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未来の会

世界に先駆けるがん医療で期待に応える ~AIでもゲノム医療でも日本のトップを突き進む~

世界に先駆けるがん医療で期待に応える ~AIでもゲノム医療でも日本のトップを突き進む~
佐野 武(さの・たけし)1955年大分県生まれ。80年東京大学医学部卒業。同大附属病院研修医。81年焼津市立総合病院外科医員。84年東京大学第一外科医員。86年フランス政府給費留学生(パリ市キューリー研究所フェロー)。88年東京大学第一外科医員。同年三楽病院外科医長。89年東京大学第一外科助手。93年国立がんセンター中央病院外科医員。96年同医長。2007年同第二領域外来部長。08年(公)癌研有明病院消化器外科上部消化管担当部長。12年(公財)がん研有明病院消化器外科部長。15年同病院副院長、消化器センター長。18年同病院病院長。日本胃癌学会理事。国際胃癌学会事務局長。ドイツ消化器一般外科学会特別賞、英国上部消化管外科学会特別賞、日本消化器外科学会賞などを受賞。

がん専門病院として、日本でトップのがん治療数を誇るがん研有明病院。多くの患者に支持されるがん医療の提供に加え、内視鏡での胃がん診断AI(人工知能)の開発に関わり、がんゲノム医療の研究でも最先端を突き進もうとしている。今年7月に病院長に就任した佐野武氏に、がん医療の現状や、民間として同病院が抱える課題と今後の展望について話を聞いた。

——病院長としてこれから取り組んでいきたいことは?

佐野 私は国立がん研究センター(国がん)に16年ほどいまして、ちょうど10年前にがん研有明病院に移ってきました。それ以来、3人の病院長の下で働き、ここ3年間は副院長も務めてきました。もう10年になるので、この病院のことは大体知っていると思っていたのですが、実はそうではなかったのです。病院長になってから病院の隅々まで歩いてみたのですが、全然知らなかったところがいっぱいあって驚きました。私自身は消化器外科が専門で、消化器センター長でもあったので、消化器をやっている医師のことはよく知っていますし、その仕事も分かっているつもりです。しかし、それ以外の部門の人達のことは、よく分かっていないことが多かったのです。病院の進むべき方向などを考える際、このままでは私が知っている範囲内の情報だけで、判断することになってしまいます。それではまずいので、これからの方向性については、少し時間をかけて考えることにしました。幸い私には定年まで少し期間があります。それで始めたのが「院長勉強会」です。院長が勉強をする会なのですが、各科の医師にできるだけ集まってもらい、いろいろ勉強しています。その科で扱っているがんのこと、治療方針のこと、国がんと比べてどうなのかといったことや、世界の標準と比べてどうかといったことなど、いろいろ勉強しているところです。

——有明病院とがん医療全般を知ることから始めたのですね。

佐野 夕方1時間かけて、いろいろな科から話を聞いています。1回だけでは済みそうもないので、何カ月かかけて第2ラウンドもやるつもりでいます。この病院で医師が何をやりたいと思っているのか、それには何が足りないのか、といったことを見つけ出し、その上で方向性を決めていくつもりです。ただ、たくさんの人達の意見を全部足せば、方向性が決まるわけではありません。最終的には私自身が、この方向で行くということを、打ち出す必要があると思っています。

短期間に大きく変われる
——病院長からみた有明病院の特徴は?

佐野 がん研に来る前にいた病院は、国がんを始め、どこも国公立病院でした。そこでは、医療費全体のことを考えて無駄な検査は止めようとか、無駄な治療は減らそうとか、臨床試験をしっかり行おうとか、とにかく正論を吐いてきたわけです。それを実行するために必要なお金は、国や県や市が、どこかから出してくれる状況でした。しかし、ここではそうしたお金は出てきません。得るべき収入はしっかりと得ながら、医療をやらなければなりません。そのためには、状況に合わせてどんどん変わる必要があります。国公立病院はガチガチに決まりがあり、例えば病室を増やすとか、看護師を増やすといったことは、そう簡単には行えません。ところが、この病院では、トップダウンであっと言う間に変えることができます。今度の工事で手術室を三つ増やそうというようなことが、経営陣と連携することで、スピーディーに実現できてしまうのです。こういう強みを最大限に生かしていきたいと思っています。

——病院経営について考えていることは?

佐野 がん研には、病院本部と研究本部と経営本部があります。従って病院経営は、どうするのがいいかということを、経営本部と相談しながら進めていくわけです。病院長はもちろん経営に関わりますが、病院経営の全てを統括する責任者ではありません。私の前に病院長を務めていた山口(俊晴)先生も、その前の門田(守人)先生も、有明に移転した時の大きな借金があったため、それを返すことが大きな重荷になっていたようです。もちろん借金は残っていますし、今も油断はできませんが、最も苦しい時期は過ぎています。そこで、私は理想論を掲げ、医学的なことを前面に押し出して、経営本部にこういうことをやりたいとお願いするつもりです。私が経営のことを考えて、これは止めておこうと消極的になるより、いろいろ案を出してみて、「いくらなんでもそれは無理です」と言われたら引き下がる、というくらいで良いのではないかと考えています。

臨床研究法には大きな問題がある
——日本のがん医療の現状をどう見ますか。

佐野 血液がんを除く固形がんの治療は、手術と化学療法と放射線療法の三つをどう組み合わせるかで決まるのですが、そのうちのどれが強いか、国によっていろいろ違いがあります。日本のがん医療は圧倒的に手術が強いのが特徴で、実際に手術の占める割合が大きくなっています。どのような治療が良いのかについては、きちんと臨床試験を行う必要がありますから、常に計画を立てて、臨床試験を行っていく必要があります。

——世界における日本の臨床試験のレベルはいかがですか。

佐野 日本で行った臨床試験の論文が、世界の一流誌にもどんどん掲載されるようになっています。そうしたレベルにあるのですが、現在最も心配しているのは、今年4月に施行された臨床研究法です。スキャンダルが起こると、その対策として規制が滅茶苦茶に厳しくなってしまうようなことが、昔からよくありました。今回の臨床研究法はまさにそれで、非常に厳しい規制が加わることになりました。国が認定したIRB(Institutional Review Board=倫理審査委員会)を通さなければならなくなったわけですが、そのために、現在進行している臨床試験も止まったりしています。例えば、臨床試験で行う薬の使い方が添付文書に記載された通りでないと、適応外だということになって、厳しい認定IRBを通さなければなりません。


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