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第117回 総裁3選でも安倍政権は来夏の参院選まで?

第117回 総裁3選でも安倍政権は来夏の参院選まで?

 国会が閉会し、東京・永田町は自民党総裁選一色になってきた。今回の主戦場は地方だ。党員票が405票に増え、国会議員票と同数となったためだ。安倍晋三首相と石破茂元幹事長らが争奪戦を演じているが、二階俊博幹事長が「(安倍3選は)間違いない」と早々に〝勝利宣言〟したことで、盛り上がりは今ひとつ。反安倍派の中には「3選しても、安倍政権の命脈は来年の参院選まで」と照準を切り替える動きも出ている。

 「二階幹事長は狡猾だ。国会開会中で他陣営がモノを言えないタイミングで、3選が決まったかのようなことを言うんだから、党員に対する印象操作としか思えない。問題発言だよ」

 反安倍派の若手議員は憤懣やるかたなしだ。

主戦場は地方、党員票巡り獲得合戦激化

 総裁選は国会議員票と党員票で争われる。このうち、国会議員票は安倍首相がほぼ半数を確保済みとされ、石破氏ら対立候補は党員票での逆転が至上命題になる。二階幹事長の〝ご託宣〟は、反安倍派の党員のやる気を削ぐ狙いがあったとされる。

 総裁選の集票構造をデータで見ると、国会議員票では安倍首相が細田派(94人)▽麻生派(59人)▽二階派(44人)の主流3派の支持を得て断トツ。立候補が確実視される石破氏は自派(20人)の支持を固めているだけで、態度を表明していない竹下派(55人)、岸田派(48人)、石原派(12人)の動向がカギを握っている。

 総裁の有力候補である岸田文雄政調会長を擁する岸田派が石破氏を担ぐことは考えにくく、石破氏が勝利するには党員票で圧勝する他ないのだ。そこに、狙い澄ましたかのような二階発言が飛び出したのだから、前述の若手議員の怒りは当然だった。

 党員票の重要性は安倍支持派も十分承知している。複数候補が立った2012年の総裁選で、300票の党員票のうち、石破氏が165票を占め、安倍首相は87票と惨敗しているためだ。民主党政権で下野した際に、コツコツと地方を回った石破氏と、大胆な金融緩和など新たな政権構想を優先した安倍首相との政治スタイルの違いが背景にあると分析されている。最終的には、国会議員による決選投票で安倍首相が勝利はしたが、いわば薄氷の勝利だった。

 「安倍さんは良くも悪くも理念先行型。うちのボスは〝地べた〟優先型。互いに補い合うことでうまくやってきた。安倍さんも今回は地方行脚にエネルギーを使っている。負けたところは特に念入りにやっている」

 二階派幹部がそう語るように、今回の安倍首相の地方行脚は熱が入っている。

 7月4日、安倍首相はさいたま市のホテルで開かれた自民党埼玉県連の「タウンミーティング」に出席した。埼玉は12年の総裁選で、8票中5票を石破氏に奪われ、わずか2票に甘んじた。弱点克服の意図があったのは明らかだった。地方議員や党員ら約350人と、地元のサッカーJ1・浦和レッズにちなんだ特産の梨入り「レッズカレー」を口に運んだ安倍首相は「負け〝なし〟カレーだ。これを食べれば(総裁選で)負けない。こんな気持ちになった」と愛嬌を振りまいた。

 党員票確保を目指す地方行脚は春先から着々と進められている。4月に訪れた大阪府は12年総裁選で党員票9票を安倍首相と石破氏が4票ずつ分け合った。安倍首相は、自民党府連と対立する日本維新の会が掲げる「大阪都構想」への反対を表明するなど、党員向けのサービスに徹した。

 5月は北海道に出向いた。12年総裁選で、故町村信孝氏の4票、石破氏の3票に後れを取り、2票にとどまった。中国の李克強首相に同行する形で訪問し、「北海道のコメを中国に輸出する段取りを付けた」とアピールした。6月には12年総裁選で、5票中3票を石破氏に奪われ、1票にとどまった滋賀県に顔を出した。

 7月22日の国会閉会前にも、鹿児島、宮崎、兵庫各県連を勢力的に回り、「党員票固め」に力を入れた。この3県も12年の党員票で石破氏の後塵を拝しており、苦手地域に重点を置いた地方行脚と言っていい。

ポスト安倍候補は参院選後の政局にも照準

 安倍首相に近い中堅議員は「二階さんが言った通り3選はほぼ間違いない。問題は勝ち方なんだ。森友・加計問題のモヤモヤは完全に払拭された訳ではないし、国民の間で長期政権への倦怠感も出てきている。3選後の求心力確保のためにも党員票での圧勝が望ましい」と話す。

 一方の石破氏だが、一昨年の内閣改造で入閣を固辞してからは、政府や党の役職から離れた「無役」の立場を生かし、メディアへの露出を増やし、全国行脚を続けてきた。党員票獲得にはそれなりの手応えがあるが、圧勝となると、そう簡単ではない。そこで、石破氏が力を入れてきたのがテレビを軸に据えたメディア作戦だ。

 面白いデータがある。「ポスト安倍」候補とされる自民党の5人の所得報告に基づき、テレビ出演料や原稿料、印税などメディア露出の指標とされる「雑所得」を比較したものだ。

 トップは石破氏で937万円を計上し、安倍首相の73万円を大きく上回っている。かつてこの欄で紹介したが、今年になってからも人気タレント・出川哲朗の冠番組に出演するなどメディアの露出度アップに力を入れている。政治討論番組などお堅い番組ではなく、バラエティーを中心に組んでいるのが特徴だ。

 他の有力候補では、野田聖子総務相が講演料や原稿料として452万円の雑所得を計上している。独自の子育て論や、女性問題への言及が多く、女性候補としての特色に腐心している。岸田氏は講演料や出演料で72万円、河野太郎外相と小泉進次郎筆頭副幹事長は雑所得の計上はなく、石破氏の突出ぶりが分かる。

 ただ、メディア出演は一般国民には受けても、党員票確保に直ちに繋がる訳ではない。「ポスト安倍」候補は、いずれも二階発言で機先を制された感があり、戦略の練り直しも検討している。反安倍派の幹部が語る。

 「3選後を考えると難題だらけだ。北朝鮮問題は安倍首相にプラスと考えられてきたが、むしろ重荷になりそうな気配だ。核査察や核廃棄のコスト負担問題もあるし、自ら結着させると表明した拉致問題だって、はっきりした見通しがある訳ではない。被害者を生きて連れ戻せなければ、国民の失望は必至だ。森友・加計問題に対する国民の疑念は解消されていないから、来年の参院選で勝つのは至難だろう。党内で安倍降ろしが始まる可能性が出てくる。そこが焦点じゃないか」

 史上初の総裁連続3選の後、安倍政権はいばらの道を歩むのではないか。ポスト安倍の有力候補は長期政権の末路も視野に秋の総裁選に臨む。

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