SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

実効性疑問視される「就職氷河期世代」への就労支援

実効性疑問視される「就職氷河期世代」への就労支援
数値目標よりも継続的な伴走型支援が求められる

政府はバブル崩壊後の不況期に就職した30代半ばから40代の「就職氷河期世代」の就労支援に乗り出した。深刻化する企業の人手不足に備えるという経済政策的な側面が強い。ただ、経済界の一部からは「人手不足を埋めるために女性、高齢者、外国人と来て、次に就職氷河期世代の非正規の人達にお鉢が回ってきたが、企業が求めるスキルのある人材がどれだけいるだろうか」と実効性を疑問視する声が早くも上がっている。

 就職氷河期世代は、「団塊世代」(1947〜49年生まれ)の子どもにあたる「団塊ジュニア」(71〜74年生まれ)とそれに続く75〜84年生まれが中心で、バブル崩壊後の1993〜2004年頃に大学や高校を卒業した世代を指す。不況の煽りを受け、新卒時に正社員として採用されず、フリーターなど非正規採用で不安定な働き方を続ける人が多い。約1700万人いる35〜44歳のうち、非正規で働く人のは317万人、フリーターは52万人、職探しをしていない無業の人も40万人に上る。地方の中小企業を中心に深刻化する人手不足を埋める狙いがある他、雇用を安定化させることで高齢になって生活困窮に陥るのを防ぎ、将来的な社会保障費の膨張を抑えたい意図もある。

 政府の対策は、5月31日の経済財政諮問会議で打ち出された。それによると、都道府県や労働局、経済団体が連携し、人手不足が深刻な運輸や建設業などを中心に、短期間で職業訓練をしたり、資格を取得したりできる仕組みを拡充し、就労まで一括して支援する。長期にわたって働いていない無業の人やひきこもりの人についても、市町村を中心に専用の支援拠点を増やして社会参加を促す内容が盛り込まれた。さらに、35歳以上の就労困難者を受け入れた企業に支給される助成金の対象要件を緩和し、人材紹介会社が教育訓練などを行って正社員としての就職に繋げる事業も創設する。

3年間で正規雇用30万人増の数値目標

 初めてとなる数値目標も掲げており、3年間で正規雇用者を30万人増やす方針を経済財政運営の指針「骨太の方針」に盛り込んだ。現在でも年間5万人の正規雇用者がこの世代の非正規から増えている計算で、3年で倍増を目指すというのだ。支援対象となるのは、正規の仕事を希望しながら不本意ながら非正規で働く約50万人に加え、求職活動に至っていないが就職を希望する人、ひきこもりなどの状態から社会参加などが求められる人を合わせた約100万人だ。

 こうした政府方針が打ち出されると、インターネット上では大きな反響を呼んだ。ネットには、「何をやっても遅いし、焼け石に水だ。急に救済しようとしたところで時間は戻らず、都合のいい発想にすぎない」や「参院選前の矢継ぎ早の政策だ。いまさらと感じてしまう」、「あと10年早ければまだマシだろうが、結局戦力にならず、本人のダメージも大きくなるのでは」と政府の対策の遅れを責める内容が多い。「この世代は政府の犠牲者だ。本当に気の毒だと痛感している」や「就職氷河期の人達は能力的に問題があるから非正規になったわけではない」などと同情する声も散見された。

 さらに、「30万人を正規雇用できるのか疑問。政策は失敗するかもしれないが、将来的に生活困窮者が続出する可能性を考えれば、この世代を救済することは喜ばしい」や「マネジメント経験もなく、長期にわたる実務経験がないとなれば、民間は取らないだろう」といった実効性を問う意見もあった。書き込みがあふれる状況からは、世間からの関心の高さがうかがえる。

 首都圏に住む40代女性は、就職氷河期世代の影響を大きく受けた一人だ。中堅私大を卒業後、東京都内の中小企業に就職したものの、職場に馴染めずに数年で離職した。その後は精神疾患を患い、就職できず実家暮らしを続けている。ひきこもりの状態は20年近くに及ぶ。同居する70歳前後の両親は健在だが、今後は親の介護が必要になりかねない。50代になったひきこもりの人達が80代の親の生活に依存することも限界になる。女性の父親は「自立してもらえればありがたいが、すぐには難しい。子どもの将来を考えると不安で仕方がない」とこぼす。この女性も「できれば働いて親元から自立したいが、自分の今の状態ではそう簡単にはいかないだろう」と明かす。

急ごしらえで既存施策の寄せ集め

 実は政府の氷河期対策はこれが初めてではない。03年には若者フリーター対策に乗り出し、06年には第一次安倍政権が「再チャレンジ」と銘打って非正規雇用対策を公表。その後も各地の労働局に「わかものハローワーク」を設置した。厚生労働省幹部は「ずっと氷河期世代を追い掛けて対策を打ってきたが、特効薬はない」と漏らす。

 業界の受け止めは様々だ。介護業界は「40代はまだ若いので、働きに来てくれれば本当にありがたい」と歓迎するが、建設業界からは「現場で必要なのは技術や経験で、体力や給与などの待遇面で求職者の希望に沿えない可能性もある」とミスマッチする可能性を指摘する声も上がる。

 今回の支援策をまとめるきっかけとなったのは、3月27日の経済財政諮問会議で安倍晋三首相が「国を挙げて支援していく必要がある」と指示を出したことだ。短期間でまとめた急ごしらえの対策は、既に実施している施策をかき集めたものにすぎず、「新味は乏しい」(内閣府幹部)。助成金を拡充したところで現在の執行率は低く、建設や運輸、農業といった人手不足が深刻な分野で生かせる資格取得を支援するが、労使双方のニーズも定かではない。有識者からは「従来の支援策がどういう層に行き届き、どこに十分でないかを検証した上で新たな政策を行わないと有効な対策にならないのではないか」と指摘する声も上がっている。

 数値目標として打ち出した30万人にとらわれれば、ハローワークなどでの就職支援が就職できそうな人に偏りかねない。こうした事態を避けるため、厚労省内からは「職員には数値目標は気にせずに就労支援してほしい、と呼び掛けたい」(幹部)と自嘲する声も出ている。数値目標の設定は官邸官僚が主導した結果で、政府内でもその必要性に対する見解の不一致がみられる。

 政府に求められるのは、すぐに効果が出ないと諦めず長い目で当事者に寄り添った支援を続ける必要がある。経済財政諮問会議では民間議員が「人生再設計第一世代」と命名してインターネットで炎上するなど、世間からはまるで共感を得られなかった。政府は「上から目線」による支援の押し付けではなく、継続的な伴走型の支援が求められるだろう。数値目標はこうした分野にこそ求められるべきだろう。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top