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【アメリカ】カイザーパーマネンテとマネジドケア①

【アメリカ】カイザーパーマネンテとマネジドケア①
カイザーパーマネンテの概要

 今回と次回は、一時期批判が多かった米国のマネジドケア(管理医療手法を用いて医療費を抑制することを目的とした医療保険制度のこと)の代表的な組織であるカイザーパーマネンテを紹介したい。かなりの変貌を遂げている。

 カイザーパーマネンテは1945年に米カリフォルニア州オークランドに、実業家のHenry J. Kaiser氏とSidney Garfield医師によって設立された。Kaiser Foundation Health Plan, Inc.(保険)、そして地域の運営体であるKaiser Foundation Hospitals、Kaiser Permanente Medical Groupの三つからなる。米国で最大規模のマネジドケア機構で、現在では8州(ハワイ、ワシントン、オレゴン、カリフォルニア、コロラド、メリーランド、バージニア、ジョージア)、そしてワシントンDCで展開している。

 カイザーパーマネンテといえば、マネジドケアという言葉が連想される人も多いのではないか。ここで米国の医療保障について簡単に復習しておきたい。

メディケアとメディケイド

 米国の社会保障は、給与所得者の退職給付と一部の公的扶助のみからスタートし、1965年にはメディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)、メディケイド(低所得者・身体障害者に対して用意された公的医療制度)が始まった。ちなみに、カイザーパーマネンテの創設はメディケアやメディケイドにさかのぼること20年前である。日本でも国民皆保険になる前に、企業が互助のために健康保険組合を設立したことに類似している。

 1965年に65歳以上の人の公的な医療保険としてメディケアが成立した。同じ年に、生活困窮者に対する医療保障としてメディケイドが作られた。さらにメディケアは、1972年の改正で対象が65歳以上の者だけでなく、24カ月以上就業不能の者、腎臓透析、腎臓移植を必要とする者に拡大された。ちなみにメディケアに加入するためには、本人または配偶者が、勤労者及び雇用主に課税される税の一部であるメディケア税を最低 10 年以上納付していることが条件となる。

連邦政府主体のメディケア

 メディケアは全国単一の保険者であり、米国保健省(HHS, U.S. Department of Health and Human Services)の中の組織であるCMS(Centers for Medicare & Medicaid Services)が運営する。加入者は2013年において4350万人、また、障害者の加入者数は880万人であり、合計すると5230万人、国民全体の約6人に1人がメディケアを利用していることになる。

 1965年に成立した時には、主に入院/病院内での医療を対象とするパートAと、主に外来/医師による直接医療を対象とするパートBの二つから構成されていた。

 パートAは、社会保障税を主な財源とする強制加入保険であり、入院医療、SNF(Skilled Nursing Facility: 日本の老人保健施設に相当)、一部の在宅医療、ホスピスなどのサービスを給付内容とする。

 なお、メディケアは、パート Aの支払いには、1983年から包括支払い方式であるDRG/PPSを導入している。また、SNF、一部の在宅医療、ホスピスなどの慢性期のサービスの償還には制限がある。

 パートBは、加入者の保険料と連邦政府の一般歳入を財源とする任意加入の保険である。パートA加入者のほとんどが、パートBにも加入している。給付対象は、医師の技術料、一部の在宅医療、病院外来医療などである。

 その後、1997年の財政均衡法(Balanced Budget Act)の成立により、これらのプランに加えて、加入者が様々なタイプの民間保険プランから受給を選択できる、メディケア・パートC、いわゆるメディケア・プラス・チョイスが創設された。同制度は、2003年のメディケア改革法によって、新たにメディケア・アドバンテージとなった。

 メディケア・アドバンテージは、マネジドケアであるHMO(Health Maintenance Organization、健康維持機構)、PPO(Preferred Provider Organization、優先医療給付機構)、POS(Point-of-Service Plan、次回に詳しく述べる)などの民間保険プランを選択し、自己負担額や控除免責金額がメディケアよりも少額に設定されるプログラムである。

  さらに2003年には、メディケア処方薬改善・近代化法(Medicare Prescription Drug, Improvement, and Modernization Act)が成立し、パート D が加わった。パートDは外来処方薬給付金を負担し、メディケア加入者が任意で加入でき、加入率は約 60%(2012 年)である。前述のパート B が一部の外来処方薬を負担するものの、負担されない外来処方薬もあることから、2006 年から施行された。

 一方、メディケイドは、主に低所得者を対象とする医療扶助制度である。基本的な受給資格者は、低所得者世帯の児童とその親であり、2014 会計年度の加入者数は 約 6400 万人で、米国の人口の約 20%になる。

州政府主体のメディケイド

 メディケアが連邦政府のプログラムであるのに対して、メディケイドの実施主体は州政府であり、各州は独自に規則を設定し運営することが可能である。しかし、メディケイドのコストの最低50%(貧しい州では83%)を補う連邦政府からの補助金を受け取るためには、連邦規則に従わなければならない。各州政府は、連邦規則において明記されている基本的必要条件を満たせば、①独自に受給資格を定め、②独自に医療サービス内容を決定し、③独自に医療供給者に対する支払い額を設定することができる。

 1997年には、メディケイドの補完的存在として、新たに、無保険者児童を対象とする州児童医療保険プログラム(State Child Health Insurance Program:以下SCHIPと略記する)が創設された。SCHIPは基本的に、メディケイドの受給資格を得るほど貧しくはない家庭の低所得者児童を対象としたプログラム(親は対象外)であり、連邦政府が公的資金を助成し、州政府による無保険者児童への医療サービスの提供を支援するものである。

 このように米国といえども、国や州などのサポートが得られる仕組みがあることをまず抑えておきたい。

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