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未来の会

「女子の医学部」は現在でも存在意義がある~女性医師が生涯働き続けられる社会を目指して~

「女子の医学部」は現在でも存在意義がある~女性医師が生涯働き続けられる社会を目指して~
唐澤久美子(からさわ・くみこ)1959年神奈川県生まれ。86年東京女子医科大学卒業。同年スイス国立核物理研究所粒子線治療部門留学。2000年東京女子医大放射線医学教室講師。02年順天堂大学医学部放射線医学講座講師。05年同助教授。11年放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院治療課第三治療室長。15年東京女子医大放射線腫瘍学講座教授・講座主任。18年同大学教育部門担当理事・医学部長。原子力規制委員会放射線審議会委員、文部科学省国立大学法人評価委員会専門委員、全国医学部長病院長会議女性医師等キャリア支援連絡会議委員・大学医学部入学試験制度検討小委員会委員、厚生労働省がん診療連携拠点病院の指定に関する検討会構成員なども務める。

女性医師は男性医師より働かないので、女性医師が増えたら大変なことになる。医学界にはこうした考えが根強くあるが、問題の根底は長時間労働が当たり前の労働環境にあるという。働き方改革が進めば、女性医師も男性医師と同じように働けるようになり、女性医師の活躍の場はさらに広がっていく。そうした新しい時代に向け、東京女子医科大学は新しい道を切り拓いている。


——女子の受験生が不利に扱われるなどした医学部の不正入試が問題となりましたが。

唐澤 不正が起きたのは、女性医師を増やしたくないという考えが根底にあったからです。女性医師がこれ以上増えたら大変だという意見がありますが、日本より女性医師が多い国はたくさんあります。日本では女性医師は約3割ですが、世界平均は4割くらい。7〜8割が女性という国もあります。女性医師と男性医師で、できることに差があるわけではありませんし、女性ならではの良いところもあります。一番の問題は、これまでの勤務体制にあると思います。働き方改革や女性活躍社会の推進とリンクしていくことによって、「女性医師は働かなくて困るんだよね」といったこれまでの考え方は、払拭されていくものと考えています。

——働きやすい環境なら女性医師はもっと活躍できる?

唐澤 そうです。問題を生み出しているのは医師の長時間労働です。ワーク・ライフ・バランスを考えれば、仕事以外にもやるべきことはいろいろあります。日本の社会でも女性が外に出て働くのは当たり前になっていますが、医師の世界だけ、そこから取り残されてしまっています。女性が働きやすい状態だったら、「女性医師は働かなくて困る」ということにはならないし、不正入試問題も起きなかったでしょう。問題が顕在化したのは、変わるためには良かったのかもしれません。

——女子の受験者が不利な扱いを受けていることは、以前から知られていたのですか。

唐澤 問題になるまでは、見て見ぬふりをしていたということでしょうね。もっとも、現在の状況では、やむを得ないという面もあります。例えば、女性医師は皮膚科や眼科ばかり選ぶという話がありますが、確かにそういう傾向はあって、女性医師が増えたら皮膚科医と眼科医ばかりになってしまう、などと言う人さえいます。しかし、それは女性医師がワーク・ライフ・バランスを考えた場合、そうせざるを得ないからなのです。例えば、夫も妻も子育てから手を引いてしまうわけにはいきません。ワークとライフのバランスを考えて、女性医師は両立が可能な診療科を選択しているわけです。女性医師がみんな外科をやりたくないと思っているわけではありません。ちゃんとライフを大切にしながら働ける環境があれば、女性医師は外科にも救急にも行くはずです。それは他の国の女性医師達が証明しています。

男女が平等に働けるなら女子医大は必要ない?
——医学部長として取り組んできたことは?

唐澤 東京女子医大の最初の学長は創立者の吉岡彌生先生ですが、その後はずっと男性の学長が続いています。医学部長も男性の先生が務めていることが多く、卒業生が医学部長になったのは、長い歴史の中で私がまだ2人目です。これまでの東京女子医大は、先進的な医学に関して素晴らしい業績を残してきたと思いますが、近年は「我が校は女子大学です」ということは、あまり前面に打ち出してきませんでした。女子大学はもう役目を終えたという意見もありますが、私は女子の医学部は今も存在意義があると思っています。男性と女性の医師が同等に働けるようになっていれば、女子の医学部は必要ないという意見もありますが、残念ながらそうなってはいません。𠮷岡彌生先生が女子のための医学校を創設して119年になりますが、現在でも、女性医師を増やしたくないからと、不正入試が行われるような状況にあるわけです。そのような中にあっても、女性医師が仕事をすることで生涯にわたって社会に貢献していけるように、しっかり教育をしていく必要があると思っています。診療や研究を充実させることに加え、日本の医療界の荒波で沈没せず、最後まで海を渡り切れるようにする教育が必要なのです。そういう意味で、東京女子医大のような女子の医学部は、今の世の中でも存在意義があると思っています。

——女子の医学部は外国にはあるのですか。

唐澤 例えば韓国の梨花女子大学はキリスト教系の総合大学ですが、そこには医学部があります。うちの学生達も、交換留学ということで研修に行ったりしています。

——東京女子医大は先進医学では多くの業績を残していますね。

唐澤 診療や研究においてもそうですし、附属病院のセンター制などでも先進的な取り組みを行ってきました。ただ、そうした活動の多くは、外から来られた男性の先生方を中心に行われてきたと言えます。もちろん、卒業生も若干加わってはいますが、他の大学に比べると、卒業生の活躍する場面が少なかったのではないかと思います。これからの東京女子医大は、卒業生達がもっと新しいことに取り組んでいけるようにしたいと思っています。

女性医師が働き続けるのを支援
——女性医師のキャリア形成支援にも力を入れているのですね。

唐澤 女性医療人キャリア形成センターの活動があります。女性の医師や看護師が継続して仕事をできるように支援していくのが目的で、いくつかの部門に分かれています。その一つが「彌生塾」です。創立者の吉岡彌生先生の精神を受け継いで、リーダーとしてより良い社会を作るために活動できる医療人の養成を目指しています。塾生と本科生に分かれていますが、本科生は教授や部長を目指す人が対象で、そのためのエリート養成を行っています。研究のこの部分が足りないとか、診療のここをもう少し頑張りなさいとか、もう少し人付き合いを良くしなさいとか、一人ひとりの状況に合わせて、そういった細かな部分までアドバイスしています。女性教授を増やしましょうということで、取り組んできました。

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