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未来の会

「がん撲滅サミット」で披露された最先端がん治療

「がん撲滅サミット」で披露された最先端がん治療
ゲノム医療、免疫療法、再生医療等々

 オールジャパンでがん対策に取り組むことを目指すイベント「がん撲滅サミット」が2018年11月18日、東京・有明の東京ビッグサイトで約1100人を集めて開かれた。主催は同サミット実行委員会とがん研究会有明病院で、第4回となった今回のテーマは「がん医療と新しい時代の幕開け!」。

日進月歩するがん治療の技術

 最初に登壇したのは、今回の大会長を務めるがん集学的治療研究財団前理事長で岐阜大学名誉教授の佐治重豊氏。まず、がん撲滅を目指し、患者・家族、医療従事者、政府、経済界、自治体が心を一つにして向き合う環境作りを進めようと宣言。そして、年間約37万人ががんで死亡している状況を踏まえ、末期、進行、再発がんの対策が重要と強調した。また、「がん撲滅の第一歩は90歳過ぎで発病する“天寿がん”まで発病を遅らせることが大切」と述べ、がん予防と発症遅延策として、遺伝子を傷付けない習慣が大切で、具体例として禁煙や規則正しい食生活、ストレス解消などを挙げた。

 一方で、末期・進行がん患者の場合、ガイドラインに治療法がないなどと医療側の理由で治療拒否し“がん難民”を生み、民間療法などに走らせている面があると指摘した。そして自らの臨床経験から、進行がん患者でもOK-432(抗悪性腫瘍剤・リンパ管腫治療剤「ピシバニール」)頻回腹腔内投与、分子標的治療剤術後投与、術前化学療法、抗がん剤・手術(頻回)併用など既存の治療法や薬剤によって予後が良好になったり、完治したりする例を紹介。現在治療が不可能な患者でも早くて5年、遅くても10年後には新しい画期的な治療法が生まれると予想した。

 また、がん撲滅に向けた新しい時代の「Core Value」として以下の七つを挙げた。

①がん免疫療法:免疫チェックポイント阻害剤

②がんゲノム医療:標準的治療から個別化治療への転換、プレシジョンメディシンとリキッド・バイオプシーによる超早期発見(家族性がん、小児がん、AYA世代がんなど)

③外科手術:進行がんに対するConversion Surgery

④放射線治療:粒子線治療、BNCT療法(ホウ素中性子捕捉療法)など

⑤光免疫療法、ウイルス療法など(治験中)

⑥新しい治療の登場:再生医療、Muse細胞

⑦人工知能(AI)の普及:「正確な情報」をいつでも、どこでも入手可能

 アジア臨床腫瘍学会名誉会長も務める佐治氏は、「日本では2人に1人ががんになるが、アジアでは5人に3人ががん。UICC(国際対がん連合)では、2040年頃にはアジアも超高齢化社会を迎え、特に貧困と環境汚染で年間1700万人ががん死すると警告している。先に超高齢化社会を体験した日本の知識が必要」と述べた。

 次に登壇した内閣総理大臣補佐官で内閣官房健康・医療戦略室室長の和泉洋人氏は、現在、日本の健康寿命は男性72.14歳、女性74.79歳で、平均寿命との差は男性が約9年、女性が約12年あることを示しつつ、少子高齢化・人口減少社会の進展に伴い労働力の確保が必要となっている中、健康寿命の延伸が重要な課題と述べた。さらに、がんが死因の第1位を維持していること、がん患者のうち3人に1人は就労可能年齢で罹患していることなどを紹介した上で、健康・医療戦略及び医療分野研究開発推進計画の下、「ジャパン・キャンサー・リサーチ・プロジェクト」を通じて基礎から実用化までの研究を一体的に推進することや、次世代医療基盤法の仕組みの活用などにより、健康長寿社会の実現を目指していく旨を述べた。

 厚生労働省からは医務技監の鈴木康裕氏が登壇。2018年3月に閣議決定した第3期がん対策推進基本計画の特徴として①「医療の充実」に「予防」と「共生」を併せて3本柱にした②ゲノム医療や免疫療法など先駆的な医療も明記③受動喫煙対策の「健康増進法」や治療と仕事の両立の「働き方改革推進法」が既に成立——を挙げた。

 ゲノム医療に関しては、遺伝子パネル検査の保険適用や先進医療制度の活用などにより、国民皆保険制度の下で患者一人ひとりに最適な最先端がん治療を届けるだけでなく、無効な投薬を回避し、日本初の診断技術や医薬品の開発を目指しているという。また、希少がんについては、専門医や専門施設のネットワークや司令塔作りが必要との見方を示した。

改めて強調されたがん検診・予防の大切さ


 国立がん研究センター理事長・総長の中釜斉氏は「がん撲滅に向けた早期診断及びゲノム解読・編集技術の現状と課題」をテーマに発表した。日本のがん対策の歩みを振り返り、成果の一つとしてがん全体での5年生存率は62.1%(1993年から2006年の間)まで改善したと紹介。ただ、食道、肝臓、胆道系・膵臓、肺、血液などのがんでは改善はまだ十分ではないと指摘した。

 日米の比較では、米国は大腸がんの死亡率が減少しているのに対し、日本は上昇してきたがここに来て下がりつつあると説明。乳がんについては、米国では死亡が減りつつある一方で、日本ではまだ上昇が続くと予想した。

 また、がん検診の受診率向上を強調する中で、新しい検診の可能性として「血液1滴でがん診断」のキャッチコピーで注目される「リキッドバイオプシー」を紹介した。乳がんや卵巣がんなどの診断では、精度が高いという。最後に、ゲノムや免疫環境などを調べることで、医療や創薬を進めていくには、患者の協力が大事であることを強調した。

 また、がん研究会有明病院名誉院長の山口俊晴氏は、がんの原因として喫煙が重要だと述べた。医学生時代の同級生の病歴を例示して、喫煙者の疾患・死因などを踏まえた上で、肺がんなど喫煙を原因としたがんは減少するという見通しを説明した。喫煙は第2次世界大戦時に広がったが、日本では1960年代から禁煙が進み、1965年では男性で約8割の喫煙率が2015年に約3割まで低下したことを背景に挙げた。

 さらに、予防が可能になったがんについて言及。胃がんはピロリ菌除菌率の向上で減少傾向に入る。ウイルスによる肝臓がんや子宮頸ガン、職業性の発がん物質による膀胱がんや胆道がんについても、予防可能になっていくとの見通しを示した。また、検診の効果のあるがんとして、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、子宮がんを挙げた。

 続いて登壇したのは、大阪大学大学院医学系研究科特任教授の杉山治夫氏。杉山氏は1992年、「WT1」というタンパク質が白血病細胞に高い比率で現れることを見出し、WT1が白血病の新しい腫瘍マーカーであることを世界に先駆けて発見した。その後、杉山氏はWT1がほとんどのがんに発現していることを見出し、WT1を標的にしたWT1ペプチドがんワクチンの開発に取り組んでいる。2009年にはNCI(米国国立がん研究所)が75種類のがん抗原の有用性ランキングでWT1に1位の評価を付けた。

新しい治療法で広がる治癒の可能性


 杉山氏はWT1ペプチドがんワクチンを使った乳がん末期患者の臨床例などを示し、同ワクチンについて重篤な副作用がなく、関連死亡例がないことから「極めて安全な治療法」と述べた。また、急性骨髄性白血病の治療のために臨床試験が進み、骨髄異形成症候群や悪性神経膠芽腫、膵臓がんなどにも効果を検証中と解説した。さらに、小児横紋筋肉腫や小児の脳腫瘍の治験も進んでいるという。

 がん研究会プレシジョン医療研究センター長の中村祐輔氏も登壇、オーダーメード医療の進化について解説した。1990年代から、ゲノムとがんとの関連について注目してきたと、自らの研究の経緯を紹介。その上で、今はゲノム情報に基づいてがん治療を考えるのが当たり前になってきていると強調した。米国をはじめ、プレシジョンメディシンとして広がっている考え方だ。ゲノム医療に合わせて適切な治療を選ぶことが可能となる。中村氏は「輸血をする時に血液型を考えるのが当たり前なくらい、自然な考え方ではないか」と説明した。

 中村氏はがんの治癒率を上げるためのポイントとして、①がんのスクリーニング率を向上させる②がんの超早期再発診断法の開発・超早期治療③的確な治療法選択④新しい治療薬の開発——を挙げた。がんの早期診断の点から注目されるのがリキッドバイオプシーである。中村氏はリキッドバイオプシーの応用の可能性として、がんのスクリーニング、手術後のがん細胞の残存、分子標的治療薬の選択、治療効果の判定、再発の超早期発見に役立つと見る。

 WT1で見られるように、がんが作り出すたんぱく質を目印として、がんへの攻撃を促すワクチン療法が広がるとの見通しも示した。「ネオアンチゲンワクチン」と呼ばれるものだ。また、がんの目印を攻撃できるように遺伝子改変した「T細胞受容体導入T細胞療法」による治療も広がると説明した。

 中村氏は、今後は、リキッドバイオプシーと免疫療法に、人工知能(AI)を組み合わせた技術により、個人に最適な予防法と治療法を提供でき、治癒率が向上すると述べた。また、エビデンスがないから「効果がない。意味がない」ではなく、試験をしていないので「効果が不明。意味があるかどうか不明」という考えをしないと、「日本は百年経っても欧米と競争できない」と指摘した。そして、自らの原点の一つである、がんで亡くなった患者との思い出を語り、希望のない日々を送るつらさを理解する大切さを紹介。「真っ暗な闇の中で生きるのか、わずかな灯りでも、希望の中で生きるのか、患者や家族の人生の質に大きな差がある」と強調した。

 最後に「医療スペシャル講演」として登壇した東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野教授の出澤真理氏は、2010年にMuse細胞(生体に内在する非腫瘍性の多能性幹細胞)を発見した。出澤氏はがん治療の分野ではないと断った上で、組織に大きな傷害が起きた時に修復に当たる万能細胞が存在すると紹介。実験で間違えて消化酵素であるトリプシンを使ったところ見つけたストレス耐性のある万能細胞、Muse細胞について解説した。今後、点滴によって心筋梗塞や脳梗塞、慢性腎不全などで機能を失った部分の再生を進めるような治療を可能にしたいと展望を語った。

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