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未来の会

第94回 「職務的個人的に成長できる最適環境」とは真逆

第94回 「職務的個人的に成長できる最適環境」とは真逆
虚妄の巨城
武田薬品工業の品行

 「武田薬品がGlobal Top Employers®2018に認定」——。

 この2月16日、武田薬品のホームページの巻頭には、このような大文字が躍った。Global Top Employersとは、直訳すれば「世界最高の雇い主」という意味だろうが、大半の日本人は寡聞に属するに違いない。

 ホームページによれば、何でも「毎年オランダに本部のあるTop Employers Instituteがより優れた人事制度を有する企業を認定」している制度だそうで、「従業員が職務的、個人的に成長できる最適な環境が整えられ、また、その最高水準を達成した企業が認定されます」という。

 そうした「企業」の経営者に与えられる一種の認証のようなものらしいが、今現在、一般的に何か格別ありがたがられるほど認知度があるとは考えられない。

 しかも、当の武田の社員が、自社を「職務的、個人的に成長できる最適な環境」だと見なしているかどうか、客観的に推し量る術もないが、武田の経営陣が「Global Top Employers」かどうかは、判断が分かれるだろう。

 もっとも、社長、会長時代に「グローバル化」を推進し、何を語るにしてもやたらと「グローバル」を乱発してきた相談役の長谷川閑史あたりは、「Global Top Employers」などと呼ばれたら、それこそ随喜の涙でも流しそうだ。

 だが、外資でもない創業237年に及ぶ純然たる日本企業であるにもかかわらず、長谷川の思惑でトップ以下経営陣にやたらと外国人を据えた結果、見掛けは「グローバル」になったかもしれないが、それに伴う好ましからざる話題は事欠かない。当人達はこの瑞穂の国よりも「グローバル」な環境を好むからかもしれないが、とにかく落ち着きがないのだ。

役員・幹部の退職相次ぐも評価の対象

 一部上場企業の最高財務責任者(CFO)と言えば、それなりに重きが置かれるべき存在だが、長谷川がこの職に就かせたフランス人のフランソワ・ロジェは、就任から2年足らずの2015年6月の株主総会直前に突如として退社。

 さらに16年6月、今度はアイルランド人のジェームス・キーホーが代行役を引き継いだ形でCFOになったが、この3月で退職した。しかも、キーホーはCFO就任当初、取締役候補から外れるという異例極まる扱いを受けていたが、長谷川がロジェの二の舞を避けるため、しばらく「落ち着き具合」の様子を見るためだったらしい。

 それでも結局、キーホーは2年も持たなかった。後任には、今度はオーストラリアからやって来たコスタ・サロウコスが就く。

 確かにフランス、アイルランド、オーストラリアと「グローバル」色豊かだが、こんなにコロコロ要職であるべきCFOが変わるなら、とてもではないが「グローバル」がどうのこうのなどと称されても、何の褒め言葉にもなるまい。しかも、CFOだけではないのだ。

 長谷川が社長時代の13年当時、取締役として周りを固めていたドイツ人のフランク・モリッヒ(チーフコマーシャルオフィサー)や、米国籍の山田忠孝(チーフメディカル&サイエンティフィックオフィサー)、南アフリカ出身のデボラ・ダンサイア(買収したミレニアム社長)は現在、社長のクリストフ・ウェバー以下15人中、日本人はたったの3人しかいない社内の最高意思決定機関である「タケダ・エグゼクティブ・チーム」に残ってはいない。

 コーポレイト・オフィサー(CO)だった米国人のアンナ・プロトパパス(グローバル・ビジネス・デベロップメント責任者)や同じく米国人のナンシー・ジョセフ=リッジ(医薬開発本部長)、米国出身の帰化日本人で湘南の医薬研究本部長だった丸山哲行(旧名ポール・チャップマン)らの幹部も、武田を去っている。

 いずれにせよ、「グローバル」な製薬会社の人事とはこんなものかもしれないが、かといってそれがことさら評価されるべきでもあるまい。そうした外国人役員の移動の頻繁さがGlobal Top Employersなる認証ともし矛盾しないというのなら、そうした認証の権威自体が問われそうだ。

 さらに、繰り返すように武田が「職務的、個人的に成長できる最適な環境」だと見なす積極的要因は、傍から見ても乏しいのではないか。前出の丸山などは、医薬研究本部長として陰湿なリストラを強行した逸話で知られ、同本部から管理職をはじめ100人近くがやむをえず退社に追い込まれたという。

リストラ企業を認定する胡散臭さ

 当の丸山は15年にさっさと退職し、後釜には米国人のスティーブン・ヒッチコックが就任したが、今日の武田薬品湘南研究所の凋落ぶりはよく知られている。研究開発部門のリストラは今も続いており、何やら寒々とした話だが、にもかかわらず武田の社内は、そのような羨むべき「環境」だと言えるのだろうか。

 ちなみに、今年のGlobal Top Employersの対象企業は他に6社あり、メルク・ジャパン、ディメンションデータジャパン、SAPジャパン、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパンといった外資ばかりだ。国別で見ると、これらの各支社もノミネートされており、武田のブラジルやアルゼンチン、中国といった国の現地法人もその中に含まれている。

 このうち、メルク・アンド・カンパニーの日本法人であるMSDは昨年末、勤続2年以上、30歳以上を対象とした早期退職募集という名のリストラを行い、想定を約150人も上回る約400人が応募した。リストラの理由は、何でも「1人当たりが稼ぐ利益が少ない」かららしいが、これでも「従業員が職務的、個人的に成長できる最適な環境が整えられ、また、その最高水準を達成した企業」になるらしい。

 無論、Global Top Employersとは、Top Employers Instituteなる団体が勝手に発表している認証だ。リストラをしたら認証されるが如き胡散臭さは否めず、ISO(国際標準化機構)などと違って権威など認めなければ、それまででしかない。

 それ故に、武田が「当社がこれまで醸成してきた企業文化が、Top Employers Instituteに高く評価されたことを嬉しく思います」(タケダ・エグゼクティブ・チームのデイビッド・オズボーン)などとはしゃいでも、興ざめでしかあるまい。(敬称略)

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