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第116回 低用量ピルによる自殺・うつ病 

第116回 低用量ピルによる自殺・うつ病 

 低用量ピルの代表的な害として、本誌8月号で血栓塞栓症と高血圧を取り上げた。今回は、『薬のチェック』85号1)で取り上げたコホート研究2)の結果から低用量ピルの自殺への影響を取り上げる。血栓塞栓症と自殺やうつ病など精神症状とは一見無関係に見えるが、大いに関連があると考える。なおこの調査では全てのホルモン避妊剤が対象となったが、97%は内服の低用量ピルであった。

自殺に関するコホート研究について

 デンマークで、1996年から2013年の研究期間中に15歳に達し、精神疾患の病歴がなく、抗うつ剤の処方を受けておらず、15歳までにホルモン避妊剤を使用していなかった全ての女性が対象となった。約50万人(平均21歳)を平均8.3年間追跡し(390万人年)、この間に初めて自殺未遂(自殺企図)した人が6999人、自殺既遂が71人記録された。ホルモン避妊剤を一度も使ったことのない人(139万人年)と比較して、ホルモン避妊剤使用者(使用経験がある人を含めて213万人年)の相対リスク(RR)は自殺既遂が3.08(95%CI:1.34-7.08)、自殺未遂(自殺企画)は1.97(1.85-2.10)であった。自殺未遂の危険度は、開始から1〜2か月が最も高かったが(2.5倍)、開始から7年以上でも1.3倍と、なお有意であった。

 ホルモン避妊剤の使用経験があり現在は中止している人(40.6万人年)は、全く使ったことのない人に比べて、自殺未遂は3.4倍、自殺既遂は4.8倍起こしていた。不都合な症状があり中止したことで自殺の危険度も高くなったことがうかがえ、長期継続で危険度が下がっているのは、危険度の高い人が中止していくためと考えられる。

 年齢別では15〜19歳の危険度が最も高く、避妊剤の種類別では、プロゲスチン単剤や、高用量エストロゲン製剤で高い傾向がみられた。

 うつ病についても、同じグループから報告があった3)が、自殺の危険度が最も高かった使用中断者を、不使用者に分類したために危険度が低く見積もられており、紹介は割愛する。

発症機序について

 低用量ピルによる自殺やうつ病発症の機序については適切な説明はないが、性ホルモンは一般に精神への作用があり、エストロゲンには、それ自体、うつ状態を抑制する作用がある。しかし他方で、エストロゲンは血栓症形成作用があるので、低用量ピル服用後に高血圧になる人や、妊娠時に高血圧になったことのある人など血栓を形成しやすい素因者では、脳の血流が低下する。脳の血流量低下がうつ病発症の原因の1つとする仮説を支持する知見が、動物実験でもコホート研究でも報告されている。筆者自身が相談を受けた39歳の女性の例(正常血圧から高血圧とうつ病を発症の後、肺血栓塞栓症で死亡した)を薬のチェック85号1)では紹介した。

実地臨床では

 低用量ピルの処方に際しては、血栓塞栓症や高血圧だけでなく、うつ病や自殺の危険性が高まる可能性を本人や家族に話すとともに、それらの兆候があれば中止が必要である。さらに症状が消失しても再開してはならないことも肝に銘じておくこと。再開後は特に血栓塞栓症の危険度が高いからである。


参考文献
1) 薬のチェック、2019; 19(85): 110
2) Skovlund CW et al. JAMA Psychiatry 2018; 175(4): 336
3) Skovlund CW et al. JAMA Psychiatry 2016; 73(11): 1154

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