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未来の会

「重老齢社会」で社会保障費の伸びをどう抑制するか

「重老齢社会」で社会保障費の伸びをどう抑制するか
厚労省の概算要求額約32兆円の3分の1は医療分野

厚生労働省の2019年度予算の概算要求は、7年連続で30兆円を超える31兆8956億円で、過去最大を更新し続けている。今年度当初予算と比べて2・5%(約7700億円)の増額となった。後期高齢者(75歳以上)の人数が前期高齢者(65〜74歳)を上回る「重老齢社会」が到来する中、社会保障費の伸びをいかに抑制するかが、引き続きの課題となるが、今年末は例年と比べて様相が異なりそうだ。

 概算要求の特徴は、安倍政権肝いりの働き方改革関連法が来年4月から順次施行されるのを控え、後押しする施策が盛り込まれた点だ。終業と次の始業の間に一定の休憩時間を設ける勤務間インターバル制度の導入支援に向けた業種別導入マニュアルの作成を進め、導入経費の助成金も拡充する事業など中小企業支援として1200億円を計上。20年までに導入企業の割合を10%以上にしたい考えだ。正規と非正規の待遇格差を是正する取り組みも実施し、助成金なども拡充する。働き方改革全体で今年度当初予算比で2割程度増える約3800億円を求めた。

高齢化や高額薬剤費の増加が影響

 予算の大多数を占める社会保障費の内訳をみると、最多を占める医療は11兆8746億円(今年度当初比2%増)。高齢化の進展や高額薬剤費の増加が影響した。介護は3兆1866億円(同3・7%増)▽年金11兆7822億円(同1・4%増)▽子育て支援3382億円(同5%増)▽障害福祉1兆9713億円(同7%増)▽生活保護2兆9166億円(同0・02%増)などだった。

 医療分野では、2025年の医療需要を把握し、それに合わせて医療機関を再編・統合する「地域医療構想」の推進を重点施策に位置付け、645億円を計上した。このうち622億円は、再編に伴う施設整備を支援するための基金に積み、都道府県に補助する。医師偏在対策として、全国的に医師の配置を調整するシステム構築を開始するため5300万円を要求した。医師の働き方改革の推進に向け、業務の移管やICT(情報通信技術)の活用などに取り組む医療機関を支援する。具体的には、服薬指導や入院の説明など本来は薬剤師や看護師が担当する業務を医師が担っているケースもあるため、業務移管を進めている医療機関には追加的に必要となった人件費を補助する。

 重点施策に位置付けるがん患者のゲノム(全遺伝情報)を治療に生かす「がんゲノム医療」関連では58億円を要求。一度に多くの遺伝子を調べる「遺伝子パネル検査」を来春にも保険適用する方針で、遺伝性のがんが見つかった患者や家族への説明に当たるカウンセラーなどの人材育成や患者情報の集約システムの構築に充てる。解散が懸念される健康保険組合を財政支援する仕組みも新たに作る。高齢者の医療費を賄うための拠出金負担が重く財政が悪化している健保組合が多いため、解散に至る前の段階で財政支援によって「解散予備軍」の自主的な再建を促すのが目的。約30億円を要求した。

 受動喫煙対策の強化を盛り込んだ改正健康増進法関連として、「喫煙専用室」設置の補助や相談支援に47億円を計上するなど、飲食店への支援を盛り込んだ。

 介護分野では、深刻化する介護人材不足の拡充が目立つ。外国人介護職員を受け入れる福祉施設に、日本語学校の通学費用や介護の勉強に必要な教材費などを新たに補助するため13億円を要求。来年にも創設される新たな在留資格に備え、来日した外国人が日本語や資格を身に付けて施設で長期間働けるように支援するのが狙いだ。介護事業所の作業効率化を目指すガイドラインを策定し、普及させる事業には、今年度の6倍となる18億円を充てる。介護職員をケアに専念させるため、事務や清掃などを担うスタッフの人件費を補助する事業も開始する。

 認知症対策でも、新たな補助制度を作る。認知症の人が他の認知症の人の相談に乗ったり、認知症の人同士で体験を共有したりする活動「ピアサポート」を広める。認知症の診断後にふさぎ込む人が多いため、当事者同士の支え合いを広げることで不安を取り除き、自宅などで元気に暮らせる環境を整える。6億円を要求した。

 若い世代に関心の強い保育分野にも力を入れる。2020年度末までに32万人分の保育の受け皿を整備する「子育て安心プラン」に基づき、新たに898億円をかけて6万5000人分の保育所整備を進める。併せて、保育人材の確保に計178億円を要求した。

 保育所と保育士が希望する勤務時間や働き方などを細かく入力して採用の可能性を探る「マッチング・システム」を導入する自治体に補助金を出す。長く保育現場を離れている「潜在保育士」の復職を支援するため、私立保育所が潜在保育士を試行的に雇用する際、研修費などを補助する制度を新たに設ける。

 東京都目黒区の女児(5歳)が虐待を受けて死亡した事件を受け、児童虐待対策も強化する。虐待の通報や相談を24時間受け付ける全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」の通話料を無料にする。相談窓口に繋がるまでに電話が切れてしまうケースが多いことから、着実に子供の安全確認や支援に繋げるようにするのが狙いだ。厚労省の調査で、携帯電話からの通報7673件のうち4166件が児童相談所に取り次ぐオペレーターに繋がる前に切れていたことが判明。通話料金が発生することを伝える冒頭の音声案内で切れたのが3454件に上ることから、無料化することが早期の安全確認に繋がると判断した。

 来年10月に予定通り消費税率が10%に引き上げられれば、低年金者に年間で最大6万円支給する「年金生活者支援給付金」や非課税世帯の介護保険料の軽減幅の拡大策を実施する。公明党は2〜3カ月前倒しするよう求めている。省内では「財源を確保しなければ難しい」との声が漏れ、実施時期も年末に調整する。

 高齢化などに伴う自然増は6000億円と見込んだ。16〜18年度の予算では、社会保障費の伸びを3年間で1・5兆円に抑える目安を設けていた。いずれも概算要求額から医療や介護保険制度の見直しなどで年1300億〜1700億円を削減し、5000億円に抑えてきた。

参院選にらみ負担増の議論できない

 ただ、来年夏の参院選を控え、与党内から目安を設けることに反発する声が根強く、来年度については具体的な削減目標を設定しなかった。最終的には5000億円前後に収めることになりそうで、1000億円程度は削減する必要がある。ただし、薬価の引き下げなどで財源を捻出し、直接の国民負担増は避ける見通しだ。厚労省幹部は「参院選を控え、負担増の議論はできない」と明かす。近年は年末の恒例行事のようになっていた財務・厚労両省間の予算編成を巡るせめぎ合いは、今年末はなさそうだ。

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