SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第109回 株主総会でトップの不信任推奨が飛び出す醜態

第109回 株主総会でトップの不信任推奨が飛び出す醜態

虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 武田薬品は6月27日、20カ国・地域(G20)首脳会合の関係で恒例の大阪ではなく横浜で株主総会を開いた。アイルランドの製薬大手シャイアーの買収後の初の株主総会であり、買収前の昨年のそれよりも注目度は薄れたが、特筆すべきことが起きた。議決権行使助言会社の1つである米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が何と、社長兼最高経営責任者(CEO)のクリストフ・ウェバーに対する不信任推奨を表明したのだ。

 武田にしてみれば大恥をかかされた形だが、ISSが重要視したのは、武田の2019年3月期までの当期純利益を自己資本で割った自己資本利益率(ROE)が過去5年の平均でわずか3%、同社が推奨する5%に満たないという点に他ならない。アステラス製薬の同期連結決算のROEが17・59%であり、第一三共のそれが7・84%であるのと比較すれば、その低さは一目瞭然だ。

 当然、客観的に見てウェバーの責任と資質が問われても何ら不思議ではないが、いくら本人が強弁しようとも、ROEが改善する見通しはあまりに乏しい。武田が5月に発表した2020年3月期の業績予想では、約3830憶円の最終赤字を計上する。武田の説明によれば、これはシャイアー買収に伴って合計9330億円もの損失を計上しなければならないためという。買収に伴う費用は今後も引き続き計上しなくてはならず、損失は今後も派生していく。

「独立社外取締役」は機能不全か

 ならば、ROEの改善も望み薄で、ISSがウェバーの不信任推奨を表明したこと自体、さほど不自然ではないはずだ。しかし、これに対して総会前の6月17日、武田のホームページ上で、「最も大事なこの時期にこういった推奨が出たことについて、私は驚きを隠せず理解ができないことを表明する」と色をなして反論したのが、小松製作所相談役特別顧問の坂根正弘だった。坂根は武田の社外取締役でもあり、「独立社外取締役」が過半数を占める取締役会の議長を務めている。

 だが、反論にはROEという文字すら登場せず、「ごく一面の業績指標に焦点を絞った論議であり、当社のこれまでの業績推移や中長期の展望が正確に反映されていない」と決めつけながら、「シャイアー社買収に賛同頂いた90%の株主様の期待を無にするもの」といった、いわば「人情論」に流れているきらいが否めない。そもそも、ROEを「ごく一面の業績指標」と見なすのはいかがなものか。武田自身、他の多くの大手企業と同様にそれを重要な経営指標として位置付けてきたのではなかったか。これでは、いかにも反論として説得力を欠く。

 しかも坂根は、最大の案件であるシャイアー買収について、「私を含む全取締役が、ウェバー氏のこれまでの実績とシャイアー社との統合を成功裏に完了させる彼の決意と能力を信じて」、それに「賛同したのであります」と胸を張る。だが「独立社外取締役」であるなら、安易に「決意と能力を信じ」るようなことをせず、まず数字に裏付けられた経営分析に基づいて論議すべきだろう。そうでもしなければ、あえて「独立社外」を名乗る意味が薄くなる。

 逆に、坂根を含めて日産自動車取締役の志賀俊之ら計11人いる「独立社外取締役」全員が、坂根と同様に買収に異論の1つでも唱えた形跡がないのなら、取締役会の本来の機能が発揮されているのかどうか疑わしくなるというもの。何しろ武田の株価は昨春のシャイアー買収が取り沙汰される直前には一時6500円台をつけていたものが、今や4000円台を切っている有様だ。会社側の総会屋でもあるまいし、いくら「賛同したのであります」などと力説されても、ROEをはじめ数字の話が出てこない「取締役会議長」の反論は弱過ぎたはずだ。

創業家筋はウェバーのガバナンスを批判

 一方で、従来からウェバーとその前任者の長谷川閑史に対する歯に衣着せぬ辛辣な反対派として活動を続けてきた創業家筋の「武田薬品の将来を考える会」は今回の株主総会で、ISSとは異なりウェバーの不信任を求めはしなかった。6月25日に公表した「ウェバー社長への信任表明に対するコメント」では、「重要な経営判断を強行した責任者として、今後の新会社としての業績推移にしかるべき責任を全うして頂きたい」との立場を明らかにしている。

 だが、この「コメント」は坂根への「反論」という形をとりながら、ウェバーのガバナンスに対し根底的な批判を2つの視点から加えていた。1つは、「会社が述べている業績ならびに業績予想」についてであり、「配当金についてもEPS(注=一株当たり利益)やROEといった一般に公正妥当と認められる会計原則GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)に基づいた指標による経営並びに業績判断がなされて」おらず、「実際の配当資源となるEPSやGAAPベースのキャッシュフローに基づいた分析が株主に対して伝えられていない」ということ。

 2つ目は、シャイアー買収を賛同した昨年末の臨時株主総会に関してであり、その際に「買収価格の算出・評価方法について、株主に対する十分な説明がなされず、株主はいわば〝目隠しをされた状態〟で議決権を行使しなければならない状況にあった」としている。

 今回の株主総会を含め、この2点について武田側からの真摯な対応と説明があった形跡は乏しいが、もし「考える会」側に正当性があるのなら、ISSの不信任推奨など待たずともウェバーの社長兼CEOという地位は風前の灯だろう。

 結果的に取締役の選任をはじめとした会社側提案の6件の議案は総会で承認され、ウェバーの地位は微動だにしなかった。だが、買収後の「新タケダ」を運営していく上で、現執行体制は「重要な経営判断」に不可欠であるはずの前提をおざなりにしているという恐れを、依然払拭できてはいないように思える。

 それを踏まえるなら、米国で1970年代にコーポレートガバナンスを強化するために第三者的立場から経営を監視する狙いで誕生した社外取締役という制度は、武田で機能している気配がないという理解も可能だろう。少なくとも坂根の言動をうかがう限り、株主総会でトップの不信任推奨が飛び出すような醜態が再び演じられても、何ら不思議ではあるまい。(敬称略)

COMMENTS & TRACKBACKS

  • Comments ( 2 )
  • Trackbacks ( 0 )
  1. 最近の武田の
    先の6月27日(木)にパシフィコ横浜で開催された武田薬品の第143回定時株主総会における営業成績の報告書ついて一言。
    この株主招集通知書の35頁に記載されている「営業利益」は△15.2%、「当期利益」は△41.6%となっています。にも関わらず、それらの項目のすぐ下に、ご丁寧にもゴシック体の太字で、本指標は国際会計基準(IFRS)に準拠したものではありませんとの断り書きを付けて、私などには内容が全く分からない旧武田薬品の実質的な成長との項目を設け、Core Earningsは+38.7%などと表示しています。こんな都合の悪い数字を切り離した、見栄えが良いだけのCore EarningsとかCore EPSとかと言った指標を掲示する必要が何処にあるのだろうか?Weberとは、どんな破廉恥なことをしてでも17億円もの報酬を得ようとする輩なのだろうか?

  2. 武田薬品の今期(2018年度)の営業利益は△15.2%で、当期利益にいたっては△41.6%です。にも関わらず
    当年度の実質的な成長とのコメント付きで表示されている、Weberなど一部の武田経営陣にしか理解できないだろう「Core Earnings」では+38.7%となっています。Weberはこんな馬鹿げた数値を根拠にして17億円もの報酬を得ている。しかもこれらの表示はご丁寧にも、ゴチック体の太字で表示されている。こんな日本人をバカにした株主招集通知がかってあったであろうか?こんなことを臆面も無く行うWeberの取締役再任の反対推奨を行ったISSに対して、社外取締役である坂根は「理解できない」などとのたまわっている。こんな経営者が日本を代表する経営者とは、聞いて呆れるばかりである。現在の武田の経営陣を糾弾すべく監査役界、監督官庁、経済学会、同友会や経団連を中心とする経済界が声を挙げるべきです。当然、マスコミに期待したいところですが、武田の宣伝部のような記事しか書かない、書けない?日本経済新聞のようなところにはとても無理だと思うのは私一人であろうか?現在の武田経営陣は狂っているとしか表現出来ない。

LEAVE A REPLY TO panda⑤ CANCEL REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top