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第20回 統計不正で終わらない「労働官僚の不祥事」

第20回 統計不正で終わらない「労働官僚の不祥事」

 統計不正問題で通常国会を炎上させた厚生労働省だが、同じ労働部門でさらなる不祥事が止まらない。韓国の空港で酔って暴言を吐き、労働基準局の武田康祐・前賃金課長(1995年、旧労働省)が現行犯逮捕されたのに加え、中央労働委員会の不当労働行為に関する命令書の内容を交付前に報道機関に「漏洩」したとして中労委の苧谷秀信・事務局長(83年、旧労働省)が「戒告」の懲戒処分を受けたことが相次いで公になったからだ。労働官僚の失態続きに、厚生官僚からは「一体、労働官僚は何をやっているんだ」と冷めた声が漏れている。

 武田氏は、3月7日に自民党の議員連盟の会合で、省内で擦り合わせぬまま、外国人受け入れ拡大に合わせ、受け入れ業種ごとに最低賃金を全国一律で導入すると勝手に説明。同日午後の菅義偉・官房長官の会見で「現時点で検討していない」と強く否定されたことを受け、休暇を申請して勝手に韓国に渡航し、酔って大立ち回りを演じた。帰国後は官房付に更迭され、「アルコール依存症で入院中とも、自宅療養中とも聞く」(厚労省関係者)という話もある。

 ある中堅職員は「元々、酒好きで有名。遅かれ早かれこうしたことを起こすのではないかと思った」と漏らす。武田氏は明治大卒ながらキャリア官僚に採用された「苦労人」だが、事情に詳しい厚労省関係者は「同期の中では早くに課長になったものの、労働官僚の世界では伝統的に若手を幹部登用に向けて『選抜』するのだが、その中に武田氏は入っていなかったようだ。今回の件は、最低賃金の構想を上司に潰されたことがきっかけとみられており、日ごろの鬱憤が溜まっていたのだろう」と解説する。

 一方の苧谷氏は、生来の口の軽さが災いした格好になった。苧谷氏は、灘高、東京大法学部卒業のエリート官僚だが、「指示が細かく、パワハラをする人物として昔から有名」(ある労働官僚)で、武田氏と同様に労働官僚の「王道」を歩むことはなかった。3月中旬、大手コンビニチェーンとフランチャイズ契約を結ぶ店主らの団体交渉に関する中央労働委員会の命令を店主らに伝える前に日本経済新聞に漏らして戒告の懲戒処分を受けた。苧谷氏は「命令の内容を事前に説明するものと勘違いした」と釈明しているが、苧谷氏のマスコミ好きは有名で「自己顕示欲が強いタイプで自分を優秀だと思い込んでいた。自分を過信し過ぎる傾向があり、うっかりしゃべってしまったのだろう」(大手紙記者)とみられている。

 夏の幹部人事を前に、労働官僚のうち「無傷」の幹部は少ない。宮川晃・厚生労働審議官(83年)と定塚由美子・官房長(84年)は統計不正問題で「深手」を負った。局長級のポストにいる苧谷氏も、今回は時期的に「致命傷」になるとみられる。坂口卓・労働基準局長(85年)らは無傷に近いが、年次的に次官級ポストを狙うには早く、「根本匠・厚労相の評判も良い」(省幹部)とされる藤澤勝博・政策統括官(84年)が「棚ぼた」的に上を狙える立場に残ったといえる。

 幹部を早くから「選抜」し、優秀な人材を広く育ててこなかった旧労働省の慣習がここに来て裏目に出てきた格好になったが、最終的な「ツケ」を払わされるのが国民では納得がいかないだろう。

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