SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

大正製薬

大正製薬
力のOTC薬事業が
今こそ欲しい「ファイト・一発!」

 大正製薬ホールディングス(HD)は今、正念場に差し掛かっている。3月中旬に同社が発表した2018年3月期の連結純利益は、前期比10・1%増の317億円だった。従来の予想は前期比17%減の240億円を見込む、という数字だったから、一転して好調な決算になったと受け取れる。だが、増益の主な理由は研究開発費が来期に先延ばしになったことと、医療用医薬品の営業費用が想定以下だったことである。どちらも後ろ向きの施策による経費減少がもたらした増益にすぎない。むしろ、次期の業績に影響するのではないかと心配にすらなる。

 実際、売上高は前期比でわずか0・1%増の2801億円である。減収にならなかったのは風邪薬の「パブロン」の売れ行きが予想以上に良かったからで、実態はほぼ横ばいである。証券アナリスト達は同社の増益決算を聞いても、レーティング(評価)を従来同様の「弱気」に据え置いたままだった。

 大正製薬はOTC薬(一般用医薬品)を軸としたセルフメディケーション事業と医療用医薬品を手掛ける医薬事業が柱の会社である。主力のOTC薬は長らくリーディングカンパニーとしての立場を保ってきたが、最近はそれも危うくなってきている。

 同社の稼ぎ頭の商品はロングセラーの栄養ドリンク剤「リポビタンD」と風邪薬「パブロン」、それに発毛剤「リアップ」である。それ以外に「大正漢方胃腸薬」、便秘薬「コーラック」、水虫治療薬「ダマリン」、さらに最近では中性脂肪異常改善薬「エパデ—ルT」、ビフィズス菌整腸薬「ビオフェルミン」、UVケア「コパトーン」、薬用のど飴「ヴィックス」などが加わる。商品数も多く、まさにOTC薬のリーディングカンパニーである。

リポDとリアップに立ちはだかる危機

 だが、風邪薬や胃腸薬、便秘薬などは競合品が多く、抜き出た売り上げになっているわけではない。同社の売り上げ、利益を牽引しているのはリポビタンDとリアップである。

 ところが、この主力商品の行方が微妙になっている。リポビタンDは屈強な男2人が「ファイト・一発!」と咆哮するコマーシャルで有名で、同業者から「宣伝で売っている」などと陰口を叩かれているが、100種類以上もある栄養ドリンク剤の中で約4割のシェアを占め、抜きん出た売り上げだった。

 だが、絶叫調のリポビタンDを好む層は40代以上になってきている。20代、30代の若者は絶叫調のCMを好まない。大正製薬はCMにJリーグの三浦知良選手と、メジャーリーグで大活躍する大谷翔平選手を起用し、若者向けに変えた。加えて、リポビタンDが男の飲み物というイメージが強かったため、同社は働く女性向けの栄養ドリンク剤「アルフェ」を発売。栄養ドリンク剤市場でのシェア拡大を狙った。

 最大の問題は少子高齢化の影響である。リポビタンDを愛飲した団塊の世代がリタイアする一方、若者の数は減少している。その結果、栄養ドリンク剤の市場規模は01年度をピークに毎年減少し、16年度は3割減の1774億円。今や、売り上げを維持するのが精いっぱいなのである。

 リポビタンDの売り上げを阻む少子化が前門の虎なら、後門の狼に相当するのがリアップのライバル商品が登場したことだ。リアップは大正製薬が開発した医療成分「ミノキシジル」を広く販売するため、ダイレクトOTC薬(医療用医薬品として承認された新規有効成分が、ダイレクトに一般用医薬品として承認されたもの)にしたという経緯を持ち、養毛剤、育毛剤の類いとは違う唯一の発毛剤である。特許が切れた後もOTC薬メーカーは大正製薬のCM攻勢と販売力には対抗できそうもないため、ミノキシジル成分の発毛剤には進出しなかった。

 ところが、高級シャンプー「スカルプD」をネットとドラッグストアで販売するアンファーが昨年、ミノキシジル成分5%を含む発毛剤「メディカルミノキ5」を発売したのである。

 もっとも、アンファーは発売直後、商品を突然回収し、発売を延期した。理由はメディカルミノキ5の添付文書に、大正製薬がミノキシジル成分を承認された時、効果が見られなかった額の左右から禿げるM字型ハゲにも効果があると謳っていることを、厚生労働省が受託製造業者の東亜薬品(富山県)に指摘。急遽、販売延期したという事情だった。

 しかし、大正製薬はアンファーのメディカルミノキ5の発売に慌てた。ミノキシジル成分を同じ5%に増量した「リアップX5」を発売して対抗したが、一時はリアップの売り上げ減を覚悟したという。だが、メディカルミノキ5の発売延期で影響は出なかった。18年3月期の決算はアンファーの挑戦による影響がない状態の数字なのである。

 だが、これで安泰ではない。実は、アンファーは傘下にMS(メディカル・サービス)法人のライカというコンサルタント会社を持つ。MSとは、営利事業を行えない医療機関に代わって、駐車場経営や不動産事業などを行う営利法人である。

 ライカは大都市の駅前にクリニックを用意し、独立したい医師に脱毛症(AGA)治療と勃起不全(ED)治療専門の「イースト駅前クリニック」を経営させている。しかも、ライカがコンサルタントするクリニックの治療はスマホの専用アプリで電話診察し、支払いはカード決済。処方する「バイアグラ」や「シアリス」などを宅配便で自宅に送る手軽な〝遠隔診療〟システムで、既に北は札幌から南は九州まで十数カ所の繁華街に開院している。このイースト駅前クリニックで大々的にメディカルミノキ5を扱うことも可能なのである。幸い、販売延期で影響を受けなかったが、まさに後門の狼である。

 大正薬品は12年に創業100周年を迎えるにあたって、持ち株会社制に移行。30年間にわたって社長を務めてきた上原明氏が持ち株会社の大正製薬HDの社長に転じ、事業会社の大正製薬の社長には長男の上原茂氏が就任した。この経営トップの代替わり以来の危機といえる。

販促費を巡ってマツキヨと正面衝突

 もちろん、今まで内部留保が潤沢な大正製薬はP&Gから「ヴィックス・メディケイテッド・ドロップ」事業の譲渡を受けたのを皮切りに、ビオフェルミン製薬とトクホンを子会社化し、事業を拡大してきた。

 しかし、商品数は増えこそしたが、さほど売り上げを伸ばすほどでもなかった。そんな事情も加わって、茂社長は昨年から効率経営を進めた。その一つとして、ドラッグストアとの販促の見直しを行った。

 大正製薬は従来、宣伝を兼ねてドラッグストアに厚い販促費を提供してきたが、若い茂社長はリベートでもある販促費にメスを入れた。ところが、販促費を巡ってマツモトキヨシと正面衝突。マツキヨも松本南海雄氏が会長に退き、長男の清雄氏が社長に就任し、従来のディスカウント商売から、明るい店づくりと少々高値で売るビジネスに転換している最中だ。販促見直しに対し、大正製薬の製品を棚の奥に移して反発。すると、大正製薬はリアップの供給を停止して対抗、リアップの欠品騒ぎに発展した。この騒動はマツキヨの南海雄会長が知るところとなり、大正製薬HDの上原明社長に電話。長男同士が会談することになった。結局、マツキヨが販促見直しを受け入れることで決着したが、茂社長は〝親がかり〟と失笑を買っている。

 大正製薬はその後も、各ドラッグストアと販促の見直しを進め、トラブルを起こしている。名古屋を中心に120店舗を持つ老舗のドラッグストア「スギヤマ薬品」との間では、同社が交渉中に調剤併設店舗で大正製薬の医療用医薬品の購入を停止したことに激怒。大正製薬は取引停止を通告し、リアップもパブロンもリポビタンDも販売されない状態に陥っている。大正製薬の販促リベート見直しは合理的なものだが、それだけ大正製薬の危機感の表れと受け止められると共に、子供じみた報復的な対応から「それでも大手製薬会社か」と批判を集めている。

後発品の登場で医療用薬も売り上げ急減

 一方、大正製薬の医療用医薬品事業はどうかと言えば、決して安泰というわけではない。15年度に1094億円を記録した医薬品事業の売り上げは、16年度に1000億円を切り、17年度(18年3月期)はさらに3・7%減少して961億円に落ち込んだ。原因は抗菌剤の「ゾシン」と「オゼックス」の特許が切れ、後発品が登場したことだ。08年に発売したゾシンは15年度には273億円の売り上げを記録する大型商品になり、医薬品部門の売り上げ1000億円達成の原動力になった。

 しかし、後発品が登場すると、新薬創出等加算の対象から外された上、薬価も大幅に下がった。加えてDPC(診断群分類包括評価)病院が使うことが多かったため、多くのDPC病院がゾシンを後発品に置き換えたことから売り上げは急減。17年度は前期比37%減の98億円にまで減少してしまった。

 大正製薬の医療用医薬品の主要製品は、ゾシンの他に、ビタミンD3製剤の骨粗鬆症治療剤「エディロール」とビスホスネート系骨粗鬆症治療剤「ボンビバ」、マクロライド系抗菌剤「クラリス」、ニューキノロン系抗菌剤「オゼックス」、ノバルティスと共販のSGLT2阻害剤の糖尿病治療剤「ルセフィ」、鎮痛消炎剤「ロコアテープ」である。だが、売り上げ100億円以上の医薬品は254億円を売り上げるエディロールしかない。

 新薬パイプラインではベルギーのアブリンクス社から導入した関節リューマチ治療剤「オゾラリズマブ」がフェーズ2の段階で、外には精神領域の4剤と脱毛症外用薬があるが、どれもフェーズ2でまだ数年かかる。どうみても、医薬品部門を浮上させる大型商品が見当たらない。

 大正製薬の医薬品事業は、1970年代に自社創出した抗生物質「クラリスロマイシン」(大正薬品の商品名は「クラリス」)を導出(使用許諾契約によりライセンスアウト)した米アボット社で開発され、世界中で販売されたことが契機と言われている。株式売却を決めた富山化学への出資も販売会社の大正富山医薬品の設立も医療用医薬品事業への夢だった。だが、現状は夢だけで終わっている。OTC薬に危機が迫っている今、大正製薬は正念場に差し掛かっている。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top