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医療健康分野における AI利活用の動向を把握する

医療健康分野における AI利活用の動向を把握する
羽鳥 裕(はとり・ゆたか)1948年石川県生まれ。72年早稲田大学理工学部卒業。78年横浜市立大学医学部卒業。横浜市立大学附属病院第二内科、神奈川県立成人病センター(現・県立がんセンター)、横浜市立港湾病院(現・市立みなと赤十字病院)などを経て、88年はとりクリニック開設(理事長)。川崎市医師会理事、神奈川県医師会理事を経て、2014年日本医師会常任理事。日本専門医機構理事、神奈川県内科医学会特別幹事、川崎市内科医会名誉会長、稲門医師会会長。

日本医師会(日医)の学術推進会議(座長=清水孝雄・国立国際医療研究センター理事)は報告書『人工知能(AI)と医療』をまとめた。今後、医療分野におけるAIの利活用に期待する一方、倫理的・法的・社会的課題の検討が急務としている。実際、医療のどのようなことにAIが利活用されていくのか、どのような課題が残されているのか。学術担当の常任理事である羽鳥裕氏に話を聞いた。

——日医の学術推進会議がAIに関する報告書をまとめましたね。

羽鳥 日本医師会には約50の委員会があり都道府県の医師会役員と専門分野の医師、法律家などが参加して2年に一度会長への答申をします。その中に、今回「人工知能(AI)と医療」を会長諮問とした学術推進会議があります。AIを選んだのは、チェス、将棋、囲碁などのように、私達の想像を超えてAIが進歩してきたこともあります。他産業では、金融業、映像表現、航空機の操縦などで多くの情報を瞬時に判断・実行することが可能になっています。より高性能のスーパーコンピュータを所有することや、より多く・広い情報収集基盤を所有するものが一人勝ちできる時代です。AIは、現在の深層学習(ディープラーニング)から、将来的には再帰的自己改造能力を持つ知能の爆発、人知を遙かに超えた人工超知能の登場が予想されます。しかし学術推進会議では、実現しつつある、もしくは近い将来に実現可能性があるものを議論の対象としました。例えば、白血病においてIBMのワトソンを用いて膨大な文献資料から適切な治療を呈示したことなどが話題になりました。また、皮膚科の診断、放射線科のCT、MRI、単純撮影における画像診断などにおいて、専門医の診断正診率に優る場合もあると伺いました。内視鏡においても、検査施行中に局所の部位別診断候補を呈示する仕組みが完成しそうだというお話も伺っています。実地医家も適切なAI活用を考える時代になったと考えています。

画像診断は既に実用化レベル

——AIによって医療は変わりますか。

羽鳥 今はごく普通のパソコンでもスマホでも、驚くほど進歩しています。近い将来、想像もつかない大きな変化が医療界にも起きるだろうと思っています。今回の報告書は、AIの最先端を走る研究者にもご参加いただきユニークなものになったと思います。ここで述べられていることが20年後、30年後に果たしてどのくらい実現したのか、若い世代の先生達に、ぜひ検証していただきたいと思っています。

——コンピュータの性能はこれからも向上し続けるのですか。

羽鳥 ムーアの法則によれば、コンピュータのCPU(中央処理装置)は、約2年ごとで集積回路上のトランジスタ数が2倍になると予想され、今も検証されています。シンギュラリティー/技術的特異点(Technolo-gical Singularity:人類に代わって、汎用人工知能あるいはポストヒューマンが文明の進歩の主役に躍り出る時点)が2045年頃との説もあります。

——AIの活用が最も進んでいる医療分野は?

羽鳥 画像診断でしょう。胸部X線撮影の画像に肺がんがあるかどうか、CT・MRI/MRA画像の中に異常所見があるかどうか、数多くの画像から異常正常を教え込むことで、より高い確率で、かつ効率的に見つけることができる時代が来ます。さらに、皮膚科領域、超音波検査領域などでも活用が進んでおり、アメリカの皮膚科学会では皮膚科専門医による正診率より、コンピュータ診断が優ったことも話題になりました。さらに内視鏡の映像でもAIによる診断が可能になっています。内視鏡の映像を0・1秒ごとにチェックし、がんなどの異常を見つけ出します。こうした画像診断以外に、病理分野での活用も始まっています。現在、病理の医師が非常に不足していますが、例えば大学病院などに画像を送り、そこでAIを活用して集中的に見てもらうということも可能になるかもしれません。


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