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未来の会

「新出生前診断」拡大に舵を切った日産婦の目論見

「新出生前診断」拡大に舵を切った日産婦の目論見
「倫理」を置き忘れるようでは学会としては失格

日本産科婦人科学会(日産婦、理事長=藤井知行・東京大学医学部産科婦人科学教室主任教授)が3月、これまで「臨床研究」の形で行われてきた新しい出生前診断(NIPT)を一般診療に拡大する方針を決めた。既定路線とはいえ、「需要」に倫理が屈したかのような日産婦の決定には各方面から疑問の声も大きい。遺伝子検査の拡大は世界の流れとはいえど、従来の「関↘係者の合意形成の上で進めていく」方法から、先走りの感は否めない。関係団体からも日産婦の根回し不足に不満の声が上がっている。

 全国紙の医療担当記者によると、日産婦がNIPT拡大の方針を公に示したのは、3月3日の理事会終了後の記者会見だったという。

 「1月に毎日新聞が拡大の方針を1面トップで報じたのを皮切りに、NIPT拡大の報道は既に流れていたが、学会として公式にアナウンスされたものではなかった。各メディアとも、この日の会見で示されるだろうと準備していた」(担当記者)。

 先行した記事では、NIPTが拡大され、診断が受けられる妊婦の年齢制限(35歳以上)の撤廃や、ダウン症など3種類の染色体の病気に限っている診断を緩和することなども報じられた。これまでは遺伝カウンセラーの配置など要件を満たした施設を日本医学会が「登録施設」として認定して臨床研究が行われてきたが、こうした施設要件についても緩和が取り沙汰されていた。

 ところが、である。テレビ局を含め各社が勢揃いした3月の会見は、「緩和」についての言及はおろか、「一般診療にする」とも明言しないような中途半端な内容だったという。日産婦の倫理分野を担当している責任者は、会見を欠席。会見で出たの↖は、「臨床研究の形態を取った申請だけを(日本医学会の登録施設の)審査の対象とする、という部分を外す」ということだけだった。つまり、「臨床研究」はやめるが、NIPTを行うのは変わらず「登録施設」であり、その要件も従来と変わらないということだったのだ。

 担当記者が内幕を明かす。

 「日産婦には様々な考えを持つ会員が同居していることもあり、倫理分野においては特に事前の情報がそのまま決定とならないことがよくある。今回は報道が先行したことで、学会はその反応を見ることができた。拙速過ぎるとの批判も大きかったから、学会が自らブレーキを掛けたのだろう」

 担当記者によると、要件の緩和まで盛り込んだ報道が〝誤報〟だったとは言えないという。複数の関係者によると、事前取材の段階では要件の緩和などは既定路線として織り込み済みだった。ところが、それを3月の理事会の段階で決定する際に、慎重意見が多かったということだ。

日本医学会が日産婦の勇み足を批判

 ただ、学会の勇み足への批判は意外なところからも上がっている。NIPTの実施施設の認定を行ってきた日本医学会だ。「施設の認定にはこちらの名前を使っているのに、臨床研究を外すという話は事前に一切知らされなかった」(医学会関係者)と完全なるアウェーに追いやられていたからだ。

 NIPTは胎児の障害の有無を判定し、産むかどうかを決めるために使われる。産むにしても産まないにしても、担当するのは産科医だ。それでありながら、実施施設の登録を日産婦ではなく日本医学会が行ってきたのは、これが「生命倫理」の問題だからということ以上に、血液を採って外部機関に分析してもらうという行為は何科の医師であってもできるからだ。

 実際に日産婦の会員ではない他科の医師がNIPTを行う事態が続々と出てきており、それに対して日産婦は処分を行えずにいる。日産婦は2013年3月、NIPTの開始に当たり、認定施設で要件に沿って行うよう指針を出し、厚生労働省はこの指針を守るよう通知を出した。同年4月からの診断開始に合わせては、日産婦と日本医学会だけでなく、日本医師会、日本人類遺伝学会も同席して共同で記者会見を行った。開始に当たって足並みをそろえてきた関係機関が、ここへ来て「日産婦の独走」に変わってきていると関係者は危惧するのだ。

 「13年にNIPTが始まった当初は認定施設も限られており、大学病院などが中心だった。半年先まで予約が取れないとの声も大きく、需要があると判断して体制を整えて実施に踏み切る施設も多かった」と当時を知る医療担当記者は振り返る。NIPT開始時は15カ所だった実施施設は現在、約90カ所に増えた。一方で、その申請ペースは鈍化している。

「このままだと、日産婦はじり貧だ」

 「主に二つの要因が考えられる。一つは要件の厳しさ。日本医学会の認定を受けるための要件を満たすには人手も金も必要で、そこまでできる施設がそもそも少ない。二つ目は未登録施設の増加で、妊婦がそちらに流れていること。妊婦にとってはNIPTを受けられればどこでも良い。妊婦の需要に見合った数が既にあるとなれば、新たに様々な要件を満たしてまで医学会の認定を受けるインセンティブがなくなってしまう」(日産婦関係者)。

 日産婦の指針では、NIPTはダウン症など3種類の染色体の病気の検査に限られているが、未認定施設では全染色体検査を謳っているところもある。日産婦の会員にも指針を破る例が出ていることは以前にもお伝えしたが、会員外の医療施設で行われる検査は野放しである。「産科医からは日医(日本医師会)や医学会が何とかしてほしいとの声も上がるが、強制力や実効性のある方法がないことは明らか。最後は国が法律で何とかしないと、この現状は変わらない」(日産婦会員)。

 会員の中には、「このままだと、日産婦はじり貧だ」との考えが根強くある。NIPTは20万円前後で行われているが、その多くはDNA解析を行う外部業者への支払いに消える。事前のカウンセリングや結果の説明、その後のフォローにかかる人件費などを考えれば、決して「うまい商売」ではない。だが、こうしたカウンセリング体制などをほとんど行わない認定外の医療機関にとって、NIPTにかかる施設側の負担は「妊婦の採血と簡単な結果説明」くらいだ。NIPTで障害が分かって人工妊娠中絶を選ぶ場合は資格のある産科医が関わる必要があるが、産科にとってはその手前は全て他科に持って行かれるというわけだ。

 こうした現状には当然、産科医の不満は高まっている。日産婦としては、「NIPT拡大」に舵を切らざるを得ない事情がある。ただ、「命の選別」に直結するNIPTを学会が「勧めている」と受け取られてはまずい。妊婦からの需要があるからといって、「倫理」を置き忘れるようでは、学会としては失格である。

「日産婦には、障害者団体や他学会と話し合いを重ねた上で、方針を決めていくことが求められる」(医療担当記者)との指摘に、今のところ日産婦は応えていない。

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