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未来の会

「高額薬」続々登場で求められる新たな薬剤費抑制策

「高額薬」続々登場で求められる新たな薬剤費抑制策
来夏の骨太方針に対策が盛り込まれるかが当面の焦点

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会「再生医療等製品・生物由来技術部会」で、新しい免疫療法として注目を浴びる「CAR‒T療法」を用いた製薬大手ノバルティスファーマの「キムリア」の製造・販売が了承された。難治性の白血病とリンパ腫が対象で、新たながん治療の柱となることが予想される一方、アメリカでは1回約5200万円と高額で、日本での価格がどの程度↘になるかも注目されている。

 2月20日の再生医療等製品・生物由来技術部会で了承され、正式に薬事承認される段取りとなった。遺伝子治療技術を使う初のバイオ新薬となるが、10年の再審査期間と全例調査が課されている。

 「CAR‒T療法」は、患者自身の免疫細胞の一種「T細胞」を遺伝子操作してがん細胞に何度も攻撃できるように能力を高めて体内に戻す新しい手法だ。昨年、ノーベル賞受賞で注目されたがん免疫療法「オプジーボ」は、がんによって攻撃力を抑えられている免疫細胞に働き掛けてブレーキを外す仕組みで投与を続ける必要があるなど、「CAR‒T療法」とは異なる。

 キムリアは、患者の末梢血から採取したT細胞にCD19を認識するCAR(キメラ抗原受容体)を入れて培養して増やしたT細胞を患者に投与する再生医療製品だ。患者から採取した細胞の加工と培養はアメリカの施設で行い、体内に戻すまで50日程度(国際共同治験の実績の中央値)かかるが、治療は1回の点滴で済む。

 対象は、子どもや若者に多い「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」と、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」。抗がん剤など既存の治療が効かない25歳以下の患者と再発患者で、国内では約250人に上ると予想され↖ている。厚労省によると、日本やアメリカで行われた臨床試験では、白血病患者の75人中61人に、リンパ腫患者で81人中43人に効果があった。ただし、過剰な免疫反応による吐き気や呼吸困難の他、発熱などの副作用も比較的起きたという。

コストは米国並みの5000万円台?

 キムリアは今夏にも公的医療保険が適用される見通しだが、アメリカで1回約5200万円ともいわれるコストが最大の課題だ。患者ごとに採取した免疫細胞をアメリカのノバルティス社の施設で遺伝子改変し、日本に運んで患者に点滴する必要があり、このような手間がかかるため治療費も高額になっている。日本での価格は承認後に決まるが、高額に設定される可能性が高い。アメリカでは白血病治療では、1カ月後に効果があった場合にのみ製薬会社に費用が支払われるが、日本には成功報酬のような仕組みはない。

 日本の公的医療保険制度では、超高額薬でも「高額療養費制度」が設けられており、患者の自己負担には上限がある。残りは公的医療保険から給付する仕組みだ。厚労省は昨年10月の社会保障審議会医療保険部会で、キムリアの市場規模を100億〜200億円程度とする予測を示している。対象が250人で5000万円程度と考えれば、厚労省の試算は妥当な数字といえ、この程度であれば医療保険財政への影響はさほど大きくない。

 実際、根本匠・厚労相も2月26日の閣議後記者会見で、医療財政への影響を問われ、「保険収載価格について中医協(中央社会保険医療協議会)で議論していくことになるが、現時点で対象患者数は250例程度と予測されており、医療保険財政の影響は限定的だ」と強調している。

 ただ、過去には、オプジーボのように、発売当初は効果が皮膚がんの一種「悪性黒色腫(メラノーマ)」の患者470人(年間)だけだったのが、「非小細胞肺がん」にも使えるようになるなど適用拡大が進み、対象患者数が1万人規模に膨らんだ例もある。オプジーボでは、1年間で5万人に使えば、費用が総額で1兆7500億円になるとの試算が話題になるほどだった。今のところキムリアはそこまでの適用拡大はしない見通しだが、1万人にまで適用が拡大する可能性を指摘する声もある。

 微生物や動物の細胞由来のバイオ新薬は開発の主流になっており、今後も日本に上陸する可能性がある。薬のカギを握る抗体やホルモンなどのたんぱく質を遺伝子組換え技術などバイオテクノロジーを使って作製する。バイオ新薬は急速な発展をみせていて、市場規模も10年間で2倍に拡大している。

 例えば、2017年10月にアメリカで承認されたリンパ腫治療薬「イエスカルタ」の薬価は約4200万円、網膜疾患の治療薬「ラクスターナ」では約9700万円に上る。製造工程も複雑で開発費用もかさむため、薬価を高くせざるを得ない事情がある。日本で薬事承認されれば、キムリア同様に高額になる可能性は高い。

 こうした事態に備え、厚労省は既に薬価制度の抜本改革に着手しており、対象者や使用量が増えた場合などには、通常2年に1回の薬価改定を年4回実施できるようにし、薬価を引き下げるルールを導入している。厚労省幹部も「対象患者が増えた場合でも薬価を引き下げれば対応でき、医療保険財政に大きな影響を与える可能性は少ない」と説明する。

 さらに、これとは別に財務省は、医薬品医療機器等法の承認を得れば原則として保険適用するという現在の仕組みの見直しを求めている。

 ただ、公的医療保険制度は貧富の差を理由に高額薬を使えない事態を防いでいるため、見直しとなれば異論は元々根強くあるため、難しい作業になるのは必至だ。

患者のさらなる自己負担増は困難

 企業の新薬開発意欲を保ちつつ、薬剤費の膨張を抑えるにはどうしたらいいか。18年度に導入した薬価の抜本改革は、その一つの答えではあった。超高額薬が続々と登場すれば、適用拡大に伴う薬価切り下げだけでは対応できない事態に陥る可能性はある。

 高額療養費制度の見直しは、18年に一部の所得層について自己負担額を引き上げたが、公明党の強い反対で実現したものの難航した経緯がある。こうした過去の経緯を踏まえると、さらなる見直しを求めることは相当な困難を伴うのは明らかだ。

 そこで一部の与党議員の間で出てきているのが、超高額薬とは対照的な立ち位置にある風邪など軽微な症状向けの薬を保険適用から外すなど制度を見直すよう検討を求める動きもある。ただ、検討は緒に就いたばかりで、どのような時期を見定めて政策を打つのかも不透明な部分が多い。見直しとなれば、1〜3割の負担で薬を買っていた国民から反発を受ける可能性もある。

 膨張の一途を辿る薬剤費を抑えるため、有効な手立てを模索する作業は断続的に始まっている。来年夏の骨太方針にまとめられる給付と負担の見直し策にこうした抑制策がどこまで盛り込まれるかが、当面の焦点となりそうだ。

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