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第107回 シャイアー買収戦略を揺るがす「特許侵害裁判」

第107回 シャイアー買収戦略を揺るがす「特許侵害裁判」

 武田薬品が1月8日に、アイルランド製薬大手シャイアーの買収手続きを完了してから、はやくも4カ月近くが過ぎた。日本企業として類のない6兆6000億円という海外企業のM&A(合併と買収)で大いに注目を浴びたが、その後聞こえてくる話は、武田やその株主にとって芳しくないものばかりだ。

株式市場は巨額買収を評価せず

 株価の低迷も、その一つ。4月26日(15時)段階で、4112円。武田は昨年12月5日に臨時株主総会を開き、シャイアーの買収が承認されたが、皮肉にもその2日後に4000円を割り込んで3926円となった。武田の株が4000円を割り込むのは2013年1月以来約5年11カ月ぶりだったが、このままでは再び4000円を割り込む可能性も否定できまい。

 1年前と比較しても、約600円安。昨春に買収計画が明るみになって以降、買収手続きの完了を経て今日に至るまで、市場にとっては武田の好材料が見出し難いということか。

 しかも武田の株価は、株を大量に買って株価を支える官製相場を演出しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の保有株式構成銘柄。武田の株価は業績実態から見てよりかさ上げされているのは間違いなく、本来であればこの間、4000円以下で低迷していてもおかしくはない。

 ちなみに、18年4月3日の終値を100として指数化してみると、武田は今年3月末で10ポイント以上のダウンだが、第一三共は1・5倍近く上昇している。少なくとも市場の反応で見る限り、武田の巨額買収は評価されていないということだろう。特に今回の株価の下げは、4月25日に発表された19年3月期の連結税引き前利益(国際会計基準)の予想下方修正が影響している。

 また報道によると、「武田薬品工業は25日、2019年3月期の税引き前利益の予想を下方修正し、昨年10月末時点の前回予想を1502億円(61・3%)下回る950億円になる見通しだと発表した。前年実績を56・3%下回る大幅減益となる。1月に6・2兆円で買収したアイルランドの製薬大手シャイアーの収益が加わり、売上高は前回予想を3470億円(19・8%)上回る2兆970億円に上方修正した。一方、買収に伴う借金の利子や、シャイアーが持つ資産や特許などの償却費を計約3120億円計上するため、税引き前利益の予想は引き下げた。武田は主力製品の売り上げが好調で、シャイアーの影響を除いたベースの税引き前利益は、前回予想を920億円(34・7%)上回る3570億円となる見通し」(朝日新聞デジタル版4月26日付)という。

 既に武田には、巨額M&Aのツケがずっしりとのしかかってきた形だが、何やら今後の前途不安を暗示するような話題は他にもある。米国デラウェア州連邦地裁の陪審は2月初め、武田のグループ会社であるバクスアルタに対し、ドイツの製薬会社バイエルの血友病治療薬に関する特許を侵害したとして、約1億5500万㌦(約170億円)の賠償金支払いを命じる評決を下した。

 武田にはダメージとなるが、バクスアルタは元々、シャイアーが16年1月に約320億㌦(約3兆7600億円)で買収した会社だ。シャイアーが20年あまりの間に買収した約20社中で買収額が最大だったのは、これによってシャイアーが血液・免疫・腫瘍の治療領域に進出できて従業員が3倍になり、臨床開発プログラムと臨床パイプラインを拡大できたからだ。今日における世界最大の希少疾病用医薬品メーカーとしてのシャイアーの地位は、バクスアルタの買収なくして考えられない。この買収がなかったならば、おそらく武田がシャイアーに手を出すことはなかったろう。

「希少疾病治療薬に強い」は眉唾物

 一般に、武田はシャイアーが持つ希少疾病治療薬の豊富さに惹かれたといわれているが、そのうちの血友病治療薬はバクスアルタが切り札としていた。ところが、バクスアルタの血友病治療薬がバイエルの特許を侵害したものであったら、一挙にバクスアルタ、そして同社を買収したシャイアーを挟んで親会社となった武田にも影響してくる。

 なぜなら、シャイアーの旗艦商品となっているバクスアルタの血友病治療薬「アドベイト」はシェア35%を占め、約3000億円もの年間売上を稼ぎ出す。それが特許侵害とされたら販売に陰りを投げ掛けることになり、ひいては武田のシャイアー買収後の展開にも関わってくるからだ。

 そのバクスアルタは17年5月に、やはりデラウェア州連邦地裁において、中外製薬に対し、自社の血友病A治療薬の特許を侵害したと訴えている。ところがバクスアルタは奇妙にも、18年9月になって中外製薬の訴え取り消しを同地裁に求めたため、訴えが却下となった。

 中外製薬といえば、開発に成功した画期的血友病A治療薬「ヘムライブラ」を、製薬会社のグローバルランキングで売上高トップのスイス・ロシュが総力を挙げて昨年2月から販売中で、シャイアー・バクスアルタの「アドベイト」の牙城を崩しつつある。バクスアルタが中外製薬を訴えたのも、何か牽制めいた意図を感じさせる。

 いずれにせよ今後、シャイアーの旗艦商品が揺らぐことになってもおかしくはない。同時にそれは、疑いなく武田のシャイアー買収戦略の揺らぎともなる。加えて、バクスアルタを訴えたバイエルも2月、血友病Aを対象にした半減期延長型の遺伝子組み換え型血液凝固第8因子製剤ジビイ静注用を発売。武田にとっては、こちらの趨勢も気が気でないはずだ。

 こうして見ると、買収手続き完了から4カ月ほどで、武田が6兆6000億円を投じたM&Aの最大の理由付けとした「シャイアーが希少疾病用医薬品に強い」という見立ては、極言すれば「眉唾物」になりつつあるのではないか。市場の変わらない冷ややかな反応も、案外そうした事情を見切った結果なのかも知れない。

 武田は11年、スイス製薬のナイコメッドを「素晴らしい新薬メーカー」という触れ込みで1兆1000億円も投じて買収したが、あれから8年経っても、武田の「新薬」開発に何ほどかの貢献となったという話題を寡聞にして知らない。累々たる日本企業の巨額海外M&Aの失敗の山に、武田がまた一つ実例を重ねても不思議ではないが、シャイアーはナイコメッドと違って命取りになる。

 ウェバーは「2025年まで武田の社長をやる」と宣言したようだが、その年か前後に懸念される買収の不首尾が露呈したら、どう責任を取ることになるのだろうか。一時流行った「ドッグイヤー」という用語は、何もIT関連の世界だけには限らなくなっていると思われるが。   (敬称略)

 

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