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11人死亡火災で惨状露呈した貧困高齢者「最後の砦」

11人死亡火災で惨状露呈した貧困高齢者「最後の砦」
同様の施設運営団体への支援をどう進めていくか

札幌市東区の共同住宅「そしあるハイム」で1月31日夜、入居者11人が死亡する火災が起きた。燃えたのは、ホームレスの自立支援に取り組む合同会社「なんもさサポート」が生活困窮者の支援を目的として運営する木造2階建て住宅。その実態は「無届けの有料老人ホーム」だった。老朽化した建物にスプリンクラーは未設置。火災に対する脆弱さが指摘されるが、こうした施設が貧しい高齢者の受け皿となってきたことは事実だ。専門家は「貧困高齢者の生活を支えているこうした団体に、どうやって支援していくかが課題だ」と指摘する。

 札幌市消防局によると、消防が火災を覚知したのは1月31日午後11時40分。通行人から「建物から煙が出ている」と119番通報があった。火は翌2月1日午前5時過ぎには鎮圧されたが、死者11人(男性8人、女性3人)、負傷者3人(男性2人、女性1人)を出した。

行政が施設の機能に頼っていた面も

 消防や市によると、「そしあるハイム」には16人が入居。死亡したのはこのうち、40代から80代の入居者11人とされている。生活保護を受給するなど低所得の人達だった。

 築50年の建物は、元は旅館として使われていたもので、居住者は1人部屋、浴室やトイレは共同だった。一部報道によると、家賃は月3万6000円で、月2万円を追加すれば3食付きになった。元旅館のため、食堂もあったという。午前7時半〜午後5時半までは管理人がいたが、夜間は居住者だけで、中には10年近く住んでいた人もいたという。目撃者の証言では、廊下に灯油タンクが置かれていたといい、そうした環境が火の回りを早めたり、入居者の脱出の妨げになったりした可能性がある。

 ところが、そしあるハイムのこうした管理を、行政は厳しく指導してこなかったようだ。それは、そしあるハイムが行政の指導監督の及ばない無届け施設だったからだ。

 札幌市は入居する高齢者に食事を提供していたことから、そしあるハイムが有料老人ホームに当たる可能性があるとみて、以前から調査していた。しかし、行政に届け出ると、消防法や建築基準法で、誘導灯などの厳しい安全設備が設けられる。なんもさサポートは「施設の運営はギリギリだった」「設備費が足りなかった」などと明かしており、ギリギリの運営から無届けに繋がった可能性が高い。

 全国紙記者は「ホームレスを保護した警察が、そしあるハイムを紹介していたという一部報道もあった。行政側はそしあるハイムの存在を知っていて、その機能に頼っていたことになる」と話す。こうした生活困窮者に住居を提供する施設としては、社会福祉法上の「無料・低額宿泊所」がある。しかし、そしあるハイムは無料・低額宿泊所の届け出もしていなかった。

 厚生労働省の調べでは、無届けの無料・低額宿泊所は全国に537施設あるといい、約1万5600人が入所している。その9割が生活保護受給者だ。

 高齢者や貧困に悩む人達が集まって暮らす施設を巡っては、過去にも大規模火災がたびたび起きている。2013年2月には、長崎市の認知症グループホームで火災があり、入所者5人が死亡。総務省消防庁はこの火災を受けて15年に消防法令を改正。グループホームや有料老人ホームなど施設の種類にかかわらず、自力避難が困難な人が多く寝泊まりする福祉施設では、床面積に関係なくスプリンクラーの設置を義務化した。設置のための補助金も設けられた。

 それでも十分ではない。なんもさサポートの関係者は「食事や入浴を1人で出来ない入居者もいた」と語っていたが、消防庁によると、大半が自力避難が困難な人でなければスプリンクラーの設置義務はない。そもそも「福祉施設」の扱いではなく、「共同住宅」だったそしあるハイムは、この規制に引っ掛からない。

 もっとも、あるグループホーム関係者は「長崎や札幌の火災の後も、マスコミはスプリンクラーの設置について声高に主張していたが、スプリンクラーがあっても火災は防げないし、被害が減らせる保証もない」と疑問を呈する。

 全国紙記者も「行政を責めるのは簡単だが、今回の火災はちょうど、厚労省が無料・低額宿泊所の〝改善〟に動いているさなかに起きた。行政も無策ではなかったが、さらに制度の狭間があったということだ」と分析する。

 厚労省が改善に乗り出したのは、無料・低額宿泊所が貧困ビジネスの温床になっているとの指摘が絶えなかったからだ。例えば、無料低額宿泊所の多くは、狭いスペースの劣悪な住居に住まわせながら、家賃として生活保護で支払われる〝住宅費〟の上限を設定している。保護費をピンハネする業者も少なくないとされる。そのため厚労省は、生活困窮者自立支援法などを改正し、無届け施設の事前届け出義務化など、規制を強化する方針だ。同時に、人を手厚く配置するなどの良い施設は優遇するなど、アメとムチの両方をふるう改正が予定される。

劣悪な環境でも入らざる得ない現実

 ただ、今回の火災で明らかになったのは、貧しくて有料老人ホームに入れなかったり、身寄りがなく住居を借りるのが難しかったりする高齢者は、劣悪な環境や悪徳業者であってもそれを頼らざるを得ないという現実だ。札幌の火災で亡くなった入居者は、交通事故の後遺症で体が不自由になり仕事を辞めざるを得なかったり、死別などで家族に頼れなかったりと、ちょっとした巡り合わせで、そしあるハイムにたどり着いた人達だった。

 「施設の近くにあったラーメン店は、通常は600〜700円するラーメンを入居者に100円で提供していたそうです。そしあるハイムは地域から孤立したり嫌がられたりしていたわけではなく、むしろ地元の人達に受け入れられていたようです」(社会部記者)。

 誰もが平等に年を取る。身寄りがなくなることも、体が不自由になることも、一文無しになることも、誰にでも起こり得る未来だ。

 国立社会保障・人口問題研究所は、40年には世帯主が65歳以上の高齢世帯が全世帯の44・2%を占め、このうち4割が独居だと推計している。貧しく身寄りのない高齢者はどこへ行けば良いのか。そしあるハイムのように、防火体制の不十分な狭い住居で過ごさざるを得ない人は多いのではないだろうか。

 社会保障の専門家は「高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らせるようにする地域包括ケアの流れの中、生活困窮者への支援も取りこぼさないようにすることが大事だ」と話す。貧しい高齢者の受け皿として機能してきたなんもさサポートのような団体に対する支援を、どのように進めていくか。そしあるハイムの火災が残した教訓は多い。

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