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未来の会

第122回 60年ぶりの己亥は多事多端の予感

第122回 60年ぶりの己亥は多事多端の予感

 激動必至の2019年。内政では、憲政史上初となる天皇の生前退位と新元号公表、新天皇即位と歴史的な行事が続き、統一地方選、参院選という大きな選挙がある。これに、憲法改正や消費増税などの重要政策が絡む。外交では、北方領土問題や中国の習近平・国家主席の来日、こじれた日韓関係に加え、ねじれ議会を抱えた米国のトランプ政権とどう向き合うかが問われる。英国の欧州連合(EU)離脱など国際社会も転換点を迎えており、節目の1年になる。

「亥年現象」と悩める自民党の面々

 今年の干支は己亥(つちのとい)だ。中国・殷の時代に誕生したとされる干支は草木の成長に例えられる。これによると、己は草木が十分に茂り整然とした状態、亥は草木が枯れ落ち、種の内部に生命力がこもっている状態だという。この二つが合わさると、成熟したものが、次の段階を目指して準備をする年ということになるようだ。

 ただ、亥年は政治、経済、そして災害の3分野に関しては不穏を暗示する年でもある。まずは政治分野だが、4年ごとの統一地方選と、3年ごとの参院選が重なる。政界では、亥年の参院選は自民党が敗れるというジンクスがあり、「亥年現象」と呼ばれる。「地方選で疲れたところに、参院選が被さる亥年は本当に大変」と、自民党選対関係者は昨年から頭を悩ませている。経済分野でも「亥年の株価は小幅な値動き」と言われ、「亥固まる」などと呼ばれる。株価の動き次第で、安倍晋三首相は消費増税を見送るとされており、年初からの値動きが注目されている。

 最後の災害だが、これは統計上の裏付けがあり、心穏やかではない。記録に残る大地震は亥年に多いのだ。古い順にざっと挙げると、1707年の宝永地震、1923年の関東大震災、1983年の日本海中部地震、1995年の阪神・淡路大震災、2007年の新潟県中越沖地震が発生している。1707年には富士山の山腹に大穴を開け、現在も大きな痕跡を残す宝永の大噴火も発生し、1983年には三宅島が噴火している。2018年、日本は水害が多発したが、関東大震災以降、最悪の人的被害をもたらした伊勢湾台風(1959年)はまさに今年と同じ己亥だった。

 火山帯の上に位置し、台風の通り道である日本列島だから、平素からの備えが大事なのは当然なのだが、12年に一度の亥年、東京五輪・パラリンピックを翌年に控えたこの機会に総点検が必要かもしれない。

 もちろん、干支に科学的な根拠があるわけではない。前文で列記したように、2019年は重要案件が目白押しで、日程を消化するだけでも慌ただしい1年になる。そこに、「己亥は大変だ」などと言っても、若手国会議員らは見向きもしないが、自民党長老はこんな事を口にしている。

 「今年はまさに多事多端の年だ。天皇陛下(当時皇太子)と美智子皇后のご成婚がちょうど60年前の1959年、己亥の年だった。天皇陛下の生前退位と新天皇即位が己亥であることには何かしらの縁を感じる。干支は古から引き継がれた知恵の一種だと思うよ。警句の一つと心に刻んで損はないだろう」

 長老が干支を警句と表現したのは亥年の参院選は自民党が敗れるという「亥年現象」が念頭にあるからだ。憲法改正を政権のレガシー(遺産)にしたい安倍首相にとって、今年の参院選は特別な意味を持つ。現在、自民党など改憲勢力は衆参両院で3分の2議席以上を占め、憲法改正を発議できる状態にある。しかし、安倍首相が18年秋の臨時国会での改憲案提出に期待を寄せていた衆院憲法審査会は、自民党の下村博文・憲法改正推進本部長の失言で野党が猛反発、森英介会長(自民党)が職権による開催を断行したことで立ち往生を余儀なくされている。

 今年の通常国会での発議は可能なのだが、公明党の山口那津男代表が参院選などを控え与野党で合意形成を図る余裕はないとして、「改正を発議するのは難しい」との認識を示し、先行きが不透明な状況になっている。この流れで、参院選を迎え、3分の2以上の改憲勢力を維持できなければ、安倍政権下での改憲は頓挫する。どうしても負けられない参院選なのだ。

 ところが、これが容易ではない。1956年以降、亥年の参院選は5回行われているが、自民党は1勝4敗で議席を減らしている。前回、つまり12年前の参院選は第1次安倍政権の時で、この時の歴史的な惨敗が辞任への流れを決定付けた。安倍首相にとっては、恨み骨髄の「亥年現象」なのである。

 「冷や汗どころではない危機感を持たざるを得ない。東北地方の改選1人区で勝てるところはゼロに近い」

 昨年12月初め、自民党の竹下亘・前総務会長は岩手県盛岡市の講演で、夏の参院選への危機感を露わにした。竹下前総務会長率いる竹下派の参院議員は2018年9月の自民党総裁選で安倍首相ではなく、石破茂・元幹事長に投票して勇名を馳せた。石破元幹事長を支持した背景には「地方軽視の安倍首相では東北、山陰、四国など大都市圏から離れた地域の参院選で勝てない」との危機感があったとされる。結果として、石破元幹事長は地方票の約45%を獲得した。そうした党内状況が改善されたとは言い難い状況で迎える参院選について、自民党内には「地方にアンチ安倍を抱えた一体感の乏しい選挙になりかねない」(選対関係者)との危惧も広がっている。

衆参+国民投票のトリプル選挙?

 「冷や汗どころではない」状況を打破する策として、永田町で急浮上したのが「衆参ダブル選挙説」である。衆院選という「政権選択選挙」を併せることで、自民党の得票を有利にする策だ。このところ、参院選のたびに出回るダブル選挙説だが、今回はこれに憲法改正の国民投票も加えた「衆参国民投票トリプル選挙説」まで取り沙汰されている。

 自民党幹部が語る。

 「衆参ダブルにすれば、野党の候補者調整は難しくなる。野党共闘を阻む有効策なんだ。通常国会で憲法改正の発議が可能なら、国政選挙並みの費用がかかる国民投票も一緒にやるのが経済的だろう。理想を言えば、トリプルなんだ。ただし、壁も厚い。公明党はダブルに大反対だし、早期の改憲発議には党内にも異論があり、下手を打てば政権崩壊だ。内政、外交の流れの中で、安倍首相が当意即妙に判断するということだろうな」

 永田町では昨年末、2019年6月末に大阪で開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、安倍首相がロシアのプーチン大統領との間で北方領土問題と平和条約締結で基本合意した後、衆院を解散してダブル選挙に持ち込む「日露解散シナリオ」が注目された。その後、鳴りを潜めたが、案外、この辺りが19年前半の焦点になるのかもしれない。

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