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対韓政策で「政経分離の禁じ手」に踏み切った日本

対韓政策で「政経分離の禁じ手」に踏み切った日本
「自由貿易の原則」唱える一方で「経済制裁」発動する是非

安倍晋三内閣は7月1日、「輸出貿易管理令」の運用を改定し、半導体生産に不可欠なフッ化水素とEUV(極端紫外線リソグラフィ)用レジスト、フッ化ポリイミドの3品目について韓国に輸出する際、これまでの包括的許可を改め、厳格な個別許可に移行させた。

 これによって輸出手続きが約3カ月も必要となることから、韓国にとって自国経済の切り札の1つである電子産業に大きな悪影響を与える。「輸出規制」というよりは、むしろ「経済制裁」として受け止められよう。だが、もしそうならこれほど杜撰な「経済制裁」もあるまい。何しろ、それを発動する名目がまるで不明確なのだ。

 7月24日にスイスのジュネーブで開催された世界貿易機関(WTO)の一般理事会で、日本の在ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使の伊原純一は、この措置が「安保上の理由で行なわれる輸出管理レベル」のものであると強調。経済産業省も、「韓国政府の輸出管理に不適切な事案があった」と主張している。ならば、通常行なわれる両国間の実務者協議などの事前折衝があってしかるべきだが、それがないままいきなり「経済制裁」となった。

 そもそも安倍は、7月3日に行なわれた日本記者クラブ主催の党首討論会で韓国の元徴用工訴訟を持ち出し、「1965年に(日韓)請求権協定でお互いに請求権を放棄した。約束を守らない中では、今までの(韓国への)優遇措置はとれない」などと語っている。伊原がWTOの場で「強制労働事案と無関係」と断言しているにもかかわらずだ。ならば「経済制裁」に踏み切ったのは、元徴用工訴訟に対する韓国政府の対応への「報
復」と見なした方が正確だろう。

 実際、経産相の世耕弘成は7月3日、安倍を代弁するように自身のツイッターで「旧朝鮮半島出身労働者問題について、G20までに満足する解決策が示されず、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない」と発信している。外には何やらおどろおどろしく北朝鮮を念頭にした「輸出管理」の問題のように装いながら、国内では韓国の文在寅政権叩きで、参議院選挙を前に有権者を煽っていたにすぎない。

輸出管理より参院選対策が本音か

 安倍がこんな二枚舌を弄しながら、「経済制裁」直後に実施されたJNNの世論調査で回答者の58%がこれを「妥当」だと回答しているのは、元徴用工訴訟について無知だからだ。

 このケースは昨年10月30日、韓国大法院で韓国の元徴用工4人が戦時中に強制動員で著しい人権侵害を受けたとして新日鉄住金を相手取り、損害賠償を求めた原告が勝訴した民事裁判の判決だ。

 三権分立の制度では司法の民事判決に対し、行政府は介入できないし、無論介入してはならない。にもかかわらず、昨年以降現在まで日本国内を席巻しているのが、あたかもこの判決が文政権の「反日姿勢」に責任あるがごときの、無知以前の言い掛かりに他ならない。

 安倍の「請求権」云々も、言い掛かりそのものだ。最高裁は1972年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄について、仮に国家としての賠償請求権=外交保護権が放棄された場合でも、被害者個人の「請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく」とし、「日韓請求権協定にも当てはまる」としている。

 外務省も、当然同じ立場だ。柳井俊二・条約局長(当時)が1991年に2度の国会答弁で、「「日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。従いまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」としており、現在まで変更はない。韓国大法院の昨年の判決も、基本的には「個人の請求権はある」との同じ司法判断に立つ。「約束を守らない」などという安倍の妄言は、自身に返るのだ。 

 実際、韓国の元徴用工と全く同じような境遇に戦前さらされた中国人に関しても、鹿島建設(2000年)と西松建設(09年)、三菱マテリアル(16年)は訴訟を契機に事実を認めて和解し、人権問題として認識して個人賠償に踏み切った。

 当然ながらいずれの和解にも政府は関与しておらず、今回も敗訴した新日鉄住金が判決に従えば本来済んだことだが、なぜ韓国の文政権に感情的非難が浴びせられるのだろう。

 ましてや歴史問題が背景にあり、他国の行政府が関与しない裁判所の民事判決を理由に、以前から「自由貿易の原則」を唱えてきた日本が「経済制裁」を発動する正当性は明らかに乏しい。だからこそ、国際的には「安保上の理由で行われる輸出管理レベル」などと言い出したのだろうが、では韓国側に「輸出管理」上どのような具体的失態があるのか。

 経産省によると、今回の措置の根拠なるものが、韓国による戦略物資の「第三国への横流しを意味するものではない」([産経]7月13日付)という。実際、韓国から国連安保理決議による北朝鮮などの制裁対象国に戦略物資が流出した例は、これまで報告されてはいないのだ。

 そのため、本音が「選挙対策」という安倍の魂胆は、国際的には見透かされている。その代表例が、ブルームバーグの「安倍晋三の希望なき韓国との貿易戦争」と題した7月21日付の配信記事だ。冒頭、安倍が参院選挙後に「まずやらなければならないのは、隣国の韓国に対して始めたバカげた貿易戦争をやめることだ」と酷評。その上で、「悪影響は安倍首相の評判悪化どころでは済まない可能性がある」とし、「日本のサプライヤーは市場シェアを落とし、信頼性でも評判を落とすだろう」と予想されるデメリットを指摘しながら、「明らかな妥協策は、日本側が輸出規制強化をやめ、追加措置の実行も我慢する」ことだとしている。

米メディアは日韓の対立を懸念

 さらに[ウォール・ストリート・ジャーナル]紙も7月3日付で「世界の半導体業界、今度は日韓関係が足かせ」と題した記事の中で、「日韓政府の対立がもたらした今回のサプライチェーンの混乱は、利益よりも政治的な要因が背景となっている」と指摘。「不透明で一方的な輸出管理方針の変更は、サプライチェーンの混乱や輸送遅延を引き起こしかねず、外国で操業する企業とその従業員にも長期的な打撃を及ぼす恐れがある」との「米企業団体」の声を伝えるなど、明らかに日本の措置に対する「迷惑顔」を隠していない。

 こうしてみると、安倍や安倍の「経済制裁」に喝采を送り、留飲を下げているかのような一部の風潮は、「世界の孤児」の姿に近い。だが8月2日には、安全保障上の輸出管理で優遇措置を取っている「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。こうなると今回、「長年かけて築き上げた両国間の経済関係を損ないかけないかと、深く憂慮している」(日本鉄鋼連盟会長・北野嘉久)という声が目立つ経済界の方が、理性的に思えてこよう。(敬称略)

 

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