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第133回 残業時間の上限規制で勤務医の大都市流入が加速か

第133回 残業時間の上限規制で勤務医の大都市流入が加速か

 厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書が3月28日、まとまった。焦点だった一部病院勤務医の残業時間の上限規制は、特例で年1860時間(月155時間)とし、過労死認定の目安(月80時間)の2倍近い残業を容認した。厚労省の吉田学・医政局長は「医師の長時間労働に支えられた今の危機的な状況を是正する必要があった」と振り返ったが、多くの委員は「これがスタート」との認識を示した。

 報告書は残業の上限について、A〜Cの3つの水準に分けている。標準のAは年960時間で一般労働者と同水準。一方、地域医療を守るための特例とするB、研修医など一定期間技能向上のための特例とするCはそれぞれ年1860時間とした。「連続勤務時間」を28時間までに制限し、次の勤務までの時間(インターバル)を9時間(当直時は18時間)とした他、Bは35年度末の廃止を目標としている。

 Bに該当するのは全国8000の病院のうち1500程度。いずれも詳細を詰めた上で、大手企業の労働者より5年遅い24年度から適用される。

 医師の健康確保や労働時間短縮を求める立場から賛同できないとする意見があった——。報告書にはそんな一節がある。2017年8月に始まった同検討会では、病院代表など医療側が急激な規制への慎重論を唱えたのに対し、労働側は「長時間労働は診断や治療に影響する」と猛反発。最後は「現実的に守れる基準でないといけない」(厚労省幹部)との意向が通ったものの、現場の勤務医や過労死した医師の遺族らも反対を訴え、最後まで意見は一致しないままだった。

 厚労省の16年調査によると、勤務医の1割以上が年1900時間超の残業をしている。11〜15年には11人の医師が過労死と認定された。3000時間近い残業をする医師もおり、医療現場からは「もう限界」との声も上がる。それなのに長年放置されてきた背景には、深刻な医師不足がある。医師数を据え置いたまま個々の労働時間を短縮すれば、地域医療が崩壊するという危惧だ。

 労働時間の漸減と並行し、厚労省は「医師の偏在」の是正で医師不足を緩和する両面作戦を立てている。人口構成の予測や受診率などを基に「医師偏在指標」をはじき、上位16都府県を「医師多数区域」、下位16県を「医師少数区域」に指定した。下位16県には、大学医学部の「地域枠」を重点的に割り当てる。医師の業務を看護師、介護職に移管する「タスク・シフティング」や、過剰受診を控えるといった国民の意識改革も進める意向だ。

 「医師の献身的な自己犠牲で地域の医療が回ってきた。行政も国民もそこに甘えてきたのは事実だ」と厚労省幹部は言う。偏在解消の目標時期は36年。ただ、この時点でも全体の3分の2の地域で計約2万4000人の医師不足が見込まれるという。地域の医療現場では「残業時間の上限規制を守るには医師の数が必要となる。ますます勤務医は大都市に流れてしまう」(熊本県の病院長)と懸念する声も強い。

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