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文科省汚職で最も注目された「ブローカー妻」の猛反論

文科省汚職で最も注目された「ブローカー妻」の猛反論
局長の息子「慈恵医大」1次試験合格に疑惑も

東京医科大学を巡る〝裏口入学〟事件が、思わぬ広がりを見せている。ブローカーとされる被告の妻を名乗る人物がホームページを開設、夫の無罪を訴えるとともに、政治家や官僚の実名を挙げて〝道連れ〟にしようとしているのだ。ホームページでは、裏口入学の当事者とされる文部科学省幹部の息子の受験結果も明らかに。「合格」が伝えられた大学には新たな疑惑の目が向けられることになった。

 事件を簡単におさらいしよう。東京地検特捜部が、文科省の私立大学支援事業に選定されることの見返りに息子を東京医科大学に合格させてもらったとして、文科省科学技術・学術政策局長(当時)の佐野太被告(58歳)を、受託収賄容疑で逮捕したのは7月4日。佐野氏の他、東京医科大の関係者と佐野氏を仲介したとして受託収賄幇助の疑いで医療コンサルティング会社元役員の谷口浩司被告(47歳)も逮捕された。

 「捜査には二つの流れがあります。一つは佐野氏に続き、2人目の文科省官僚が逮捕された〝接待ルート〟、そしてもう一つは、東京医科大を舞台とした〝裏口入学ルート〟です」(大手紙社会部記者)。

 事件については前号、前々号でもお伝えしてきた。特捜部の捜査の過程で、東京医科大が特定の受験生を優遇するだけでなく、女性や多浪差別を行っていたことも発覚し、世間から批判を浴びたことも既出の通りである。

 東京医科大が世間の批判にさらされる一方、接待ルートにも動きがあった。「文科省の国際統括官だった川端和明被告(57歳)が収賄容疑で逮捕されたのです。文科省で2人目の逮捕、それも統括官という幹部ですから、省内には衝撃が走った」(全国紙の文科省担当記者)。

 川端氏の逮捕容疑は、出向先の宇宙航空研究開発機構(JAXA)で理事だった2015年8月〜17年3月、谷口氏のコンサル会社に便宜を図るなどした見返りに、都内の飲食店で20回以上にわたる接待を受け、タクシー券をもらうなど計約150万円相当の賄賂を受け取ったというものだ。検察担当記者によると、現金授受でなく飲食接待で150万円台での立件は旧大蔵省や防衛省などを舞台にした過去の汚職事件と比べて少額のため、慎重な声も大きかったという。しかし東京地検特捜部は、接待に厳しくなった時代背景を踏まえ逮捕に踏み切った。

 特捜部はさらに、川端氏への贈賄に関わったとして贈賄容疑で、海外滞在中の男(55歳)の逮捕状も取った。この男は谷口氏も役員を務めた同じ医療コンサル会社の元役員であり、関係者によると「男が指示役で、谷口氏は実行部隊といった役割だった」という。

 関係者によると、2人が役員に名を連ねていた医療コンサル会社とは「東京医療コンサルティング」。ホームページによると、製薬企業や医療機器の会社に勤めていた女性が社長を務め、10年に設立された。「日本の医療技術を海外移転する際などのコンサル業務が業務の中心で、外務省など政府系の団体と繋がりが強い。一方で文科省や医療を司る厚生労働省との直接の繋がりは見当たらなかった」(全国紙記者)。

会議員・官僚の実名挙げて情報発信

 ところが、である。順調に思えた捜査の裏では、意外な動きが起きていた。谷口氏の逮捕から3週間ほど経ったころ、インターネット上に「谷口浩司のホームページ」なるサイトが立ち上がったのである。「谷口浩司を信じる妻の疑問」と副題が付いており、どうやら「書いているのは谷口氏の妻本人か、極めて妻に近い人物とみられている。谷口氏の無実を主張するために立ち上げたようです」(同)。

 その内容がすごい。最初に〝やり玉〟に上がったのは、2人の国会議員、国民民主党の羽田雄一郎・参院議員(51歳)と立憲民主党の吉田統彦・衆院議員(43歳)だ。サイトでは、谷口氏が羽田氏の政策顧問を務めていたこと、文科省の佐野前局長と東京医科大の臼井正彦・前理事長を紹介したのは吉田氏であるといった内容が詳細に綴られている。

 羽田氏は言うまでもなく羽田孜・元首相の長男で、現在参院議員4期目。どうやら谷口氏は羽田氏の政策顧問として霞が関人脈を広げていたとみられ、厚労省幹部も谷口氏のことを「羽田議員の関係者だと認識していた」と語っている。一方の吉田氏は、名古屋大学医学部卒の眼科医で、09年の衆院選挙に民主党(当時)から出馬し初当選。サイトには吉田氏が臼井前理事長や佐野前局長と親しく、谷口氏とも宴席を共にしたことなどが書かれていた。

 さらに、羽田氏が負った借金の返済のため「一般社団法人スポーツコンプライアンス教育振興機構」など複数の団体を立ち上げるよう羽田氏側から谷口氏に指示があったこと、その際に官僚の協力が不可欠だったことなどが綴られ、接待に使った金は谷口氏の実兄が勤めていた「アイシン共聴開発株式会社」から出ていたとの記述もある。

 複数の国会議員や現役官僚の名前が次々に出て、「証拠品」とばかりに写真や領収書などもあげられている迫真のサイトだけに、「各社の検察担当記者は谷口妻に振り回され、サイトが更新されるたび事実確認に走った」(全国紙の社会部デスク)。このデスクによると、「谷口妻は夫が政治家の使い走りにすぎなかったと主張したいようです。夫に指示した人間や他に実行役となった人物が逃げおおせるのは許せないというところでしょう」という。

東京医大以外の大学に関しても言及

 谷口妻の〝反撃〟の多くは政治家、官僚の「接待ルート」に対して行われているが、中には「裏口入学ルート」に言及する記載もあった。家族ぐるみの付き合いだったという文科省の佐野前局長の息子が東京医科大の他に東海大、帝京大の医学部に合格したこと、北里大、東邦大、東京慈恵医大の1次試験に合格していたと暴露したのだ。記事にはご丁寧にも各医学部の偏差値まで書かれ、第1志望の昭和大医学部だけは1次も落ちたと書かれていた。なお、立憲民主党の吉田氏は昭和大医学部の客員教授を務めている。

 社会部記者によると、この情報を受けて実際に佐野氏の息子が受験したかを調べ直した大学もあったという。「受験先の中で偏差値が74と唯一突出していた東京慈恵医大では本当に1次試験に合格していたことが確認された。他大学に比べて難易度が高いことから、慈恵でも点数操作があったのではないかと疑惑を呼んだ」というから、谷口妻の威力は恐ろしい。

 当然このサイトの存在は東京地検特捜部も把握しており、捜査との関係があるのか記事や写真も出たり消えたりを繰り返している。妻はがんで闘病中といいサイトの更新も止まっているが、このサイトが一連の事件で最も注目を浴びた存在であることは間違いない。

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