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未来の会

不正入試の東京医大で今年度合格者は「女性が大幅増」

不正入試の東京医大で今年度合格者は「女性が大幅増」
働き方改革がなければ「男女差是正」は一過性の恐れ

医学部の入学試験で女子や浪人生に不利な扱いをしていたことが明らかになった東京医科大学で、今春入試の男女合格率がほぼ等しくなったことが分かった。一部報道機関の調査では、他大医学部でも合格率の男女差は縮小。一連の問題により、医学部入試で長年慣行となってきた〝女性差別〟が是正された格好だ。ただ、「子育てをしながらの勤務や現場復帰は難しい」などとして、女性の医師養成を抑制してきた理由が解消されたわけではない。医師の働き方を効果的に見直していかなければ、「男女差是正」は一過性で終わる恐れもある。

 「今春の東京医大の受験生に占める合格者の割合は、男子19・8%、女性20・2%だった。ほぼ同率となり、これまでの入試で明らかに人為的な選別が行われていたことがはっきりした」(全国紙記者)。

 全国の大学医学部入試で男女差別が行われていたという疑惑は、東京地検特捜部による文部科学省の私大支援事業を巡る贈収賄事件をきっかけに発覚した。文科省の前局長が東京医大に助成金などの便宜を図る見返りに息子を合格させてもらったとする事件の捜査の過程で、東京医大医学部医学科の入試で、前局長の息子を含む一部の受験生に不正に加点していたことや、女子や浪人生に対して不利な取り扱いをするなどの得点操作をしていたことが分かったのだ。

 文科省は全国81の医学部に調査を行い、東京医大の他、順天堂大、日本大、昭和大、神戸大、岩手医科大、福岡大、金沢医科大、北里大の9校で不適切な入試が行われていたと認定。聖マリアンナ医科大にも疑いがあるとしたが、同大は疑惑を否定。再調査などを行った現在も否定し続けている。

男子合格率は女子の1・09倍に縮小

 聖マリアンナ医科大の言い分はともかくとして、不正入試発覚の震源地となった東京医大では今年、女子だけでなく3浪以上とみられる21歳以上の合格率も大幅アップした。となれば気になるのが、「不正」を認めた他大学の合格率である。

 こうした世間の疑問にいち早く答えたのが朝日新聞だ。「朝日新聞は全国医学部に独自調査を行い、その結果を5月に記事化した。記事は不適切と指摘された医学部で特に、男女の合格率の差が縮まっていたことを伝えていた」(医療担当記者)。

 文科省の調査では、2018年度の医学部入試の男子の合格率は全体で女子の1・22倍。ところが、朝日新聞の調査では回答のあった全国78大学で、男子の合格率は女子の1・09倍に縮まっていたのである。

 「不正」を認めた各大学を見てみよう。まず、「男子は女子に比べて精神的な成熟が遅い」などと摩訶不思議な屁理屈で男子優遇を説明した順天堂大は、後日公表するとして朝日新聞の調査に回答せず。とはいえ、同大関係者によると「1年次は学生寮に入るのだが、今年、一気に女子寮が満員となった」とのことで、例年より女子の合格者が増えていることは間違いないようだ。

 同じく女子差別をしていたと文科省に認定された北里大は、18年度の男子の合格者は女子の0・86倍と前年度から女子の方が多かったが、19年度も0・78倍とやはり女子の合格率が高かった。

 一方、18年度との差が大きく出たのは日大だ。19年度の男子の合格率は5・73%なのに対して、女子の合格率は6・6%と男子を上回ったのだ。18年度は男子が女子の2・02倍合格していた計算になるが、19年度は0・877倍と女子が上回った。

 疑惑を否定してきた聖マリアンナ医科大も、前年度は女子を上回っていた男子の合格率が19年度は11・67%となり、女子(14・78%)の合格率を下回った。

 卒業生の子どもなど特定の受験生を優遇していたことは認めたが女子差別は認定されなかった昭和大も、18年度は男子が女子の1・49倍合格していたが、19年度は女子の方が上回る「逆転現象」を起こした。

 特定の受験生を優遇したり浪人生を不利に扱ったりしていたことが認定された岩手医科大、金沢医科大、福岡大は大きな変化がなく、神戸大は逆に男子の合格率が上がる結果となった。

 この問題を取材してきた全国紙記者は「もちろん不正が正された側面もあるだろうが、筆記試験はともかく面接の評価は元々曖昧なものだ。女子差別をしていると思われたくないという大学側の意向が強く反映され、結果的に女子受験生を優遇してしまう結果になった可能性もある」と分析する。一連の問題を受けて、大学側が面接による選考基準を変えた可能性が高いというのだ。

集団提訴に加え、個人提訴も相次ぐ

 一方、文科省は6月、大学入試の基本的ルールとなる「2020年度大学入学者選抜実施要項」に、「合理的理由がある場合を除き、性別、年齢、現役・既卒の別、出身地域などの属性」を理由に一律に差をつける不適切な合否判定をしないよう明記。大学入試の公正さを確保するよう改めて求めた。文科省を舞台にした汚職事件を発端に発覚した不正入試問題に文科省自身が決着を付けた格好だが、これにて一件落着とはいかないのが、これまでの入試で不利益を受けた受験生達だ。

 「既に東京医大に対して複数の元受験生が集団提訴しているが、別の元受験生の女性が6月5日、東京医科大、昭和大、順天堂大を相手取り計約3600万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした」(全国紙記者)。昭和大、順天堂大への提訴が明らかになったのは初めてだ。

 女性は国立大卒業後に社会人経験を経て、18年度入試で3大学を受験。いずれも不合格だったが、不正入試問題発覚後の各大学の調査で、性別や年齢を理由に不合格とされていたことが分かった。19年度入試で別の医学部に合格し、東京医大からは補償として100万円、昭和大、順天堂大からは受験料が返還されたが、「受験勉強を続けたため1年間を無駄にした。なぜ差別されなければならなかったのか、理由を説明すべきだ」として提訴を決めたという。

 「他にも、東京医大から追加合格との通知を受け入学を希望したものの、定員に達したとして断られた女性が提訴を検討していると聞いている。19年度入試で是正されたとはいえ、法廷闘争は数年続く。喉元過ぎて再び女子や浪人生を不利に扱い始めたら、大学側はしっぺ返しに合うだろう」と前出の記者。

 子育てをしながら大学病院で長年勤務した女性医師は「外科や産婦人科など厳しい診療科に女性医師は少なく、眼科や麻酔科などに偏りがちだ。私が働いた大学病院でも、女性医師が長く勤めるのは大変だった。入試が是正されれば今後、女性医師が増えていくわけで、家庭と両立できる働き方を全診療科、全医療機関に広げる必要がある」と訴えている。

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