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働き方改革関連法案で政権を揺さぶる「高プロ」

働き方改革関連法案で政権を揺さぶる「高プロ」
強行採決は内閣支持率や統一地方選・参院選にも影響

2018年度予算の成立を受けて始まったいわゆる後半国会は、安倍政権肝いりの働き方改革関連法案の審議の行方が焦点となる。ただ、同法案は厚生労働省の不適切なデータ使用問題で、裁量労働制の対象拡大部分の削除に追い込まれた。

 その直後に発覚した学校法人「森友学園」を巡る公文書改ざん疑惑は政権の体力を奪いつつあり、自民党内からでさえ「法案の成立は見通↘せない」との声が漏れる。

 3月29日の自民党厚労部会などの合同会議では、当初の予定より大幅に遅れて働き方改革関連法案が了承された。

 ただし、経済界が切望していた裁量労働制部分の削除により、結果として残業上限時間の規制といった労働側が重視する項目の比重が大きくなったことで、「人手不足の中小企業を直撃する」といった反発が続出した。

 中小企業については、残業規制や同一労働・同一賃金の適用を予定より1年延期する修正が加えられた他、労働基準監督署が指導する際、中小企業には配慮する旨が法案の付則に書き込まれた。

 しかし、この「骨抜き」は立憲民主党などの野党を刺激し、かえって法案への批判を強める結果となった。

 さらに、3月29日の合同会議では、白須賀貴樹・自民党衆院議員(千葉13区、歯科医出身)が中小企業への配慮を求める中で、自身の運営する保育園で採用した看護師に対する「マタニティハラスメント」(妊娠や出産を理由として不当な扱いをされる行為)とも受け取られるような発言をして批判を浴びた。

 また、労働時間に関し、勝田智明・東京労働局長による、職権を振りかざして報道機関を牽制したかのような発言も飛び出した。

 政府は4月6日にようやく同法案の閣議決定にこぎ着けたものの、自民党は3日の総務会で、いったん了承を見送り、首相を牽制した、公文書改ざん問題が政権を揺るがす中、同法案を取り巻く環境は悪化しつつある。

 働き方改革関連法案は、労働基準法案、労働契約法案など計8本の改正法案をまとめた総称であり、「月100時間未満、年720時間」などの労働時間の上限規制や同一労働・同一賃金の実現などが並ぶ。

 裁量労働制の対象拡大が削除された今、法案の最大の焦点は、与野党が真っ向から対立する「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」導入の有無に移った。

 高プロは年収が1075万円以上ある、為替ディーラーなど一部の専門職の人を労働時間規制の対象から外す制度。「時間にとらわれず、柔軟な働き方が可能になり、経済成長に繋がる」というのが政府の言い分である。

野党は「スーパー裁量労働制」と批判

 しかし、野党や労組は「成果を出すまで延々と働かされるようになる」と指摘し、「残業代ゼロ法案だ」と強く批判してきた。政府は連合の要望を受け入れ、「年104日の休日確保」を義務化したものの、高プロには深夜・休日労働への割増賃金がない。裁量労働制には深夜・休日の割増しがあることを踏まえ、野党は高プロを「スーパー裁量労働制」(辻元清美・立憲国対委員長)と攻撃し、政府に削除を迫っている。

 元来、働き方改革関連法案は経済界が求める規制緩和策(裁量労働制と高プロ)と、労働界が求める規制強化策(残業時間の上限規制と同一労働・同一賃金)をセットにした法案だった。それが裁量労働制の削除で、双方の均衡は崩れた。この上、高プロまで撤回すれば、天秤は完全に労働側に傾いてしまう。経済界の反発は避けられず、首相周辺は「高プロの成立は絶対に譲れない」と強気の姿勢を崩していない。

 それでも、法案の前には、公文書改ざん疑惑が大きく立ちはだかっている。

 安倍政権は厚労省のずさんなデータが元で裁量労働制の拡大部分の削除を余儀なくされた段階までは、「法案が危うくなったのは厚労省の責任」と同省を非難し、「データがでたらめだったことが明るみに出たのは、安倍政権に批判的な厚労官僚のリーク」と言う官邸幹部さえいた。

 ところが、そこへ公文書の改ざんが明らかとなり、厚労省の失態はかき消された格好に。政権としても一省庁に責任を押し付けられる事態ではなくなっている。

 安倍政権にとって、高プロは因縁の政策だ。まだ第1次政権だった頃の07年、安倍首相は高プロと似た「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれる制度の実現を目指したものの、野党などの強い反発を受けて断念した。

 これに懲りず、15年4月には経済界の後押しを受けて高プロを盛り込んだ労働基準法改正案を国会に提出したが、その時も法案は一度も審議されないまま、廃案となった。

 今回、三度目の失敗となると求心力低下に直結し、自身が目指す秋の自民党総裁選での3選や、悲願の憲法改正がますます揺らぐ。なんとしても「三度目の正直」を実現させたいところだ。

 一方の野党は、「責めどころ」と踏んで結束を強めている。立憲民主党の枝野幸男代表は「過労死にも繋がりかねない、命に関わる問題」と強調し、共産、社民両党などと高プロの削除を強く求めていく構え。民進党の大塚耕平代表は国会で「高プロを断念すれば、平和的に審議が進む」と首相に呼び掛けるなど、野党は硬軟織り交ぜて政府に揺さぶりをかけている。

自民党内にも法案に不満と懸念の声

 そうした野党に対し、政府・与党の旗色は決して良くない。開会中の通常国会の会期末は6月20日。残り少なくなってきた。秋に自民党総裁選を控え、ただでさえ会期延長は難しい。そんな折に公文書改ざん問題が発覚、国会を延長すれば野党に追及の時間を与えるだけと、与党内の会期延長に対する慎重論は強まっている。

 厚労省は受動喫煙を防止するための健康増進法改正案など他にも多くの法案を抱えており、働き方改革関連法案は「時間切れ」となる可能性が出てきている。

 自民党は同法案を了承したとはいえ、党内には「労働側にやられっぱなしの法案だ」(中堅議員)といった不満がくすぶっている。

 公文書改ざんで内閣支持率が低迷している最中に、与野党が真っ向から対立する法案を強行採決すれば、安全保障関連法の時のように支持率が急落しかねず、来年に迫った統一地方選や参院選に響くと心配する声も聞こえてくる。

 同法案は、選挙で自民党を支えてくれる中小企業に何のメリットもない、というのが多くの自民党議員の本音だ。まだうねりにこそなっていないものの、複数の自民党議員から「無理をして今通す法案ではない」との声も出始めている。

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