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未来の会

【アメリカ】米国病院の最新事情①

【アメリカ】米国病院の最新事情①

 米国医療については、否定的な評価が多い。しかし、拙著『医療危機 高齢社会とイノベーション』(中公新書)にも記載したように、米国というのは変化が早い、あるいは環境変化に対しての対応が早い国である。イノベーションが起きやすい国と言ってもいいであろう。

 最近の環境変化としては、やはりICT(情報通信技術)やAI(人工知能)の普及と進歩を挙げねばなるまい。この環境変化は日本にも影響があることは間違いないので、変化への対応が早い米国から学ぶことも必要であろう。

 今回はニューヨークを視察した。そこで米国の医療制度や医療経済、遺伝子治療やICTやAIの利用について見聞したり、2014年9月に安倍昭恵首相夫人が訪問した高齢者施設「イザベラハウス」(母体はニューヨーク市の高齢者に対して地域社会に即したサービスと住居を提供している非営利団体)を訪問したりした。この号から何回かに分けてその結果を報告する。

メモリアル・スローン・ケタリング
がんセンター

 まず、米国病院の最新事情をいくつか紹介する。最初は、ニューヨーク州マンハッタンにあるメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)である。

 MSKCCには130年の歴史がある。1884年にNew York Cancer Hospitalとして設立以来、1960年代に現在のMemorial Sloan Kettering Cancer Centerとなった。米国にある47の総合がんセンターの一つで、全米で定評がある『USニューズ&ワールド・レポート』の病院ランキングのがん部門では、昨年訪問したテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターと常にトップを争うがんセンターである。

 2016年の職員数は常勤医師131人、契約医師1091人、常勤の正看護師2864人、管理者・サポートスタッフ1万1638人で、計1万5724人である。さらに、ボランティアが943人いる。ベッド数は473床、年間入院は2万3078人、平均在日数は6.5日、ベッドの占有率は92.5%、年間外来患者数は66万5593人、手術件数は2万3066件、放射線治療数は12万2877件、臨床研究のプロトコールは1072という数である。財務的には39億8000万ドルの売り上げになる。

外来重視の診療態勢を構築

 MSKCCの自慢は、2年前に出来た外来治療センターである。ニューヨーク州では、これ以上病院ベッド数を増やすことが許可されていないため、患者が溢れているMSKCCでも入院ベッド数を増やすことは出来ない。そのため、MSKCCでは同センターを作ろうと考えたのである。

 しかし、マンハッタンの高級住宅地であるアッパー・イースト・サイドは人口密度が非常に高く、なかなか大きな土地がなかった。そのため、同センターは非常に小さな土地スペースに16階建てで作られることになった。

 米国では1泊までの入院は外来の扱いになる。MSKCCは外来で手術を完結させるため、外来から入院する患者はわずかに5%だという。従来の手術では2〜3 日入院していた症状の患者が、1泊2 日で退院出来るようになった。

 同センターには手術室が12、プレオペ室が18、1泊入院出来る病室が28ある。患者の64%が日帰りで、36%が1泊する。多い手術は乳房切除、乳房再建、前立腺切除、腎摘出、甲状腺切除、子宮摘出などの低侵襲手術だという。

 もう一つのポイントは、狭いセンター内でいかに多くの患者を診察出来るようにするかである。そのため、リカバリールームは設けず、患者が院内にいる限り担当スタッフを変えないことにした。

 また、動線管理のため、ビーコン(無線標識、写真①)を立て、スタッフは端末を持つことで誰がどこにいるか分かる仕組みになっている。チーム医療を充実させるため、医局はあえて作らなかったという。

 抗がん剤の処方が多く、治験も多いために院内の薬局は充実している。美術品もキュレーターを雇って収集している。実は、同センターは「伝説のヘッジファンドマネジャー」と呼ばれるジュリアン・ロバートソンの妻ジョセフィーヌ(ジョシ—)・ロバートソン(写真②)の財団から5000万ドルの寄付を受けて設立された。

他との競争のため患者満足度を重視

 同じニューヨーク州にあるマウントサイナイ病院が合併という道を選んだのに対し、MSKCCは独立した一病院として存続していくことを選んだ。もちろん、M&A(合併・買収)ではなく、知識の共有や共同研究といった意味合いでの提携は推進している。また、放射線治療センターや化学療法センター、外来診療センターをニューヨークのあちらこちらに作ったりしている。

 新しい治療に関しては、原則として治験で行っている。既に1000以上の治験が行われており、広報誌にも治験についての記事が多く記載されていた。

 もう一つ、日本と異なるのは、患者満足度の重視である。米国では「ペイシェント・リレイテッド・アウトカム(PRO)」とも言う場合がある。なぜこれが重要かといえば、競争原理が背景にある。驚いたことに、遠く離れたテキサス州のMDアンダーソンがんセンターがニューヨーク州でも宣伝を展開し、患者を獲得しようとしていた。

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