく、国が総括会議の報告書にある提言を実行しようとすることが大切です」(岡部氏)
 いずれにせよ、足立信也・厚労政務官ら政治の意思で行政が施策を振り返った事実は残った。毎回、会場には傍聴人が殺到している。記事の性格上、厳しい意見を並べたが、各氏とも良い点は率直に評価している。H1N1対策は多岐にわたる。インターネット上の議事録や各氏の発信をぜひ確認していただきたい。
 もう一つ、自戒を込めて指摘しておきたい。パンデミック騒動の中で大々的に報道を続けた大手メディアがいまだに総括を行っていない点だ。自治体や医療機関、地方医師会なども独自に対策を振り返るべきだろう。各層の多発的な検証の積み重ねにしか、対策の充実の道はない。
 今後、残された課題は何だろう。
 「感染症のような刻々と変わるものに対し、刻々と判断し、動けるシステムが早く必要」(岡部)
 「感染症法を変えるべき。この法律は病気を患者でなく病原体で切っている。現場では違和感がある。根源的に何をしたいか、目的を明確にすべきではないか」(岩田氏)

2010年9月 1日 10:00 | 医療政策・厚生労働省・政治

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