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第102回 総合診療科訪れるメンタル疾患患者

第102回 総合診療科訪れるメンタル疾患患者
香山リカ(精神科医 立教大学教授)

思うところがあって、昨年から総合診療科で勉強をかねて外来診療を行っている。精神科医として30年以上、仕事を続けてきたが、新しい内科診断学や診察技法についてもう一度、学ぶ必要性を感じたからだ。

 ここでも何度か述べてきたが、精神科の外来には「メンタル不調の背景に実は身体疾患があった」というケースが少なくない。めまいや言葉のもつれ、気持ちの落ち込みから「うつ病か認知症では」と受診した患者さんの頭部CTを撮ったら脳梗塞が見つかり、慌てて神経内科医に相談したこともあった。

 少し違う話かもしれないが、漫画家の内田春菊さんが大腸がんになり、ストーマを装着するまでをコミック形式で描いた『がんまんが  私たちは大病している』(ぶんか社)でも、ちょうどダイエットに励んでいた内田さんは自分の著しい体重減少はダイエットの成果と考えて、むしろ喜んでいたことが描かれている。それを読んで、「拒食症だと思うんです」と体重減少を訴えて受診する患者さんの中にも、同じようなケースが含まれているのではないか、とぞっとした。

 15年前であれば、脳梗塞の患者さんが「うつ病」、大腸がんの患者さんが「拒食症」と自己申告して精神科を訪れることはなかっただろう。

しかし最近、精神科の敷居が低くなっていること、「うつ病」などが繰り返しメディアで取り上げられ身近な病になっていることから、「まず精神科へ」という患者さんが増えているのだ。

 そういうこともあり、「身体を含めたプライマリケアとしての精神科」の必要性を感じて総合診療科の門を叩いた、というわけだ。

「統合失調症の減少や軽症化」の背景

 外来に出入りするようになって半年強が経過したが、そこでの発見や気付きを挙げればキリがない。それについては、またこのコラムで少しずつ紹介する機会もあると思うが、今日はその一つについて話したい。

 まず精神科医として一番驚いたのは、身体疾患を抱えた患者さんが精神科に来るように、総合診療科には精神疾患の患者さんが多く訪れることだ。

 精神医療の分野では、ここ20年ほど、「統合失調症の減少や軽症化」が大きな話題になっている。薬物療法の進歩により、外来受診した統合失調症の患者さんがきちんと服薬さえすれば入院をせずに済む、というのはまだ理解出来る。

 ただ、初診時の症状自体が軽く、「これはうつ病でも起きる被害妄想だろうか。それとも……」と診断に迷うことも少なくない。これは、薬物療法開始以前のことなので、どう説明して良いのか分からない。また、そもそも発症率が下がっているという説もある。

 もちろん、統合失調症の好発年齢である思春期の人達が少子化により減少していることを差し引いて考えなければならないが、私も週2回の外来で初診の患者さんに「統合失調症」という診断名を付けるのは、年に数回だ。だいたいの計算だが、うつ病の20分の1くらいではないだろうか。

 ところが、総合診療科ではもう何度か、統合失調症と思われる初診の患者さんに会った。「体が痛くて。でも内科ではリウマチではないと言われました」という人の話をよく聞くと、「電波が外から当てられていると思うんです」などと“立派な”身体被影響体験という幻覚妄想が見つかることもある。

 「そうか、精神科では統合失調症の初発を診る機会は減ったが、その人達は総合診療科などを訪れているのかもしれない」と目からウロコが落ちる思いがした。

 さて、問題はそれからだ。もちろん、その人達は原則的には精神科でその後の治療を受けるべきだ。ただ、せっかく総合診療科の外来を受診してくれている人に、「あなたの場合、メンタルの専門医に診てもらった方がいいですね」と言って、すぐに「そうですか」と納得してくれる場合は少ない。

 あるいは、納得しても紹介先の精神科の初診が1カ月待ち、などということもある。そうなると、おそらく本人は受診のモチベーションも下がって、そのままになってしまうだろう。

 私は、統合失調症と診断されるケースが受診した場合、初期治療はそのまま総合診療科で行うのが望ましい、と考える。本人にこれは心身両面の疾患であることを説明し、ごく少量の抗精神病薬を投与する。それを服薬してくれれば、不眠や著しい緊張感なども和らぐだろう。精神科に紹介するのは、それからでもいいのではないか、と思っている。

総合診療科・精神科の相互対応体制を

 ただ、それは私が精神科出身だから出来ることだ。内科診断学のプロである総合診療科医に「統合失調症の治療もして」と言っても、それは無理な話だと思う。

 では、どうすればいいのか。私は、出来れば今増えつつある総合診療科には精神科経験者が少なくとも1人配置されるか、あるいはすぐに駆け付けられる体制を整えるかするべきではないかと思っている。

 逆に、精神科の単科病院には総合診療科医が配置されるのが良いかもしれない。それが無理なら、総合診療科の先生には精神科の基礎を、また精神科医は内科の基礎を、10年に一度ずつくらい、学ぶ機会を持つという“参勤交代”のような相互交流の仕組みを作るのはどうか。それも数日の講習会ではなく、やはり月単位の実践的研修が望ましい。

 もちろん、これらは夢物語にしかすぎず、「自分の科のことで精いっぱい」と両科のドクター達は言うだろう。しかし、実際に“還暦前の手習い”で総合診療科に足を踏み入れてみて、これは心から思うことなのだ。

 いったい誰に提案すれば良いかも分からないが、今度、医学部の教授職にある人に会う機会があったら、ちょっと話してみようと思っている。そして私自身は、今後も細々と「オバハン精神科医、総合診療科で学び直す」という取り組みを続けていくつもりだ。

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