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未来の会

第106回 シャイアー買収完了3カ月で早くも役員退任

第106回 シャイアー買収完了3カ月で早くも役員退任

 クラウゼビッツの名著『戦争論』は、以前から軍の将校クラスの必読書であるのみならず、その目標設置と達成に向けたダイナミズムの緻密な理論化は多くの経営者を引き付け、ビジネスの指針としても読み継がれている。

 特に、その戦略・戦術の概念は、企業の研修やセミナーで登場する機会も少なくないようだ。クラウゼビッツによれば、戦略とは「戦争の目的を達成するために、諸戦闘を配分・結合する活動」であり、戦術とは「個々の戦闘を指導する活動」を指す。当然、戦略は戦術の上位概念であり、より大局的かつ長期的な判断が必須となるはずだ。それもあって、ビジネスの世界でも戦略という用語がよく登場する。

 武田薬品も例に漏れず、事実上の最高意思決定機関である「タケダ・エグゼクティブチーム」を、「将来を見据えた的確な戦略策定を実施」すると説明している。

「戦略」の中枢がコロコロ変わる不思議

 だが、「戦略策定」と銘打つ以上、「将来を見据え」るのであれば、「的確」さ以上に当面する問題とは別の次元での長期的な視座が不可欠となるだろう。ならば、かねてから指摘されているように、「戦略策定」を司る「タケダ・エグゼクティブチーム」の役員が、企業会計の中枢を担う「チーフ・フィナンシャル・ オフィサー」を筆頭にコロコロ変わるのは解せないはずだ。

 武田は昨年12月5日、アイルランド製薬大手シャイアーの買収の是非を問う臨時株主総会を開いた当日に、「ビジョン2025 優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する」と題した株主総会用資料を発表した。そこには、「統合プラン」という項目があり、「グローバルかつ多様性に溢れた経験豊富な新タケダ・エグゼクティブチーム(TET)」の役員が紹介されている。そして「統合完了後」とあるから、シャイアー買収が承認されるのを前提に、買収後の人事を公にしたものだ。

 ところが、武田が「シャイアーの買収を完了した」と発表した1月8日から3カ月もしないうちに、早くも「タケダ・エグゼクティブチーム」の役員が代わっている。「グローバルオンコロジービジネスユニット」担当のクリストフ・ビアンキ(フランス人)がいなくなり、代わってテレサ・ビテッティ(米国人)が就任した。武田はビアンキが辞めた理由を明らかにしていないが、ビテッティは武田が公表した履歴によると、米国の医薬品会社ブリストル・マイヤーズスクイブの上級副社長という前歴とか。

 ちなみに20人の定員に変化はないが、相変わらず日本人は4人だけで、外資ではないのに不自然極まりない少なさだ。長らく日本の製薬会社ナンバーワンの地位を保っているメーカーにしては、それほど社内の人材が枯渇しているのだろうか。買収されたシャイアーからはオリビエ・ボユオン、イアン・クラーク、スティーブン・ギリスという役員3人が武田の社外取締役に新たに就任したが、「戦略策定」にはお呼びでないらしい。

 いずれにせよ、「統合完了」からいくばくもないのに、何のアナウンスもなく昨年と布陣が変わってしまったのは、近年の武田らしいといえばそれまでだが、ある意味で戦略性の欠如というのが武田の特徴かもしれない。特に、製薬会社の運命を左右する開発部門でだ。

 クリストフ・ウェバーが社長に就任する前に長谷川閑史が会社を牛耳っていた2009年、武田の初めての「薬品研究開発統括職」に就いた取締役の大川滋紀は2年で退任。後を継いだ日系米国人の山田忠孝ことタダタカ・“ターチ”・ヤマダは、9億800万円(15年3月期)もの役員報酬を得ながら、たったの4年で退任した。15年から現在まで、「タケダ・エグゼクティブチーム」のアンドリュー・プランプが継いでいるが、これもいつまで続くやら。

 同時期の、医薬研究本部長も同様。11年2月の湘南研究所開設で汗をかいた小高裕之は、2年で退任。後を継いだ丸山哲行(帰化名)こと米国出身のポール・チャップマンも、「医薬研究本部を真にグローバルな組織に変革する」と豪語しながら、5年で武田を去った。現在、これも米国人のスティーブン・ヒッチコックが後を継いでいるが、新薬の開発が10年から20年も時間がかかる現状で、これだけ担当責任者の席が暖まらないようでは、「戦略策定」どころの話ではあるまい。

 当の湘南研究所の惨状は、ご覧の通り。長谷川が吹聴した「創薬開発の一大拠点」どころか、「湘南ヘルスイノベーションパーク」という場末のスーパー銭湯や健康ランドまがいの名称に昨年変わった挙げ句、研究開発を手掛けるベンチャーをはじめとした各企業相手のテナント業に転落。武田は入居しているものの、実質的に運営から手を引き、今や「競合他社が入居して新薬を生んでもOK」とか。あまりの醜態ぶりに、メンツもなく破れかぶれの境地なのだろう。

てしなく買収続ける戦略は成立し難い

 もっとも、「製薬会社から商社になった」と揶揄されている近年の武田のこと。これまでと同様、有望なパイプライン(新薬候補)を保持していれば、規模はともかくシャイアーのように買収攻勢をかけていくのが戦略といえるのかもしれない。だが、シャイアーとて新製品をいつまでも提供できる保証はない以上、そして製薬会社の数に限りがある以上、果てしなく買収を続けるような戦略はおよそ成立し難い。

 かといって、新薬開発に失敗してこれまで1兆円以上を「ドブに捨てた」のが武田だ。いわれているようにシャイアー買収で研究開発費がより増えたとしても、突然、新薬を市場に出せるようになるとは、当の武田も考えてはいまい。

 武田にとって、もはや喫緊の課題は戦略以前に、膨れに膨れ上がった5兆4000億円という、とてつもない額の純有利子負債に対処することに尽きる。慌てて大阪市の本社ビルなど全国21の資産売却に走り回っているが、これこそ戦術的対応だろう。この分だとシャイアー買収という「戦略策定」の成否が決まるのも、さほど時間がかからないのではないか。   (敬称略)

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