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美容外科から難病治療まで 「再生医療」に関わる現状と展望

美容外科から難病治療まで 「再生医療」に関わる現状と展望
成長を続ける美容医療業界。一方で、契約や広告に関するトラブル、「再生医療」と銘打った美容治療による事故なども起きている。美容治療はどのような方向に向かうのか。日本再生医療学会理事/ネットワーク委員会委員長で、日本美容外科学会理事/再生医療等検討委員会委員長でもある水野博司・順天堂大学医学部形成外科学講座教授に話を聞いた。
——美容外科のイメージが変わってきているようですね。

水野 以前は医師や患者からネガティブなイメージを持たれていましたが、2000年頃から変わってきました。背景に、レーザーを使った肌の引き締めや注射によるしわ取りなど外科的手術以外の施術が増え、患者が利用しやすくなったこと、我々世代の医師の間にも美容外科に対する拒否反応が少なくなってきていることがあります。

——施術を受けようとする人には、二つの「日本美容外科学会」があることは混乱の元です。

水野 歴史的な成り立ちや考え方の違いから、開業医や大手美容外科チェーン中心の学会(JSAS、1966年日本美容整形学会として設立。78年改称)と、日本形成外科学会の会員が中心の学会(JSAPS、77年日本整容形成外科研究会として設立。78年改称)が同名で存在しています。美容外科医院のホームページに所属医師のプロフィールとして「日本美容外科学会専門医」と書かれていても、どちらの学会の専門医か分からない状況です。また、いずれの学会にも所属していない美容外科医もいます。

——これまで両学会を統合しようという話はなかったのですか。

水野 分かりづらいので統合を模索したこともありましたが、お互いの利益や主張が合わず、対話は中断したままです。例えば専門医については、JSAPSは形成外科学会の専門医認証を前提にしていますが、会員のCMにより集患力のあるJSASは症例件数を重視するので、専門医認定基準のすり合わせができませんでした。ただ、両方の学会に入会している医師もいます。また、二つの学会とも美容医療を健全に行おうとしている点は共通しています。

——「再生医療」を全面に出す美容外科も増えており、中には事件を起こしている医院もあります。

水野 昨年、他人の臍帯血を使った再生医療を無届けで行ったとして7クリニックの医師ら10人が再生医療安全性確保法違反で書類送検されました(不起訴)。この中に、二つの学会の会員もいましたが、この事件で逮捕された臍帯血販売会社の説明を信じて行ってしまったらしく、悪意はなかったと聞いています。

美容外科の可能性を広げる再生医療

——再生医療と言うと、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使ったパーキンソン病の臨床試験や心不全の臨床研究などが最近話題になっています。

水野 従来から施術に使われていたPRP(多血小板血漿)を再生医療に入れるかどうか、以前議論になりました。これは血小板を濃縮した血漿で、局所に移植することによって組織再生を促します。皮膚に打つと肌がツルツルになったり、歯科領域では歯周病で失われた歯周組織を再生したりする効果があります。結果的にPRPは再生医療に分類されました。これによって、医療機関は治療の届け出が必要になり、国は治療の実態を把握することができ、施術の透明化が高まりました。ただ、生きるか死ぬかの病気を治療するための再生医療と、肌をツルツルにするための再生医療は次元が違います。前者の研究に取り組んでいる研究者からすると、美容関係の再生医療にネガティブな考えを持っている人もいると思います。

——そうは言っても、美容外科の再生医療の可能性に期待を持っている?

水野 再生医療には、法律に縛られるものと縛られないものがあります。法律に縛られるのは細胞を使った治療です。美容における再生医療も細胞を使うか使わないかの二通りがあり、細胞を使うケースはPRPを使った治療が圧倒的に多い。例えば、PRPは乳がん手術後の乳房の再建の際、脂肪幹細胞と混ぜて打つと脂肪の吸収量が抑制され、定着が良いというデータもあります。美容外科における再生医療は既存の細胞治療や手術以外の施術のオプションとして行うことで、より効果を高めることができます。ただ、法律の名称が「再生医療等安全性確保法」と言うように、安全性を担保しても、有効性は保証していません。細胞を使った治療効果には個人差があるので、医薬品や医療機器のように一律に評価できないからです。早期承認する代わりに、市販後調査で効果をフォローアップするのです。

ナショナルコンソーシアム事業で体制強化

——虚偽・過剰広告などを禁じる改正医療法が6月から施行されました。医療機関のホームページの掲載内容も「広告」とみなされました。改正は美容外科の広告がきっかけと言われています。

水野 過剰請求など詐欺まがいのことは以前からあり、問題視していました。しかし、美容外科はほとんどが自由診療なので、未承認の医薬品や医療機器などを個人輸入で使ったりしています。こういうものまでPRできないとなると大変困るので、美容外科業界はホームページの医療情報は広告ではないと主張しました。結果的に規制対象になり、有名人によるPRや術前・術後の写真などが載せられなくなりましたが、両学会とも現在は理解して対応しています。

——日本再生医療学会の立場から、日本の再生医療をどう見ていますか。

水野 日本の再生医療は世界をリードしています。早期に承認して進めていくという制度が非常に奏功し、海外も追従する形を取ってきています。それもアカデミアだけでやるのでなく、患者団体や産業界、行政などと連携を強化し、オールジャパン体制で再生医療の臨床研究に取り組んでいます。その技術的な支援を行っているのが、日本医療研究開発機構(AMED)の再生医療ナショナルコンソーシアム事業です。具体的には、臨床研究の支援、教育・人材育成、臨床研究データの集積・共有化を行っています。

——委員長を務めるネットワーク委員会の役割は?

水野 東西の再生医療の拠点のネットワーク化を行うことで、研究者の支援や研究の底上げを図ったり、臨床研究のデータベース化により研究者がデータを利用しやすい環境を整えたりしています。科学的な面では大学間で競争関係にありますが、学際色の強い学会なので、様々な支援もできるのです。

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