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社会生活を目指す新時代の「精神科医療」 ~患者に寄り添い自然治癒力を引き出す~

社会生活を目指す新時代の「精神科医療」 ~患者に寄り添い自然治癒力を引き出す~
長瀬輝諠(ながせ・てるよし)1944年神奈川県生まれ。70年日本大学医学部卒業。92年医療法人社団東京愛成会高月病院院長(現職)。98年一般社団法人東京精神科病院協会(旧社団法人東京精神科病院協会)常務理事(現職)。2003年日本精神神経学会評議員。10年公益社団法人日本精神科病院協会(旧社団法人日本精神科病院協会)副会長(現職)。同年厚生労働省「医療計画の見直し等に関する検討会」委員。13〜15年中央社会保険医療協議会委員。19年4月日本病院団体協議会議長。

日本の病院団体がまとまる日本病院団体協議会(日病協)の議長に、日本精神科病院協会副会長の長瀬輝諠氏が就任した。2020年度の診療報酬改定や医師の働き方改革について、さらには日本の精神科医療の最近の状況について話を聞いた。かつては統合失調症が中心だった精神科医療は、うつ病、認知症、発達障害、依存症などに守備範囲を広げ、多くの患者を受け入れる診療科に変わりつつあるという。


——日病協の新議長として、どのようなことに取り組まれますか。

長瀬 診療報酬改定に向けて、病院団体の要望を訴えていくことになるわけですが、平成17年(2005年)に日病協(日本病院団体協議会)が結成されたのは、厚生労働省の医療課から、病院団体の意向を聞きたいのでまとまってほしいという話があったからです。その当時から私はずっと関わっているのですが、とにかく病院団体にまとまってもらって、診療報酬に関する意向を聞こうということでした。病院団体が全てまとまるには、緩やかな連合という形をとるしかありません。結成当初から、そういうやり方でまとまってきたわけです。新議長として、私もこれまで通りに、緩やかな連合として組織を運営していくつもりでいます。それぞれから意見を聞き、その最大公約数的な要望を出していくというわけにはいきません。今までもそういう形にはしていませんからね。出てきた要望をなるべく網羅するような形になっています。

——診療報酬に長く関わってこられたのですね。

長瀬 日病協でも診療報酬に関わる仕事をしてきましたし、中医協(中央社会保険医療協議会)委員も務めました。診療報酬に関わるようになったのは、日病協ができる前からです。日本精神科病院協会で、精神科病院を対象に診療報酬の問題に関わってきました。平成7年(1995年)頃からです。

——次の診療報酬改定で大きな問題になるのは?

長瀬 やはり控除対象外消費税の問題でしょう。病院団体にとっては重要なテーマです。日病協は、控除対象外消費税について、診療報酬で補填するのは難しい、別の形で何とかならないかと、ずっと以前から言ってきています。しかし、昨年暮れにまとまった自民党の税制大綱で、精緻化して現在のように診療報酬で補填する形になりました。しかし、この形のままで良いとは思えません。やはり、控除対象外消費税については、どこかの時点で抜本的な改革が必要になると思います。そのあたりのことは、今後、消費税がさらに上がる時には考えなくてはならないでしょう。このままの状態が続けば、いずれ病院が潰れてしまうと思います。

——次期改定に向けての具体的な要望は?

長瀬 代表者会議の下にある実務者会議で練ったものを取りまとめ、5月に厚労省へ要望書を提出しました。やはり控除対象外消費税の解消が柱です。

AI(人工知能)で医師不足を補えるか

——医師の働き方改革はうまく進むでしょうか。

長瀬 医者の仕事というのは、一般の人達の仕事のように、労働時間内に全てが終わるというものではないと私は考えているのですが、そういう難しさがあります。今回決まった時間外労働規制も、原則としては年間960時間までで、特例を認められた場合は年間1860時間となっています。そういう形にせざるを得なかったのでしょう。適用されるのが5年後の2024年4月ですから、それまでにこれを実現できるようにするのは、結構大変ではないかと思います。

——働き方改革が進んで医師の労働時間が短縮された時、医師不足が起きませんか。

長瀬 当然、問題は起きてくるでしょう。これだけのことをしようというのであれば、医師を増やさなければ無理だと思います。医師を増やさなければ多分目標は達成できないし、大変な状態になりそうな気がしますね。医師の数は簡単に増やせるものではありませんから。

——AIは医師不足を補うのに役立つでしょうか。

長瀬 もちろん医療にもAIが活用されるようになるでしょうし、仕事の内容によっては、優れた能力を発揮してくれるのでしょう。しかし、それが医師不足の解消に役立つのかといえば、かなり限定的であると言わざるを得ません。AIの活用が進むのは、まだまだこれからですから、5年後のことを考えると、そう大きな期待はできないと思います。それに、AIが導入されるとしても、まずは精神科以外の一般診療科でしょう。特に先進的な医療を行っているような病院が、導入を進めるかもしれません。精神科領域では、AIを活用するのはなかなか難しいのではないかと思います。

「入院から地域へ」を阻む差別と偏見

——近年、精神科病院の入院患者を退院させて地域へ戻す取り組みが行われてきましたね。

長瀬 厚労省が「入院から地域へ」と言い始めたのは、平成16年(2004年)だったと思います。その時点で大きく舵を切ったと言えます。それまでも、患者さんを退院させ、社会復帰を目指すことが大切だということは多くの人が考えていたし、そうした努力も行われていました。ただ、精神科病院の入院患者が増えてしまったのは、元々は国がそれを推し進めたからなのです。

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