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未来の会

第109回 認知症には薬剤より接し方を

第109回 認知症には薬剤より接し方を
アリセプトを出したら、何もすることがない

 上田1)が「治さなくてよい認知症」の中で紹介している「認知症って最初にアリセプトを出したら、もうあと何もすることがない」は、現在の日本の認知症の診療、つまり、日本神経学会による認知症疾患診療ガイドライン20172)に則った診療を象徴する言葉だ。同ガイドラインでは、「早期診断と治療導入に関心を集中させてきた」と告白しながら、2017年版でも相変わらず薬物治療に関心を集中させている。アリセプトが使えなくなったら、することがなくなるガイドラインである。

 「薬のチェック」誌3)は、認知症に薬物療法は無効・有害で、本人も介護者も楽にせず、接し方を徹底して工夫することが認知症の診療で最も重要であることを述べた。その概略を紹介する。

認知症用剤は、介護を楽にしない

 そもそも、ドネペジルの添付文書に記載されているとおり「アルツハイマー型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」

 ドネペジルのランダム化比較試験(RCT)では、脱落せず服用できた人でプラセボより0.8点高かっただけ。1年後の施設入所割合はドネペジル群42%、プラセボ群44%で、相対危険0.97(p=0.8)、3年後の重度介護割合は55%と53%で、相対危険1.02(p=0.9)と、全く差はなかった。そして、死亡+重篤有害事象の割合はドネペジル群に有意に多かった(50%vs36%、オッズ比1.75、p=0.001)。

 フランスの規制当局はガランタミンの2年間追跡RCT2件の結果を元に、死亡率が増加する危険性を警告した。中止30日以内の死亡はプラセボ群0.3%対ガランタミン群1.4%、オッズ比4.7(p<0.01)。日本でのガランタミンの承認に際し、これら2件のRCTは審査報告書にも記載がない。

 フランスで、認知症用の薬剤が健康保険の償還の対象から外されたのは、長期の効果がなく害が多かったこれらのデータを総合した結果である。

認知症者に、してはいけないことと適切な接し方

 認知症の人は、記憶をはじめ判断力、問題解決能力が障碍されているが、感情は非常に豊かである。不適切な接し方で傷つきやすく、興奮しやすいが、適切な接し方で安心し、いわゆる認知症の「周辺症状」「問題行動」が起こりにくくなる。

 やってはいけないことは、キットウッドが唱えた「悪い対人心理」4)にまとめられ、適切な接し方は、アイコンタクト、語りかけ、スキンシップ(eye contact, speech, touch)を原則とする介護手法「ユマニチュード」5)を基本にすることを、薬のチェック誌は推奨する。やってはいけないこと、適切な接し方のまとめ(割愛)3)を参照されたい。

治さなくてよい−適切な接し方で快適に

 認知症の予防には、日頃から食事に注意し、適度な運動をし、睡眠剤に頼らない十分な睡眠時間を確保する。それでも認知症になったら、まず、せん妄を招く薬剤、認知症を起こさせる薬剤を徹底的に洗い出し避ける。不適切な接し方を避け、運動療法など非薬物療法とユマニチュードの手法を取り入れて接し方を工夫すること。認知症は治さなくてよいと考える。


1)上田諭、治さなくてよい認知症、日本評論社、2014
2)日本神経学会、認知症ガイドライン2017
3)薬のチェック編集委員会、薬のチェック2019;19(82):34-38
4) Kitwood T. Woods RT (ed.):Handbook of the clinical psychology of ageing. p267-282, John Willey & Sons 1996(文献1)より引用)
5) Gineste Y, Marescotti R. Soins Gerontol. 2010: 85:26-7.

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