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未来の会

診療報酬改定を踏まえた「戦略的病院経営」

診療報酬改定を踏まえた「戦略的病院経営」
急性期で生き残るために必要な三つのポイント

9月12〜14日に千葉・幕張メッセで開かれた第1回「医療と介護の総合展」(主催:リード エグジビション ジャパン、共催:日本病院会、日本介護協会)。その専門セミナーの一つとして、様々な病院の経営改革に取り組んできた千葉大学医学部附属病院の井上貴裕・副病院長兼病院経営管理学研究センター長が14日、「平成30年度診療報酬改定を踏まえた戦略的病院経営」をテーマに講演した。

 まず「今回の改定で多くの病院は若干の増収を期待できるが、費用増も見込まれ、全体的なトレンドとしては増収減益が続くのではないか」との見方を示した。近年の平均的な病院機能別収支を概観すると、高度医療をカバーする特定機能病院の赤字幅が大きく、急性期医療を担うDPC(包括評価)対象病院も赤字基調。療養型の病院は黒字を確保しているケースが多い。

 一般病院全体で見ると、2106年度の損益差額(対収入比)は3.2%の赤字。これに対して、一般診療所全体では6.7%の黒字である。井上氏は「一般病院の経営は悪化の方向だが、この傾向は続くことが予想される。一方、一般診療所の経営は上向く可能性がある。その理由は、今回の改定で初診料の機能強化加算が設定されたため。一定の条件を満たす必要があるが、80点という加算は高い評価といえる」と話す。

 新設された初診料の機能強化加算の対象は200床未満の病院と診療所。外来医療における大病院とかかりつけ医との役割分担を促進する狙いが込められている。

 大規模病院の経営を圧迫する要因として、控除対象外消費税(損税)問題がある。これは医療機関が高額の医療機器などの仕入れに際して負担している消費税額が、保険診療行為が非課税取引とされているために控除できないという問題だ。

 厚生労働省は病院が仕入れ時に負担した税額分に対し診療報酬に一定割合を上乗せして補塡する方法をとってきたが、このほど補塡額が不足していたことが明らかになった。同省が改めて精査したところ、2016年度の補塡率は病院全体で85%。中でも特定機能病院の補塡率は61.7%で、約4割の補塡不足が生じていた。

大垣市民病院は20億円以上の黒字を計上

 病院の開設主体別で見ると、最も厳しい状況に置かれているのが公立病院だ。全国の公立病院の損益差額は2012年度に約6%の赤字だった。2014年以降は赤字幅が10%を超え、悪化の度合いが強まっている。「公立病院の経営が赤字になると、自治体などからの補助金で補塡されるが、補助金があるから効率改善が進まないという側面もある」と井上氏。2015年度は全国で30以上の公立病院が年間20億円を超える繰入金を計上。静岡がんセンターや東京都立墨東病院など、いくつかの公立病院では60億円超の繰入金が発生している。

 一方、全体から見るとわずかだが、20あまりの公立病院が黒字経営を実現している。多くは年間数億円程度だが、突出しているのが20億円以上の黒字を計上している大垣市民病院(岐阜県)である。

 「収入に対する給与の比率の平均値は50%内外。一般には50%を超えると赤字になる傾向が強い。同病院の場合、給与比率は約40%で非常に低い。しかし、医師や看護師の給与が低いわけではない」と井上氏。医師や看護師に対して患者数が多いので、一人ひとりがより密度の高い働き方をしている。仕事の内容と量、マンパワーの適切なマッチングが維持されているという言い方もできる。

 医師や看護師の数に対する退院患者の多さも同病院の特徴だ。他病院に比べて患者が早く退院する。入院患者の回転が速い、つまり治療の密度が高い。周囲にライバル病院が少ないという地の利の良さなども関係しているようだ。

 2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる。医療費の膨張が懸念される中、厚労省は診療報酬の高い急性期に偏った病床構造の見直しを図っている。病床数全体の割合イメージをいわゆる「ワイングラス型」から「ヤクルト型」へ転換することだ。これまでは7対1が30万床以上、10対1が20万床以上に対して、13対1が2万床台、15対1が5万床台、療養病棟が20万床あまりと中間部分(亜急性期等)のサービスが極端に薄い。こうした現状を改め、急性期から療養型、さらに在宅医療、外来医療までをバランス良く配置しようというのが政策の目指す方向だ。

入院予定の曜日管理が重要

 急性期医療に踏みとどまるとすれば、三つのポイントに注意する必要があると井上氏は指摘する。第1に、入院初期は看護必要度が高い。高密度の医療を短期間に実施する必要がある。第2に、救急患者は予定入院患者よりも看護必要度が高い。第3に、手術患者は看護必要度が高い。こうした点に留意しながら、救急と手術をバランス良く手掛け、その患者をなるべく早く退院させることが重要だという。

 看護必要度の高い患者に対して、高密度の医療を提供すること。年間通じて、こうした取り組みができれば経営は安定する。具体的な施策の例として、井上氏は予定入院の曜日管理を挙げる。「土日曜はベッドの稼働が低下する。平均稼働率を高める上で、週末の活用は一つのカギ。多くの病院では月曜に予定入院の患者が集中するが、これでは全体の稼働率向上はあまり期待できない。日曜の入院を可能にすれば、週の前半に集中的に検査や治療を行い、週の半ばに別の予定入院患者を受け入れることもできる」。

 病院経営者の中には早期退院、在院日数の短縮を強調する向きもあるが、井上氏は「平均在院日数そのものには注目していない」と言う。診療科によって、在院日数にはバラツキがあるからだ。

 「例えば、長期入院の多い血液内科で『〇日以内を目標にしましょう』と言えば、それは『患者を診るな』と言っているようなもの。逆に、短期入院の多い診療科で同じ目標を示しても、意味がない。私は診療科ごとの全国平均よりも在院日数を短くすることを意識している」

 こうした手法により、千葉大学医学部附属病院の平均在院日数は短縮された。井上氏が同病院副院長として着任した2015年4月時点で14〜15日だった平均在院日数は、1年後には12〜13日になった。

 この他にも、井上氏は様々な施策を実行に移している。その結果、同病院の収支は大きく改善した。2014年度は7億円の赤字だったが、16年度に収支がバランスし、17年度には4億円以上の黒字に転換。ただし、「医療機器の購入などを抑制した面もある」という。井上氏は経営体質をさらに強化しつつ、中長期的に同病院の価値を高めるための戦略を推進する考えだ。

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