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「官邸関与」触れずじまいで疑念深めた統計不正報告書

「官邸関与」触れずじまいで疑念深めた統計不正報告書
森・加計同様、首相の意向忖度し政策転換する構図か

 「毎月勤労統計(毎勤)」の不正調査を巡り、厚生労働省の特別監察委員会は2月末、追加の報告書をまとめた。同省の組織的隠蔽を否定する内容で、1月に公表した中間報告書をほぼ踏襲。国会論争の最大の焦点に浮上し、野党が強く検証を求めていた「首相官邸の関与」の有無にも全く触れていない。

 「やはり、厚労省の中でやるのは無理があった。官邸の関与などは↘一切書いていない。本当の調査なら本当の第三者でやっていただきたい」。追加報告書が公表された2月27日。厚労省幹部らが居並ぶ野党合同のヒアリングで、立憲民主党の長妻昭・代表代行は不満をぶちまけた。

 その少し前。厚労省10階の大臣室で、特別監察委の樋口美雄委員長(労働政策研究・研修機構理事長)から追加報告書を受け取った根本匠・厚労相は「統計の信頼回復や再発防止に向け、行動をとる責任は私にある。再発防止を徹底するとともに、私が先頭に立って組織のガバナンスを確立してまいりたい」と述べていた。報告書が隠蔽を否定していることに対しては「厳しい批判は真摯に受け止めたい」と応じるにとどめた。

 毎勤は賃金の動向を調査するものだ。56ある政府の基幹統計の一つで、従業員500人以上の企業は全て調べるのがルールとなっている。それが厚労省は2004年以降、東京都分は無断で抽出調査に切り替え、賃金の伸びが下振れした。その結果、毎勤を基に給付水準が決まる雇用保険などで延べ約2015万人の給付が過少となった。また同省は、不正な調査結果を本来の結果に近づけるため、18年1月からこっそり補正を開始し、18年の賃金上昇率は大きく上振れした。野党は安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」が好調↖であるかのように見せ掛ける「偽造データ」と追及している。

報告書は厚労省の組織的隠蔽は否定

 不正発覚を受け、厚労省は1月16日に特別監察委を設置、22日に中間報告書を公表した。だが、隠蔽の意図を否定した内容や、監察委の調査に厚労省幹部が同席していたことなどに「お手盛り調査」との批判が集中し、再調査を余儀なくされた。

 監察委は事務局に3人の弁護士を迎え、「第三者性は強まった」と自賛。追加報告書の公表に際し、樋口委員長は「甚だしい職務怠慢」と厚労省を強く批判した。だが、報告書では「事務次官ら上層部の指示は認められない」との理屈で組織的隠蔽を否定、「綿密な打ち合わせや周到な準備がなされた形跡はない」などとして、隠す意図すらなかったとした。賃金上昇率を高く見せ掛けようとしたとの野党の指摘にも、「当時の担当室長が統計として適切な復元処理をし、正確な統計を公表・提供するため」の不正だったと結論付けた。

 職員は嘘をついていたけれど、意図的とまでは言えず、上層部も知らなかった。だから組織的隠蔽ではない——。大甘の報告書に野党は「営々と受け継がれ、虚偽の報告もしている。どこが組織的ではないのか」(原口一博・国民民主党国対委員長)と反発している。官邸の関与を調べなかったことにも批判を強め、立憲民主党の辻元清美・国対委員長は「官邸ぐるみではないかと言われていることに一切触れていない。名も実もない報告書だ」と切り捨てた。

 政府・与党は、報告書の公表をもって早期に幕引きをする構えだ。しかし、首相秘書官から調査方法の見直しを求められた厚労省が、官邸の意向を忖度して方針を転換した可能性は否定できない。

最大の焦点は首相秘書官の影響

 最大の焦点は、毎勤の調査対象事業所の入れ替え方法だ。厚労省は従来、従業員30〜499人の事業所の調査では、2〜3年でサンプルを丸ごと取り換える「総入れ替え方式」を採ってきた。総入れ替えは賃金が下振れしやすいとされる。実際、15年1月の総入れ替え時のデータ修正により、12〜14年の賃金の伸びは最大でマイナス0・4ポイント下方修正された。厚労省は18年1月から毎年サンプルを一部ずつ入れ替える「部分入れ替え方式」に改めたが、その政策決定に影響を与えたのが、当時の首相秘書官、中江元哉・現財務省関税局長の言動ではないか、という点が与野党間の最大の争点だ。

 発端は15年3月31日。中江氏が厚労省の姉崎猛・統計情報部長(当時)に会い、総入れ替え方式について、「改善の可能性を考えるべきだ」との「問題意識」を伝えたことだった。同省は即応するように15年6月、調査方法を見直す検討会(座長=阿部正浩・中央大学経済学部教授)を設置した。それでも15年8月7日の第5回会合時には、現状のまま「総入れ替えが適当」との報告書をまとめる運びとなっていた。

 ところが15年9月14日、再び中江氏と姉崎氏が面会した後に事態は一変する。2日後の9月16日の第6回会合で、「総入れ替えが適当」となっていた素案は報告書ではなく、部分入れ替え方式への変更も含めて「引き続き検討」という「中間的整理」に変わった。その後、検討会は立ち消えとなり、総務省統計委員会などで議論の末、調査方法は部分入れ替え方式に変わった。

 姉崎氏は調査方法変更の2日前に中江氏と会った際、「『実態を把握する観点から部分入れ替え方式もあるのではないか』というコメントがあった」と国会で証言している。ただし、面会した時点では既に部分入れ替え方式も選択肢とする修正を部下に指示していた、と強調し、中江氏の影響を否定。中間的整理が事実上の「両論併記」に変わったことについて、「私が決めた」と語っている。

 これに対し、中江氏は「記憶にない」を連発し、安倍首相も自身の関与を強く否定している。安倍政権は部分入れ替え方式への変更に関し、「データをより精緻なものにするため」であり、「首相秘書官が政策を改善するために、独自にアドバイスするのは当然」と反論している。

 ただし、中間的整理をまとめる2日前、厚労省の担当者が検討会の阿部座長に「委員以外の関係者と調整をしている中で、部分入れ替え方式で行うべきとの意見が出てきた」とメールで伝えていたことも判明している。根本厚労相は「委員以外の関係者」が中江氏と認めた後、答弁を修正したが、野党は納得していない。検討会の関係者は「そもそも一貫して厚労省は部分入れ替え方式への変更に慎重だった」と漏らしている。

 「統計法違反を含む不適切な取り扱いが疑われるケースを調査の対象とした。(部分入れ替え方式への変更は)不適切と疑われるケースとは言えない」

 2月28日の衆院予算委で、参考人として出席した特別監察委の樋口委員長は、官邸の関与を調査対象外とした理由を問われ、そう答弁した。国会中継を横目に自民党幹部は「野党も、もう攻める材料がないだろう」と安堵の表情を浮かべた。

 しかし、首相の意向を忖度し、政策に反映させたと疑われる構図は、森友・両学園問題と二重写しだ。野党6党・会派は3月1日、衆院に根本厚労相の不信任決議案を提出、否決はされたものの、引き続き官邸の関与を追及する意向で、収束の見通しは立たっていない。

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