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医療事故で患者と医療者の溝作る損保会社

医療事故で患者と医療者の溝作る損保会社
病院側の情報開示と患者とのコミュニケーションも重要

医療訴訟の件数は2004年の1089件がピークで、現在は年800件前後で推移している。結末は「判決」が約35%、「和解」が約50%、訴訟の取り下げなどの「その他」が約15%。判決のうち、原告である患者側の請求が一部でも認められる割合は約20%でしかない。この数字に対し、医療機関は喜んでばかりもいられない。判決内容もさることながら、裁判のプロセスを通じて、患者側にさらなる医療不信を募らせる結果を招いているのだ。「その背景に、損害保険会社の対応の悪さがある」と指摘するのは、ジャーナリストでノンフィクション作家の柳原三佳氏。

 柳原氏は1993年、父を医療過誤で亡くした。父は喉の痛みを訴えて奈良県立奈良病院(現・地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター)の耳鼻科に通院していたが、1週間後に出血性胃潰瘍で倒れ、胃や腸を切除する緊急手術を受けた。しかし、多臓器不全に陥り、1カ月後に亡くなった。不審に思った柳原氏ら遺族は奈良県を相手に訴訟を起こした。1審では全面敗訴したが、2審の大阪高裁では、ステロイドなどの過剰投与と検査義務を怠った病院の過失が認められ、逆転勝訴した。

 高裁判決までの6年間、奈良県側の弁護士の対応がひどかったという。遺族側が1審で敗訴した際、原告が控訴しないよう亡父の元同僚や友人に説得を依頼したり、意見書をたびたび提出していた柳原氏に対し、法廷外でやくざのような口調で脅かしたりしてきたこともあった。

 柳原氏が医療不信を募らせる、さらなる出来事が起きる。95年に千葉県立東金病院(2014年閉院)で手術を受けた際、自身の体内にガーゼが置き忘れられたのだ。10年間、腹痛やめまいなどに苦しみ、同病院で受診しても原因が分からず、最終的に内耳の疾患であるメニエール病と診断された。

 05年、救急外来で撮ったレントゲンが決め手となり、腹部にガーゼが残っていることが発覚。同病院の平井愛山院長(当時)は過失を全面的に認めて謝罪。損害賠償も早急に話し合いたいと述べた。また、柳原氏の夫の勤務先に近い聖路加国際病院に紹介状を書いてもくれ、柳原氏は同病院でガーゼの摘出手術を受けた。

 同病院は差額ベッドの病室しかなく、柳原氏は1泊3万円で9日間入院した。入院費も千葉県が負担するはずだったが、同県の顧問弁護士は保険契約上1日1万円しか払えないと述べ、医療過誤の損害賠償額として110万円を提示してきた。

 入院実費の立て替え分の清算に1年かかったり、弁護士が長期間にわたり連絡を無視したりする中、柳原氏は被害者への対応に納得がいかず、県を相手に提訴。再手術から4年後、千葉地裁は県に初回提示額の約7倍である700万円での和解を命じた。この弁護士は、県が保険契約している損保ジャパンと「連携」している弁護士だった。

 「医療事故が起きたら、病院側からの情報開示と患者とのコミュニケーションは重要」と柳原氏。また、2度の裁判を踏まえ、「病院が過失を認め謝罪しても、患者と医療人の関係を分断したり悪化させたりしているのは保険会社の厳しい査定と、保険会社の利益に沿った動きをする弁護士の対応」と指摘。「患者・家族はそのカラクリを理解すれば、必要以上に医療人に怒りが向かず、冷静に対応出来る」と述べる。

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