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未来の会

少子化の背景に「社会の貧困化」と「格差の固定化」

少子化の背景に「社会の貧困化」と「格差の固定化」
高齢化も進み個人消費は縮小し、デフレはさらに進行

自民党の加藤寛治・衆議院議員(長崎2区)の「放言」が、一時問題になった。5月10日に開催された細田派の定例会合で、「必ず3人以上の子供を産み育てていただきたい」「結婚しなければ、子供が生まれず、人様の子供の税金で老人ホームに行くことになる」と、結婚披露宴に出席した際には呼び掛けている——などと述べたもの。

 その数時間後、「誤解を与えたことに対し、おわびします」などと発言を撤回した。何をどう解釈すれば「誤解」になるのか不明だが、そのくせ27日になって、地元では「全国から賛同、激励が多数寄せられた」などと居直り、「日本の将来を考えた発言」といった「賛同意見」を紹介したという。全国に腐るほどいるこの種の田舎政治屋の平均レベルはせいぜいこの程度なのだろうが、放言として片付けるわけにはいくまい。

 先進国の財政官庁のトップとして、異例の品性のなさをさらけ出し続けている副総理兼財務相の麻生太郎も2014年末の衆院選挙時に、札幌市での応援演説で社会保障費の増大について触れ、「高齢者が悪いようなイメージを作っている人がいっぱいいるが、子供を産まない方が問題だ」などと放言したが、加藤と同レベルだ。

 彼らの共通事項は、国家の運命に対する主体的な担い手意識、責任感の恐るべき欠如だろう。なぜなら「子供が生まれない」現状とは、どう考えても与党の長年の失政の結果でしかないからだ。

先進国でも群を抜く少子化大国・日本

 厚生労働省が6月1日に発表した人口動態統計(概数)によると、17年の新生児の出生数は1899年の統計開始以来、最少の94万6060人となり、前年比で3万918人もの減少となった。2年連続で100万人を割り込み、女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は、前年比0・01ポイント減の1・43。人口維持に必要とされる2・07に遠く及ばなかった。少子化は先進国の多くが抱える問題だが、フランスの1・92やスウェーデンの1・85、英国の1・80に差を付けられている(いずれも15年の数字)。

 首相の安倍晋三は15年、「一億総活躍社会」とやらを打ち出した際、10年以内の「希望出生率1・8」達成を掲げていた。しかも、昨年10月には「少子高齢化がアベノミクス最大の挑戦だ」などと言い出したが、例の07年末までの保育所の「待機児ゼロ」達成を3年も先送りしており、虚言癖の安倍らしく、口先だけの公約に終わっている。

 安倍内閣がこの6月に示した経済財政運営と改革の基本方針「骨太の方針2018」原案でも、「最大の挑戦」どころか、「子育て世代を支援するための幼児教育」という項目が取って付けたように並んでいるだけだ。少なくとも、当面する最重要課題という位置づけとはほど遠い。

 そもそも「希望出生率」の「1・8」とは、厚労省の説明によると結婚を希望する若者の率である9割と、夫婦が希望する子供の平均数である2人を掛けた数字でしかない。「希望」しても結婚できない点が問題となっているのに、それを「合計特殊出生率」の目標値とすること自体ピント外れだが、何しろ「少子化対策担当大臣」が、07年8月から10年間で実に16人も誕生している国だ。結局のところ、腰の据わった行政の「少子化対策」など期待すべきもないということか。だが、これこそ政治の怠慢だろう。

 改めて強調することもないだろうが、日本経済の将来を考えた場合、少子化は致命的な打撃を与える。このままだと、今後30年で2000万人の人口減となり、それに伴って約10年後には労働力人口が500万人減少するとされ、まず経済規模が確実に縮小する。同時に2065年までに65歳以上の老年人口は全体の38・4%にまでアップし、世代の高齢化が進んで個人消費が縮小していかざるを得ない。そのためデフレは、さらに進行していく。

「若者の貧困」が結婚や出産に影響

 早急にさらなる対策を講じるべきだが、少子化の原因の大半は、アベノミクスに象徴される社会の貧困化と格差の固定化に求められるはずだ。その結果、若い世代が「結婚、出産、子育て」をスムーズに実現できる経済的社会的環境・基盤がことごとく劣化の一途をたどり、むしろ国家挙げての少子化推進策が人為的に実行されているのではないかと思えるほどだ。

 明治安田生活福祉研究所が16年に発表した「20〜40代の恋愛と結婚」と題する調査結果によれば、結婚願望を持っている男性の割合が3年前と比べて約28%、女性は23%それぞれ減少している。男性の結婚していない理由のうち、27%と最も多いのが「家族を養うほどの経済力がない」だ。しかも、20代の女性の57・1%、30代女性の67・9%が、「結婚相手に求める年収」を400万円以上としていが、この金額に応える20代男性は15・2%、30代男性で37・0%にすぎない。

 一方で、女性の44・33%が「結婚には、女性の『稼ぎ力』も大事」と回答しているが、この国で子育てをしながらの共稼ぎがどれほど大変か、彼女達が知らないはずもない。「待機児童」の問題はその典型だが、いずれにせよ、未婚の男女とも、確実に若者の貧困化が影響しているのは間違いない。

 国立社会保障・人口問題研究所が公表した「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」によると、15年の調査では「結婚意思のある未婚者に、一年以内に結婚するとしたら何か障害となることがあるか」を尋ねたら、男性で43・33%、女性で41・9%が「結婚資金」という回答だった。

 こう見ると、少子化の原因を、「結婚・出産しようとしない側」に押し付ける政治屋達の言動が、いかに不正確で無責任であるか明らかだろう。既に相次ぐ労働者派遣法の改悪などの結果、現在までに非正規雇用の勤労者は全体の約4割に達し、その平均月収は正規社員の6割程度にしか及ばない。しかも非正規で働く30〜34歳の場合、男性の既婚率は28%にすぎず、正社員の59%の半分以下だ。こうした賃金格差がますます固定化される傾向にある限り、少子化らの脱却など不可能だ。

 しかも、仮に結婚・出産にこぎ着けたとしても、内閣府が15年度に実施したアンケートに基づく国際比較調査によると、日本で「子供を増やさない・増やせない」理由の筆頭に挙げられたのは、「子育てや教育にお金がかかり過ぎる」だった。

 仮に経済的問題が解決したとして、安倍が成立を狙う「働き方改革」一括法案では、年104日休めば24時間労働を488日間連続させても違法にならない。こんなことがまかり通れば、勤労家庭の子育てはさらに困難になろう。日本経済が21世紀に生き残れるかどうかの瀬戸際に立っている現在、これ以上の政府の無策と悪政は許されまい。    (敬称略)

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