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未来の会

第105回 シャイアー買収に格付け評価は低下へ

第105回 シャイアー買収に格付け評価は低下へ
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行 

武田薬品がアイルランドの製薬大手・シャイアーを買収して子会社化した前後に、相次いで格付けの評価を落としている。

 格付投資情報センター(R&I)は昨年12月7日、武田の発行体格付けをダブルAマイナスからシングルAに2段階落とした。ムーディーズ・ジャパンも昨年12月17日、信用リスクが低い「A2」からリスクが中程度の「Baa2」に3段階引き下げた。米格付け大手のS&Pグローバル・レーティングも今年1月8日、武田の長期発行体格付けを「シングルAマイナス」から「トリプルBプラス」に1段階引き下げ、見通しを「ネガティブ」としている。

 ムーディーズ・ジャパンの場合、「買収により武田薬の有利子負債は6倍近くに増加し、レバレッジはムーディーズが投資適格級としている製薬会社の中で『最も高い水準になる』」と判断し、「約3兆円有利子負債が増えることで、武田薬の総有利子負債/EBITDA倍率は5倍超と、格付けBaa以上のグローバル製薬会社の一般的な水準である2〜3倍を大きく上回る」(ブルームバーク昨年12月17日配信記事)との理由からだ。

「財務リスク」が大きな懸念材料に

 一連の格下げは、やはり武田の財務リスクが大きな懸念材料となっているのは疑いない。しかも買収相手のシャイアーは、4兆円から4兆4000億円と推定される「のれん」や6兆円以上の無形資産を負い、減損リスクが否定しきれないとなれば、なおさらだ。そうした武田が今のところ、株主に対し4%近い高配当を出していられるのは、大阪の「武田御堂筋ビル」を筆頭に、最終的に1兆1000億円規模に達すると見られる不動産などの売却益があるからで、これがいつまでも維持できるはずがない。

 だが、それでも武田社長のクリストフ・ウェバーが強気でいられるのは、「買収で年間4000億円以上の研究開発投資が可能になる」(昨年12月5日における臨時株主総会での発言)という確信があるからだろう。

 確かに、医薬品一つの開発にかかる費用は今日、たとえ失敗しても約2700億円もかかるとされる以上、グローバル競争にさらされる製薬企業にとって「年間4000億円以上の研究開発投資」確保は必要不可欠だ。だが、額だけ取れば、世界のメガファーマ(巨大製薬企業)であるロシュやジョンソン・アンド・ジョンソンは、シャイアーと合併した新会社の2倍近い研究開発費を誇る。しかもこの2社を除いても、新会社より研究開発費で上回る他のメガファーマは10社ある。「年間4000億円以上」の額が、必ずしもグローバル競争での覇者となるのを保障してくれるわけではあるまい。

 しかも、額だけが問題なら、国内製薬企業でもっとも研究開発費が潤沢とされた武田がこの10年間、有望な新薬開発に全て失敗した半面、売上高で業界第12位にすぎない小野薬品が、大ヒットとなった免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」を開発できた事実は説明困難となる。

新薬開発は自動的に可能にはならない

 加えて、武田が飛び付いたシャイアーにしろ、パイプライン(新薬候補)で見るとフェーズ3で15のプログラムを有し、武田とは対照的に豊富な印象を受けるが、その多くは繰り返された他社の買収によって得たもので、同社オリジナルの研究開発力の賜物ではない。要するに、「買収で年間4000億円以上の研究開発投資が可能」となったとしても、それによって合併後の会社の命運を決する新薬開発が自動的に「可能」となるわけではないのだ。

 第一、額だけ膨れ上がれば、武田は「失われた10年間」から即脱却し、起死回生となるような新薬を手に入れることができるほど研究開発の体制は万全なのか。鳴り物入りで建設された「東洋一」の湘南研究所は今や3分の2近くの研究員がリストラで追われ、代わって32もの企業や研究所に母屋を貸しているという有様。ウェバーが仲間入りしたかったメガファーマの世界で、いったい自社の研究拠点をこのように扱っている企業があるのだろうか。

 ウェバーを後釜に据えた、あの長谷川閑史(現・相談役)が実権を握るまで、武田は良くも悪くも家族主義的な社風を残し、研究開発部門も大らかな気風に満ちていたと語り継がれている。武田の黄金時代を支えたブロックバスター(年商1000億円以上の新薬)の抗潰瘍薬「タケプロン」や高血圧薬「ブロプレス」、糖尿病薬「アクトス」、前立腺がん薬「リュープリン」といった製品は、そうした武田の企業風土と無縁に誕生したのではないだろう。案外、「グローバル経営」という名の下にそうした社風を破壊し尽くし、今や外資でもないのに社長以下20人いる「タケダ・エグゼクティブチーム」のうち たった4人しか日本人がいないという奇怪な会社になる道筋を敷いた長谷川が、1兆円近くを投じながら新薬開発に完敗したのも必然だったのかも知れない。

 こうなると長谷川は、2006年に東芝の相談役として「ウエスチングハウス」の買収を推進したため7000億円の損失を出し、同社の実質解体を招いたのみならず、15年には日本郵政の社長としてオーストラリアの物流会社「トール・ホールディングス」を6200億円で買収して大失敗した、同じ「国際派」の西室泰三とイメージがだぶってこなくもない。ウェバーによるシャイアー買収も、長谷川の「グローバル経営」路線の延長にあるのは疑いないからだ。

 今や武田は、かつて他社が羨むような優秀な人材が「英語が不得手」という理由だけで隅に追いやられ、出世コースも外国人や外資から途中入社した「国際派」に牛耳られるまでになったという。このままだと合併後の新会社は、シャイアーの有効薬の特許が切れる数年後に大きな試練が必ず訪れざるを得まいが、その時、会社のために乗り切ろうとする社内のモチベーションは、いかほどのものとなっているのか。

 今さら「タケダイズム」でもないが、そこには「不屈」という語が掲げられている。概して高給と待遇の良さを最優先して転職を重ねる「新社員」達は、「不屈」などと言われてもアナクロニズムでしかなかろう。長谷川閑史がイメージではなく実態的に第2の西室泰三となった時、「タケダ・エグゼクティブチーム」には何人の外国人が残っているだろうか。

      (敬称略)

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