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未来の会

第103回 世界8位のメガファーマ誕生でも市場は冷ややか

第103回 世界8位のメガファーマ誕生でも市場は冷ややか

虚妄のの巨城
武田薬品工業の品行

 武田薬品は2018年12月5日、大阪市内で臨時株主総会を開き、アイルランドの製薬大手・シャイアーの買収が約88%の賛成で承認された。同日に開かれたシャイアーの臨時株主総会でも、100%近い賛成で買収を承認。武田は年が明けた1月8日、買収が完了したと発表した。

 約7兆円という、日本では前例のない規模の海外企業に対するM&A(企業の合併・買収)の動きが発覚してから約9カ月間、様々な論議を呼んだ買収劇はこれでひとまず幕が下り、売上高で3・3兆円という世界第8位のメガファーマ(巨大製薬企業)が誕生する結果になった。

 日本企業としては初のメガファーマであり、本来なら高揚感があってしかるべきだが、市場の動きは冷ややかそのもの。皮肉にも臨時株主総会から14日後の12月19日には、18年の株価最安値を記録。1月7日の時点で終値は3995円と4000円を切り、最高値は18年1月10日の6693円。時価総額でも中外製薬に抜かれた。

 常識的に考えて見れば、買収後の純有利子負債が買収前の8倍近い約5兆円に達し、のれん代は4兆円以上、無形資産は約7兆円というような「新会社」を、市場が有望視するはずがない。社長のクリストフ・ウェバーは「株価はいずれ好転する」と強気だが、これを真に受ける向きは乏しいはずである。

 いくら臨時株主総会を乗り切ったところで、それが即、今後の順風満帆を保証したことにはならない。武田の株主の約66%が機関投資家で、シャイアーの買収に一貫して反対してきた「武田薬品の将来を考える会」をはじめとする創業家周辺の個人株主は10%にも満たない。勝負は最初から決まっていたが、12月の臨時株主総会における「買収には絶対反対だ。武田薬品の破滅をもたらす」という反対派の発言は、今でも何らリアリティーを失ってはいないだろう。

買収費用を賄うため非コア事業売却へ

 財務状況が一挙に悪化した武田は買収費用を賄うため、今後、約1兆1000億円の非コア事業の売却を予定している。早くも、長年にわたり武田の代名詞ともいえた「アリナミン」を扱う大衆薬子会社「武田コンシューマーヘルスケア」の名前も挙がっている。また、約3000人規模のリストラも行われるというが、それで間に合うのか。何しろいくら執念のようにメガファーマの仲間入りを果たしたところで、今後の収益の核となるような後期開発パイプライン(新薬候補)が武田には乏しい。こうなると買収後の期待はいきおいシャイアーの収益性にかかってくるが、楽観視できないのが現状だ。

 シャイアーは以前から、血友病や免疫疾患といった希少分野で強みを発揮してきたニッチの高収益企業として知られてきた。だが、そこそこの数の後期開発パイプラインはそろっているが、大型薬として期待を託せるような商品は少ないとされる。しかも、シャイアーが世界で4割のシェアを誇る血友病薬にしても、ロッシュ=中外製薬の有力薬「ヘムライブラ」によって追い落とされるのは、避けられない状況にある。

 こうなると、買収後の新会社の収益は楽観視が許されず、臨時株主総会でどのような決定が下されようが、爆弾を抱えたような発足となったといって過言ではない。実際、「武田薬品の将来を考える会」は18年11月、武田側に対する「追加質問」として、買収から「3年目(2021年)についても、血友病治療薬の落ち込み次第では減損処理によってさらに減少する可能性があることについて、十分な説明とは言えません。シャイアーの血友病製品の落ち込みについては30%から50%程度しか織り込んでいない疑いがあります」と指摘していた。

 だが、これまで武田側からシャイアーの収益見通しについて、説得力のある回答があった形跡はない。

 しかも「武田薬品の将来を考える会」は18年11月に、武田がシャイアーの買収にあたって「欧州委員会(EC)の承認を得るために、炎症性腸疾患治療薬SHP647の権利売却を決定しています。従って合併による消化器領域のシナジー効果は重要な部分が欠落することになります。臨時株主総会の直前になって収益見通しのガイダンスが大きく変更され、さらに発生したネガティブ要因は反映されていません」とも指摘していた。

 これは欧州委員会が武田のシャイアー買収計画について、武田が潰瘍性大腸炎の大型薬である「エンティビオ」を販売していることから、「炎症性腸疾患領域の競争が阻害される恐れがある」と指摘していたことに対応した処置だった。だが、開発中だったシャイアーのSHP647の権利売却は、結局のところ、「エンティビオ」の販売においてウェバーも口にしていた「シナジー効果」を望めなくなり、武田にとって痛手になるはず。ここでも、シャイアー買収にまつわるネガティブな材料が露呈している。

ウェバーは今回の買収を手柄に転職の噂

 15年6月、「武田薬品の将来を考える会」の主要メンバーらが、「2兆円投じ海外2社を買収も利益は激減、高額報酬の外国人が主要ポストを占拠」という長い副題の付いた『大丈夫か 武田薬品』(ソリック)という本を出版した。当時、社長から会長に移り「グローバル路線」に邁進していた長谷川閑史の経営方針を痛烈に批判する内容だったが、これまで「大丈夫か」「大丈夫か」と何度も問われ続けながらも、武田はついに戻ることのできないルビコンの河を渡ってしまった。

 ウェバーは買収の今後の結果について「自分が全面的に責任を負う」と宣言している。ところが、またぞろ「かねて25年までの続投を表明しているが、一部投資家の間では、この超大型買収を手柄に『別のメガファーマに移るのでは』とささやかれている」(『週刊ダイヤモンド』18年12月29日・19年1月5日新年合併特大号)とか。

 もしこれが本当になったら「責任」どころではないが、ウェバーが他社に移ろうが移るまいが、武田はこれから、桁外れの額の有利子負債を抱えながら、未だ有望なのかどうか判断しかねる外国の会社に未来を託することになる。

 このままだと、「大丈夫か」と言われているうちがまだ花だったと思い知らされかねない事態が訪れても、不思議ではないのではないか。(敬称略)

COMMENTS & TRACKBACKS

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  1. 貴誌のご指摘は、正に正論だと思います。
    自らの真摯な努力により価値ある医薬品を生み出す覚悟を放棄して
    他人の褌で相撲を取るなどという経営が成功する筈がありません。
    無能な長谷川閑史による最近10数年にわたる泥縄経営を、タコ配に
    よる高額配当に誑かされて甘受してきた武田一族の拝金主義も又
    糾弾すべきでしょう。
    貴誌による武田経営への益々の追求を期待して止みません。

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