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未来の会

第115回 疑心暗鬼広がる「会期末電撃解散」説

第115回 疑心暗鬼広がる「会期末電撃解散」説

 「モリ・カケ」「日報」「セクハラ」の醜聞3連発を巡る与野党攻防の激化で空転状態だった国会は大型連休明けにやっと審議を再開した。19日間に及ぶ空費を埋めるべく審議の促進が望まれるが、永田町界隈では連休前に飛び出した「電撃解散説」への疑心暗鬼が広がっている。歴史的な節目を迎えた朝鮮半島情勢などを理由に、「解散はあり得ない」と頭では理解しているのだが、「怪しい予感」に政治家の血が騒ぐようだ。

 今回の解散説の震源は、飯島勲・内閣官房参与だった。4月17日のBSフジの番組で、「1日でも早く解散して安倍晋三首相の政策遂行の姿勢を表明し、重要課題に向き合う姿勢を国民に知らしめてほしい」とぶち上げた。一連の疑惑や不祥事からの局面転換を狙う「保身の解散」であり、身勝手極まりないのだが、「解散の大義は関係ない」と強弁し、「最短は大型連休明け解散、6月3日投票」と具体的な日程まで示した。

 飯島参与は小泉純一郎元首相の参謀役を長年勤めたやり手の秘書だ。政局に通じ、経験も豊富なだけに一部で注目されたが、「解散風」を起こすほどの事はなかった。

総裁選に向けライバルの口封じか

 事態が動いたのは、1週間後に自民党の森山裕・国対委員長が「内閣不信任決議案が出されれば、衆院解散も一つの選択肢」と言及したためだった。自民党の二階俊博・幹事長、公明党の井上義久・幹事長らと空転国会の打開策を協議した直後だっただけに、メディアも「連休明け解散か?」と色めき立った。

 その後、二階幹事長が「誰がそんなこと言ってるのか。幹事長が知らない解散なんて世の中にある訳ない」と怒気をはらんで否定。安倍首相も26日の国会答弁で全否定したことで、ひとまず沈静化へ向かった。

 森山発言は野党を審議に復帰させるための「ブラフ(脅し)」と見られた。醜聞で防戦一方の与党は打つ手がなく、首相の専権事項である解散を持ち出して、空転国会の打開を図ろうとしたというのだ。野党内では、ちょうど民進党、希望の党両党による「国民民主党」の結成などで、選挙に対応できない状態にあり、それに付け入る戦術でもあった。

 ただ、森山発言には誤算があった。野党よりも、身内である与党が過剰に反応してしまったのだ。安倍政権と距離を置き始めた公明党などから「野党がバラバラだろうと、今解散したら一気に統一候補をまとめ上げられてしまう」「こんな状況で解散したら利敵行為だ。自殺行為に等しい」などの声が噴き出したのだ。

 野党を脅すつもりが、与党内に要らざる波風を立ててしまったのだから、二階幹事長が「火消し」に躍起になったのは当然の成り行きだった。

 ただし、普段は無表情の二階幹事長が血相を変えて解散を否定したシーンには多くの議員が違和感を感じ、疑いの眼差しも注がれた。

 二階幹事長と森山国対委員長があらかじめ打ち合わせをした上で、「電撃解散ショー」を演じたのではないかとの疑念だ。森山国対委員長の目的は野党を揺さぶり、国会に復帰させる可能性を探ること、二階幹事長の目的は自民党内の反安倍派への牽制。国会運営と秋の総裁選を見定めるため、両氏が共同で「観測気球」を上げたというのだ。

 自民党の反安倍派幹部が語る。

 「安倍政権の不支持率が支持率を超えた状況で、衆院解散はナンセンスだと誰もが思う。朝鮮半島情勢など外交的な課題も山積しており、選挙をしている暇がないのも事実だ。だとすれば、なんでそんな話が出てくるか。党内の反安倍派への脅しだと、多くの議員は受け取ったんじゃないか。頭では『あり得ない』と思っても、心の奥底では『もしかして……』との疑念が消せない。議員心理を突いた巧妙なブラフだ」

 安倍支持の中堅議員は解散は現実的な選択肢だと見ている。

 「安倍首相の最大の関心事は総裁3選にある。これを基本に考えれば、解散の可能性は決して低くない。解散すれば安倍首相の下で選挙を戦うのだから、石破茂・元幹事長ら総裁選の有力候補者達だって安倍批判ができなくなる。天に唾することになるからね。各種の世論調査によれば、自民党が過半数を割ることはない。野党の支持率が低いから、ほぼ現状を維持できるとの数字まである。現状が維持できて、ライバル達の批判をかわせるのだから、解散は総裁3選に向けた有効な手段になり得る」

 会期延長をせずに6月20日に国会が閉会すれば、自民党内は一気に総裁選モードになる。それは、政権与党の一員として表立った「安倍批判」を控えてきた石破元幹事長らが安倍攻撃に転じることを意味する。政策論争の名目ではあるが、「モリ・カケ」「日報」「セクハラ」など官僚統制の問題や、大半の国民がメリットを感じられないでいるアベノミクスの欠陥などを踏まえ、痛烈な安倍批判が展開されることが予想される。解散によってこれを封じ、3選に道筋を付けようというシナリオだ。「ごたごた続きだから『ガラガラ・ポン』で一新してしまえ」という、国民不在の党内論理なのだが、権力闘争の偽らざる一面ではある。

解散の有無は朝鮮半島情勢次第?

 朝鮮半島情勢を踏まえ、解散の必然性を指摘する声もある。自民党長老が語る。

 「米朝首脳会談により、東アジア情勢は歴史的転換点を迎えた。朝鮮半島を含め、本当に戦争が終わるのだ。日本人はあまりピンと来てないが、これは欧州で言えば、東西ドイツを隔てた壁が崩壊したのと同じ、大変なことなのだ。米中関係も含め、新たな地域秩序の到来に際し、日本の国家方針を改めて確認し、時代にふさわしい指導者を選ぶことには、それなりの意味がある」

 自民党長老は「衆院を解散するのなら、安倍3選がどうのという近視眼的な考えではなく、新時代を見据えた指導者を選ぶという大義名分がなければいけない」と正論を語った。

 もっとも、朝鮮半島情勢に関しては「東アジアの歴史的転換期に国政に空白を作る選挙をしてはならない」(外相経験者)との筋論も根強い。この場合、安倍首相は外交日程の詰まっている期間は注目を浴び、「北朝鮮問題は安倍首相の総裁3選に有利に働く」(安倍支持派)ことになるが、6月開催を目指す日朝首脳会談で成果が得られなければ、「安倍首相の賞味期限切れ」(反安倍派)を印象付けることにもなりかねない。

 国会会期末まであと3週間。「モリ・カケ」などの醜聞を巡る与野党攻防が続く中、与党内では「電撃解散」を絡めた安倍支持派と反安倍派の冷戦が激しさを増している。「朝鮮半島情勢が大きく動けば解散はなし。ほどほどなら解散風が強まる」。自民党のベテランスタッフは、そんな予感がするという。

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