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第117回 早期決着を優先した厚労省「受動喫煙」対策修正案

第117回  早期決着を優先した厚労省「受動喫煙」対策修正案

 他人のたばこの煙を吸う「受動喫煙」対策で、厚生労働省は修正案を自民党などに示した。店舗面積150平方㍍以下の飲食店では喫煙を認める内容で、「30平方㍍以下のバーやスナック」に限っていた以前の案からは大幅に後退した。調整型の加藤勝信厚労相の意向を反映した大甘の案となったが、妥協を嫌って合意に背を向けてきた塩崎恭久前厚労相時代の「反動」が表れた格好だ。

 「悪くないな。勉強の跡がうかがえる」。17年11月に入り、厚労省から修正案の説明を受けた自民党の規制慎重派の議員は満足げに応じた。規制の例外を「150平方㍍以下」とする内容が、「客席部分が100平方㍍以下」を例外としていた自民党案に似ているためだった。厚労省の新たな検討案は、飲食店を原則禁煙としつつ、床面積が150平方㍍(客席100平方㍍、厨房50平方㍍)以下なら店の判断で喫煙を可能とすることが柱。ただし、大手チェーンなどの店舗は喫煙専用室を設置出来る資金があるとの理由で全面禁煙とする。

 8月に塩崎氏の跡を継いだ加藤厚労相は、2020年の東京五輪・パラリンピックに間に合わせることを重視し、省内で「柔軟に対応するように」と指示していた。案をさらに検討して改正健康増進法案に盛り込み、18年の通常国会に提出する。

 厚労省は、受動喫煙が肺がんや脳卒中を引き起こし、国内で年に約1万5000人が死亡していると推計する。受動喫煙防止が努力義務止まりの日本は、世界保健機関(WHO)から「世界最低レベル」と酷評されている。にもかかわらず、自民党内でも規制重視派と規制慎重派の対立が続いてきた。

 汚名撤回に動いたのが塩崎氏だった。ただ、17年3月にまとめた、規制の例外を「30平方㍍以下のバーやスナック」に限る案にこだわり、妥協を拒絶。たばこ産業、小規模飲食店への影響を懸念する慎重派の態度を硬化させ、対立の火に油を注いだ。揚げ句、8月の内閣改造、9月の衆院解散で仕切り直しとなっていた。

 塩崎氏の重しが取れた厚労官僚は、規制慎重派寄りに舵を切り、小さな居酒屋や焼き鳥店は規制対象外とした。慎重派が最も重視していた点はクリアした形だ。ただし、法施行後にオープンする店は規制対象となる。この点に関し、慎重派からは「議論の余地がある」との異論も出ている。

 一方、規制推進派は納得していない。様々な患者団体も「失望した」「規制の意味がない」などと声を上げている。新たな厚労省案は面積規制を「臨時措置」としつつ、見直し時期には触れていない。「永久に国際標準からかけ離れてしまう」と規制推進派議員は懸念する。

 厚労省は「喫煙可」を選んだ店に対し、20歳未満の客の入店を禁じたり、20歳未満の従業員を雇えないようにしたりすることで、推進派を説得する考えだ。

 それでもこれまで厚労省は、接待をされる側など禁煙店を選べない立場の客がいることを挙げ、さらに「がんやぜんそく患者、妊婦など弱い立場の人の健康が『喫煙の自由』と同等に扱われるのはおかしい」と説明してきた。

 厚労省幹部の1人は「新たな案は早期決着を優先した、理念のない案と言われても仕方がない」と自嘲気味に語る。

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