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AI活用の創薬と医療機器開発に対する スムーズな申請・承認のために

AI活用の創薬と医療機器開発に対する スムーズな申請・承認のために
人工知能(AI)を活用した創薬が進み、AI関連の医療機器開発も進められている。申請・承認の流れは、従来の医薬品や医療機器とどのように違ってくるのだろうか。また、どのようにすれば、スムーズに進めることができるのだろうか。医薬品医療機器総合機構(PMDA)でAI関連の審査を担当する医療機器審査第一部の髙江慎一部長に話を聞いた。

——AIを活用した医療機器の開発や創薬に取り組む企業人工知能(AI)を活用した創薬が進み、AI関連の医療機器開発も進められている。申請・承認の流れは、従来の医薬品や医療機器とどのように違ってくるのだろうか。また、どのようにすれば、スムーズに進めることができるのだろうか。医薬品医療機器総合機構(PMDA)でAI関連の審査を担当する医療機器審査第一部の髙江慎一部長に話を聞いた。が増えています。審査する側の準備は整ったとみてよいのでしょうか。

髙江:厚生労働省が「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」で報告書をまとめ、大きな方向性を示しています。また、PMDAの科学委員会においても、AI専門部会を立ち上げまして、昨年末に『AIを活用した医療診断システム・医療機器等に関する課題と提言 2017』をまとめています。AIにはどのような特性があり、AIを活用した医療機器は従来のものと具体的にどのように違い、審査においてどのような点に留意すべきなのか、そういったことについて、専門家の方々の意見をまとめていただき、大きな方向性を作ってきています。5月7日に当機構のホームページで公開したところです。

——PMDAへの事前相談の状況は?

髙江:PMDAという組織の性格上、そういったことについて、つぶさに申し上げることはできません。ただ、AIを活用した医療機器にしても、創薬にしても、これだけ社会的に機運が高まっているのですから、実用化を目指して開発を進めている方々が、PMDAにご相談いただけるものと思っています。AIのように新しいものに関しては、開発される方もどこに気を付けて申請すればいいのか分からないでしょうし、規制する側も審査に関して経験がありません。うまく進めるためには、まず相談していただき、お互いの状況を理解しておくことが大切だと思います。

——PMDAにはAI関係を専門に扱う部署があるのですか。

髙江:私がいる医療機器審査第一部は、ICT(情報通信技術)とかロボットなどが担当で、AIもここが主体となって見ることになります。ただ、AIは画像診断だけでなく、様々な分野で開発が進められていますので、医療機器審査の第一部から第三部で横断的にAIのチームを作り、そこで情報共有したり、研鑽を重ねたりしているところです。

AI創薬でも承認方法は同じ
——従来の承認に比べ、AI関係の承認の難しいところはどのような部分でしょうか。

髙江:ディープラーニング(深層学習)を使って作成されたプログラムでも、上市後にプログラムが変化しないものであれば、審査時点でのプログラムの妥当性を見ていけばいいことになります。ところが、上市後も学習を続け、どんどん変化していくプログラムも出てきています。従来の承認は、スナップショット(ある時点における対象の全体像)で、申請時の性能や規格を調べ、有効性と安全性が確認できれば承認だったのですが、その後も変わるとなると問題が出てきます。賢く変化すればいいのですが、データの質や与え方によっては、性能が落ちる可能性もゼロではありません。これをどうするのか、といった問題があります。

——実際に出てきた場合には?

髙江:市販後に調査して報告していただくとか、条件付きで承認して、その条件の中に確認すべき事項を規定しておくとか、いろいろな方法があると思います。ただ、市販後にあまり過度な作業を義務付けてしまうと、それが開発に対する大きなディスインセンティブになってしまう危険性があります。そうなると、誰もハッピーでないという結果になりますから、折り合いは大切だと思います。

——AIを活用した創薬も進んでいるようですが、これに対しては?

髙江:この場合は、創薬にAIを使うのであって、それによって完成した薬を審査するわけですから、基本的にはこれまでと変わりません。現時点ではそう言っていいと思います。ただ、AIを活用することで、今後どのようなことが起こるのかは、分からないと言えば分からないのです。それでも薬の審査ですから、AIを活用する医療機器とは異なり、スナップショットでの審査しかないとは思っていますが。AIを創薬に使うことで最も変わるのは、期間とコストでしょう。シード探索の期間が短縮されることは確実視されているので、開発の経緯は随分変わってくるのだろうと思います。

——AI創薬でこれまでなかったような薬が登場する可能性は?

髙江:開発の経緯が以前とは変わってきているので、AIを使うことで、さらに一歩進んだ薬剤が出てくる可能性はあると思います。AIは学習させるためのビッグデータの質と量が命ですが、大手製薬企業とIT企業が集まって開発を進めるような状況が生まれています。そこから何が生み出されるのか、期待はしたいと思います。

PMDAは野球の三塁コーチャー
——海外ではどのような状況なのでしょうか。

髙江:アメリカのFDA(食品医薬品局)のサイトを見ると、AIを用いた画像診断機器を承認した、というプレスリリースが出ています。画像診断の分野では、既に実用化しているということです。まずはこの分野から始まりましたが、今後は画像診断には止まらないと思います。医療現場のあらゆるところでAIが活用される可能性があります。充実したデータベースが作れた領域から、どんどん利活用が進んでいくのだと思います。

——世界中での競争になるとすると、開発・申請・承認といった流れがスピーディーに進むことが望ましいと思います。その点に関しては、どのように考えていますか。

髙江:もちろんスピードは大切です。そのためにも、我々としては、開発している方々に相談に来てほしいのです。相談に来られずに開発を進めた場合には、審査の結果、「このデータが足りませんね」となることがよくあります。そうなると、データの取り直しです。臨床に関わるデータだと、それだけで1年も2年もかかってしまうことがあります。前もって相談していただいていれば、このような後戻りをしなくて済むので、結果的に早く申請できますし、承認も早くなります。

——ぜひそのように進んでほしいですね。

髙江:PMDAはゴールキーパーみたいだ、と言う人達がいます。できるだけ点が入らないように、邪魔ばかりしているというわけです。しかし、それは全く違っていて、私はPMDAというのは野球の三塁コーチャーのような存在だと考えています。本塁でアウトになってしまうランナーは、なんとしても三塁で止めますが、行けると判断したら腕を回して突っ込ませる。そういう役割だと信じて審査しています。前もって相談して開発に取り組んでいただければ、AI関連でも腕をグルグル回せる機会が増えると思っています。

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