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癒やしと安らぎの環境賞2017

第105回 地方医療が抱える課題を「循環型医療」で解決する

第105回 地方医療が抱える課題を「循環型医療」で解決する
田上佑輔(たのうえ・ゆうすけ)1980年熊本県生まれ。2005年東京大学医学部卒業。同年千葉県国保旭中央病院入局(研修医)。07年同病院外科専修医就任。10年東京大学医学部附属病院腫瘍外科入局。13年宮城県と東京都にやまと在宅診療所創設し、循環型医療を開始する。現在、宮城県と神奈川県に計4診療所を有する医療法人社団やまと理事長。登米市の地域包括ケアアドバイザーも務める。

地方の深刻な医師不足を解決する方法として、医師が都市と地方を循環する循環型医療の取り組みが始まっている。「地方で医療を行いたい」「在宅医療や総合診療を学びたい」という意欲を持つ都市部の医師が、地方に移り住むのではなく、都市と地方を循環して診療を行う。日本の医療が抱える課題の解決策となるかもしれない。

◆地方と都市に診療所があるのですね。

田上 東日本大震災の直後から、宮城県市の市立登米市民病院に東京の医師を交代で派遣する活動を行っていました。登米市を選んだのは、県庁に問い合わせたところ、宮城県で最も医療で困っている市だということだったからです。震災から2年ほどは、交代で診療をしていたのですが、行った医師はそこで診療して、それで終わりになってしまいます。地域との関わりが出来ないので、その場限りの診療になってしまい、定着しないのです。そこで、地方に定着出来る拠点を自分で作ろうと考えて、登米市に診療所を開業しました。それと同時に、東京にも診療所を作り(当時)、私自身も都市と地方を行き来しながら、両方で診療を行ってきました。現在、神奈川県と宮城県に診療所が二カ所ずつあります。

地方で医療を行ってみたい医師は多い

◆登米市はどんなところですか。

田上 診療所があるのは、仙台から新幹線で約30分のくりこま高原駅から、車で約20分の所です。登米市は東京区内と同じくらいの面積がありますが、人口は約8万人、高齢化率は30%と高齢化が進んでいます。町にはイオンがあり、マクドナルドがあり、ユニクロがあり、日本によく見られるような地方都市です。

◆医療は多くの課題を抱えていた?

田上 市立登米市民病院があるのですが、患者さんが救急で運ばれてきても、専門医がいないために断られることが多かったようです。産婦人科や小児科はありません。市民病院は医師不足で、そのために医師は雑務が多く、いつも忙しくて医師本来の仕事がなかなか出来ない状況でした。登米市には診療所が30カ所くらいあるのですが、新規の開業は増えず、全体として減っている状態です。

◆そこで在宅療養支援診療所を始めたのですね。

田上 その地域で困っていることをやろうということでした。また、私はそれまで東京大学医学部附属病院の腫瘍外科にいたので、在宅に移行出来るような患者さんの診療をやりたいという希望も持っていました。在宅医療にはがん患者さんが多かったこともあり、がん専門医から無理なく転身出来ました。

◆新しく始めた「やまとプロジェクト」とは?

田上 地方の医師偏在の課題解決のために、2017年10月から始めたプロジェクトです。現在、医師の偏在による地方の医師不足が深刻ですが、それを解決する方法として、国は、医師を強制配置するとか、地方に行く医師にインセンティブを付ける、といったことを検討しています。地方の自治体も、奨学金を出したり医学部に地域枠を作ったりして、採用のハードルを下げています。ただ、採用後に医師が定着してない。そこに強い違和感を覚えました。私自身が都市と地方で働いてみて、地方の仕事を続けていくためには、採用の問題だけでなく、働き方に踏み込んでいく必要があると感じたのです。私自身そうですが、多くの医師が、地方に移り住んで、地方だけで診療を行うという働き方を選ぶのは難しいと思います。そこで、都市と地方を循環するような働き方を提案することにしました。それが「やまとプロジェクト」です。

◆都市を離れたくない人は多いと思います。

田上 都市には人が集まる場所が多いし、エネルギーの高い人達が集まって、常にお互いを刺激し合うような環境に恵まれています。そういう環境に身を置くことには、ネットなどでは得られない意味があると思います。

◆地方で働きたいという医師はいるのですか。

田上 厚生労働省の調査では、地方勤務の意欲のある医師が44%いることが分かっています。つまり、都市で暮らしながら地方の医療に貢献したいと考える医師はかなりいるのです。そういう人達に、大学や紹介会社の枠を超えて週に1日でも2日でも、地方で働ける機会をマッチングしていきたいと考えています。

◆地方の医療に意欲的な医師が対象になりますね。

田上 地方の医師不足はただ医師の数を増やすだけでいいのか、という問題があります。大切なのは医師のモチベーションだと思います。医師全員が地方で働く制度ではなく、働きたい医師が働ける制度で十分で、潜在的に地方で医療をやってみたいという医師の意欲を活かすことが、本当は大切なのだと思います。

地方で働く日数はまちまち

◆始まったばかりですが、プロジェクトの現状は?

田上 現在、私を含めて10人の医師が、都市と登米市を循環しながら医療を行っています。登米市での勤務日数は人によってまちまちで、週5日の医師もいれば、週に1日の医師もいますし、最も少ない人は月2日です。主たる所属先もいろいろです。神奈川県のやまと在宅診療所の常勤医師もいれば、大学病院勤務の医師もいたりと、いろいろな病院から集まっています。登米市以外で勤務している都市も、私は神奈川県の川崎市と横浜市ですが、盛岡市、仙台市、奈良市、大阪市と様々です。受け皿となる登米市の医療機関は、現在のところ、やまと在宅診療所登米です。ただ、登米市と一緒に進めているプロジェクトなので、今後、登米市の他の医療機関で働くというケースも出てきます。

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