SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「世界初認知症根治薬」に賭けるエーザイは勝てるのか

「世界初認知症根治薬」に賭けるエーザイは勝てるのか
勝てば官軍だが、急転直下の治験成功には疑問の声

エーザイは10月22日、提携先の米バイオ医薬大手バイオジェンと連名で、共同開発するアルツハイマー型認知症(AD)の治療薬「アデュカヌマブ」を来年早々に米国の食品医薬品局(FDA)に製造販売承認を申請すると発表した。

 臨床試験(治験)3相に成功、認知機能などの低下を抑制する良好な結果が得られたというのだ。

 驚きのニュースに株式市場は即座に両社の株価急騰で反応した。

 AD薬は複数承認されているが、エーザイの「アリセプト」を含めどれも患者の症状を一時的に少し緩和するだけで、効果は限定的だ。

 その意味で、ADの疾患根源に働き掛けて、ADに伴う記憶、言語など認知機能低下を抑制し、病気の進行を長期間遅らせるADの根治薬が待ち望まれるが、未だにない。

 もちろん20年来、製薬各社は研究開発にしのぎを削ってきたが、イーライリリー(米国)、ファイザー(米国)、メルク(ドイツ)、アストラゼネカ(英国)など世界の名だたるビッグファーマも結果を出せずに総討ち死の惨状続きだった。

 今年に入ってからも、ロシュ(スイス)が1月に、直前の9月には当のエーザイ・バイオジェン連合が治験3相にあった別のAD薬「エレンべセスタット」の開発に失敗、AD根治薬開発の難しさを思い知らされたばかり。そこに突然の治験成功、世界初のAD根治薬誕生の可能性の知らせ。世界が驚かないはずがない。

 実はアデュカヌマブは一度死んだ。今年3月、「開発を続けても成功の見込みが薄い」と第三者機関が勧告し、開発が中止されたのだ。わずか半年でのどんでん返しも驚きを増幅させた。

 しかし、なぜ半年で結果が逆転するのか、治験成功は本当なのか。こういう疑問も当然生まれる。

 これに対し、この薬の共同開発を主導するバイオジェンは、3月と10月で解析結果が異なるのは、基になるデータが違うからだと説明する。

 3月の中間解析は2018年12月26日時点で18カ月間(78週)の治験を完了した患者(被験者)1748人のデータがベースになった。

 10月の最終解析は、投与中止になった今年3月までの治験データが加わり、総勢3285人となったデータを基にしたというわけだ。

 治験途中での試験細部の変更も影響を及ぼした可能性が高い。

 試験は①プラセボ(偽薬)を投与する②アデュカヌマブを低用量投与する③同薬を高用量投与する——3集団に被験者をほぼ均等に割り振って、各集団での効果を検証する。

 高用量集団のうちAPOE4という特定遺伝子を持つ患者への投与量を副作用への配慮から当初は患者体重1㎏当たり6㎎(体重60㎏の人ならば360㎎)に抑えていたが、17年3月から最高用量の同10㎎(同600㎎)に増やした。17年3月以降は高用量群では10㎎の最高用量投与だけになった。

 アデュカヌマブは用量に比例し効果が高まる——会社の説明に従えば、高用量集団での10㎎最高用量投与データ比重が後になるほど増し、結果的に高用量群での治験効果が良くなるという理屈は、なるほどと一瞬思わせてしまうものだ。

2つの試験で結果は真逆

 しかし、それでも強い疑念が残る。

 実はこの治験3相は「エンゲージ」と「イマージ」の2つの試験からなり、最終解析で高用量集団の効果が真逆の結果になっているのだ。

 両試験は開始が1カ月ずれているのを除けば、被験者数、先述した3集団への被験者の割り振りもほぼ同じデザインになっている。

 要は同じ条件のはずが、イマージでは高用量群は認知機能などの低下をプラセボ対比で23%抑制、成功基準の20%を上回る大成功となっている。だが、エンゲージの高用量群ではプラセボより逆になんと2%悪化が進むという結果が出ている。

 そこで、バイオジェンは10回以上(毎月1回投与なので10カ月)連続投与の最高用量10㎎投与患者だけのデータを持ち出す。この限定データではエンゲージでもイマージ同様に高い認知機能など低下抑制効果が出ている。これを基に、バイオジェンは「エンゲージの結果もイマージと一貫性を持っていると信じる」と主張している。

 しかし、この限定データの基になる18カ月以上治験を受けた被験者数はイマージで127人、エンゲージでは97人だ。この少数のデータで統計的な有意性を示すには十分と言えるのか。さらには、都合の良いデータを後出しジャンケンのようにつまみだす手法への疑問も出ている。

 さらに詳細なデータは今年12月の国際学会で発表される。ここで2つの試験結果が真逆という「不都合な真実」を覆すに足る内容が出てくるかは、大きな焦点となるだろう。

 最終的に認可判断をするFDAがこれを認めるかはさらに大事になる。

 バイオジェンは6月、10月の2度、FDAと協議している。10月21日の協議を基に承認申請を決断、翌日にこの発表をしたという海外報道もある。FDAが承認まで確約するはずはないが、「申請にはゴーの感触を示した可能性がある」との見方もあり、この点は気になるところだ。

 「アデュカヌマブが開発を中止した時も、今回も非常に驚いた。2度死ぬような思いをした」。

 10月30日、エーザイの内藤晴夫・最高経営責任者(CEO)は中間決算説明会で自身の揺れる心のさまをつつみ隠さず明かした。

エーザイの命運も左右

 エーザイ・バイオジェン連合が持つ治験3相のAD新薬候補3つのうち2つが死んだ覚悟をした途端、そのうちの1つが思いがけず復活した。ADなど認知症・神経疾患分野に将来の命運を託すエーザイにとっては、これは僥倖以外の何物でもない。

 エーザイ主導で共同開発する、治験3相のもう1つのAD新薬候補「BAN2401」は強い毒性を持つアミロイドベータというたんぱく質がADの根源とみて、この除去でAD治療効果を狙う。同分類の薬アデュカヌマブが成功し承認されれば、BAN2401の開発や評価にも大きな追い風になるのは間違いない。

 1996年にAD薬で世界一番乗りを果たした「アリセプト」はピーク売り上げ3000億円超えを果たしエーザイの飛躍に大きく貢献した。

 その特許切れ以降は長く低迷が続いたが、米メルクとの大型提携もあり、抗がん剤「レンビマ」が今期は1000億円超の大型商品に急成長、メルクからの一時金・マイルストーン収入もあって、一息ついている。

 ただ、レンビマ効果も長くは続かない。その後の成長をAD薬に牽引させるのがエーザイの青写真だ。

 AD患者数は今5000万人。これが2050年には1億5000万人に膨らむ。大手の撤退が続くAD根治薬の一番乗りに成功すれば、未開拓の巨大市場が待ち受けている。

 しかし、失敗すれば逆に、世界的には中堅製薬にすぎず体力のないエーザイには、巨額のカネと長い期間を費やしてきただけに大打撃になる。

 もろ刃の剣のAD薬で、業界で数少なくなった勝負師・内藤氏が最後で最大の「大ばくち」に勝てるのか。その結果はまもなく見えてくる。

 

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top