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未来の会

病院における「チーム医療」の課題と可能性

病院における「チーム医療」の課題と可能性
医師・看護師・コンサルタントが経験を踏まえて提案

チーム医療の重要さが叫ばれる一方、その難しさも指摘される中、医師や看護師、コンサルタントによる「病院組織におけるチーム医療は可能なのか」と題したセミナーが2018年11月、都内で開かれた。ヘルスケア分野のコンサルティングサービスを提供してきた日本経営と、組織開発コンサルティングや人材開発を手掛けてきたオーセンティックワークスが合弁で5月に設立したミライバ(東京・品川区)の設立記念セミナーだ。

「連携」から一歩進んだ「統合」を目指すべき

 最初に、坂本すが・東京医療保健大学副学長・教授(日本看護協会前会長)が講演した。坂本氏は関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)で産科病棟婦長などを経て看護部長を務め、チーム医療の推進に尽力してきた。専門職と患者には情報格差など様々なギャップがある中で、看護師の果たす役割を表現する言葉として作ったのが「間隙手」。野球の守備になぞらえ、専門職間で責任の所在が曖昧な問題に目を配り、患者を“深刻な谷間”に落とさないという意味を込めた。そして、専門職の間隙で落ちそうな患者を救うことにチーム医療の役割を見出したという。

 また、坂本氏は「チーム医療は必然的なもの。短期的には医師1人で患者を診られるが、例えば乳がんのように長いスパンで診るべき病気ほど、多職種が関わらないと対応できない」と述べた。

 坂本氏は看護管理者時代、病院の理念や院長のビジョンがなかなか浸透しない現実を見てきた。病院全体を見据えた医療安全文化が醸成されていなかったり、目標管理が形骸化していたり、チームで成果を出しているのに個人評価が行われる仕組みみになっていたからだ。チームや組織に共通の意識を生み出し、多様な活動に一貫性を与えるには、上からの押し付けでない「共有ビジョン」が必要だという。共有ビジョンを作るために、坂本氏は「多職種の連携からもう一歩進んで、統合を目指すべき」と話す。それには、リーダー自らがビジョンを持った上で、一人ひとりの構成員の個人ビジョンを聞き、お互いの差異を埋めていくことで統合していく。

 大切なのは、それぞれの意見が建設的に積み重なることで、組織全体の意見に仕上がっていくこと。そのためには、議論(対話)できる「場」作りが重要で、疑問に思うことを話し合ったり、多様性を認めたりする文化を作ることが必要だ。

 共有ビジョンが組織に浸透すれば、「学習する組織」に生まれ変われる。それは、個人とチームが効果的に変化を創り出す力を伸ばし続ける組織のこと。形式的なチームから、共通の目的のために進化を続ける一つの生命体のような組織に変わるのだ。

 次に登壇した清水広久・埼玉成恵会病院外科部長は、「チーム医療が問題になるのは、チーム医療がうまくいっていないから」と指摘した。長期にわたって解決されていない問題の一つであり、従来通りの対策では解決できないという。

 清水氏がチーム医療を推進するために重要だと考えるのは「木を見て、森を見る」という発想だ。それは、自分の問題と並び、他人の問題にも目を配ること。人はなかなかそういった発想を持てないので、周囲に意識的に関わっていこうとする姿勢が必要だと述べる。さらに、自分と他者との関係で目が行かない部分が出てくる「認知の死角」があると指摘。一つの視点だと死角ができるが、複数の視点により死角をなくすことができると説明した。それは、チーム医療の意義に繋がってくる。そして、異質性を前提としたチームビルディングを当たり前と考えなければならないと強調する。

 チーム医療を成功させるためのポイントは「目的を決めること」という。チームに加わる専門職が、目標と使命を共有することが大切だと説明した。心理学者ウィル・シュッツ「ヒューマン・エレメント・アプローチ」を引いて、チーム形成において上下関係という「支配性」、チームが開いているか閉じているかという「開放性」に加え、いろいろな個人の特性に目を向けていく「仲間性」があると述べた。チーム医療をうまく生かすには、個人を大切にすることが重要という点で坂本氏と共通した考えを示した。

パワーコントロールではなく「対話」を

 最後に、江畑直樹・ミライバ取締役兼日本経営副部長が登壇。病院の組織改善を進めてきた経験から、チーム医療の課題を述べた。江畑氏は16年間の仕事の中で、病院スタッフの帰属意識の低さが変わらないと指摘。そのため、組織としてのまとまりはなく、スタッフはお互いに寄り添わず、傷付け合っているという。背景には、病院固有の「構造的な特徴」があり、組織の一枚岩やチーム医療を妨げていると説明。三つの構造的な課題を挙げる。

①医師が高度専門職で医局からの派遣→経営方針(ビジョン)・経営目標に貢献しようという意識が低い

②専門職が一つのチーム(診療科・部署)になり、複数存在する→診療科間・部署間の対立と連携の不足

③医師の指示判断に基づく診療行為→医師に対する他職種の不満が起き、双方にセクショナリズムが生じる

 この構造を変えることは難しいが、江畑氏は変えなくともチーム医療を円滑にする手はあると言う。パワーでコントロールするのではなく、「対話」を戦略的に行うことだ。二つの観点から対話をすると良いと述べる。一つ目は、組織の現状やうまく進まないテーマについて「お互いに見えていること、感じていることをシェアし、受け取り合うこと」、二つ目は「これからどうしていくのかを皆で話し合い、ゼロからデザインすること」。共通している点は、自分の主張にとらわれたり、誰かを批判したり、愚痴を言ったりしないこと。

 まず、それぞれ想いのある専門職が個別バラバラで動くのではなく、より高い志に向け、心を一つにして、これまでになかったことを可能にする状態を創る。そうして、「組織の可能性を引き出しバリューを高め続けていく、スタッフ一人ひとりが生き生きと働ける状態を創ることが大切」と江畑氏は強調した。

 セミナー後半は、参加者がチームを作ってワークショップを行った。参加者から「議論したいテーマ」を募った結果、最も得票数が多かったのは「チームの中に医師を巻き込むには、どうすればいいか」。ファシリテーター(進行役)は中土井僚・ミライバ取締役(オーセンティックワークス代表取締役)が務めた。中土井氏は、人と組織の問題を解決するC・オットー・シャーマー博士の『U理論』の翻訳者で、同理論に基づくコンサルティング活動の日本における第一人者。チームごとに議論し、意見や結論をシェアした。

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