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「共同購買」で医療コスト削減

「共同購買」で医療コスト削減
米国の場削減効果は年間4・

超高齢時代の到来で、医療費抑制が必須であるのに加え、医療制度改革、消費税増税、人件費高騰などで、医療機関の経営が厳しさを増す中、コスト削減は待ったなしだ。中でも、医業支出の相当部分を占めるとされるのが医薬品や医療材料で、コスト削減の一環として、複数の病院が共同で医療材料などを購入する動きが注目されている。

 全国の国立大学病院のうち42病院では、2016年から医療消耗品の共同購入を開始した。従来は病院により規格や調達価格にばらつきがあったが、仕入れを一本化することで、コスト全体の2割強に相当する年間3億円の削減を達成した。

 国からの運営費交付金の減額により、15年度は17の国立大学病院が赤字を計上している。また黒字病院であっても、老朽化した診療機器の更新を見合わせるなどして、帳尻を合わせている所もある。

 まず手始めに、汎用医療消耗品(25万品、計1169億円)のうち、アルコール綿や手袋など看護関連の5品目について、看護師が実際に吟味して選定した各1社に集約させた。この結果、42大学で年間13億円の購入費が10億円となり、3億円のコスト削減に繋がった。将来は、MRI(磁気共鳴画像装置)や電子カルテシステムなどの大型の機材も共同調達の視野に入れているという。一方、医薬品は同効の薬が多数あるため一元化は難しく、検討課題とされた。

 これに先立ち、民間病院では一足早く、医療法人単位、さらに大きなアライアンスを組んで調達を集約する動きが活発化している。

 例えば、07年に開院した済生会横浜市東部病院では、初年度に多額の赤字を計上したため、財政健全化の一環として、購買室を中心に医療材料の購入の仕組みの見直しを図った。神奈川県内には五つの済生会病院があり、それぞれに院内物流管理システム(Supply Processing and Distribution:SPD)を構築していた。SPDとは、物品、取引、情報の流れを一元管理する物品・物流管理システムである。同院では、5病院でSPD業者を一社に絞り、購買総数を増やして価格交渉することを提案し、4病院の承諾を取り付けた。

 コードや商品名を統一したマスターをSPDシステムに組み込んでみたところ、同一商品でも購入価格のばらつきが明らかになり、約600品目について見直しを行って、5病院合計で年間2000万円以上のコスト削減を達成した。

300病院が医療材料を共同調達へ

 設立母体を超えた国内最大級の共同調達組織が日本ホスピタルアライアンス(NHA)で、埼玉県済生会川口医療福祉センター、虎の門病院など全国の大手病院が参加している。

 経営コスト圧縮が強く求められる一方、度重なる薬価・償還価格の改定、円安、病院の交渉などで、メーカーの余力は減少して価格交渉が難しくなっている。個々の病院の価格削減活動が限界に達しつつある中、多くの医療機関の購買力を結集することで、単独では得られない購買条件をメーカーから得ることを目的に、09年に任意団体として設立され、20病院が参加して、まず汎用医療材料分野委員会が設置された。

 12年には一般社団法人化された。購買規模を大きくすれば、メーカー側も思い切った価格を提示することが出来、スケールメリットによって売り手も買い手も双方を利する仕組みが出来る。

 15年時点で、300床を超える病院を中心に167病院(計6万5513床、国内全体の約5%)がNHAに参加しており、三菱商事グループのSPD管理会社が事務局となり、同社と取引がある病院に参加を限定していた。しかし、16年に基準を緩め、取引のない病院にも門戸を広げたところ、17年5月現在で209病院まで増えた。18年度に300病院を目指す。NHA全体としてのコスト削減効果は、16年で約35億2000万円に達しているが、参加病院の増加で、さらに価格交渉力が高まることが期待されている。

 先行する米国には、100年以上前からGPO(Group Purchasing Organization)という共同購買組織のモデルがあり、98%の病院が全米に約600社あるGPOのいずれかに加盟し、年間のコスト削減効果は4.5兆円に達するとされる。

 共同購買には、デメリットがないわけではない。例えば、商品選定に時間かかるため、効果が実感されるまでに一定の時間を要する。また、自院に必要な商品の選定サイクルに合わない、個別交渉などにおいては制約を受けかねない、といったこともあり得る。さらに、購買量を確保するために、選定品に切り替えたり、採用したりするように努めなくてはならない。

 NHAでは、ガーゼやマスクなどに医療材料を皮切りに、超音波診断機や手術台、無影灯など単価が1000万円程度の高額品にまで広げ、最終的にはMRIなどの共同調達を目指す。さらに、医薬品、医療機器、委託業務、事務用品、エネルギーなど、様々な商品やサービスも視野に入れている。

 とりわけ、医療材料は、医療技術の進歩を背景として高騰傾向が続いている。

 全国公私病院連盟と日本病院会の「病院運営実態分析調査」によれば、病院が購入する医療材料費の伸び率(15年)は前年に比べて21%増加しており、薬剤費の14%増加よりも大きい伸びを示している。例えば、低侵襲治療が増加したことで、心臓カテーテル、薬剤溶出ステント、内視鏡下手術用のディスポーザル手術具などが伸びていることが挙げられる。今後、高額な医療器具にまで広がれば、共同調達の効果は一段と高まると見込まれる。

医療機器販売業者らが共同購買の研究会

 企業の動きも活発だ。医療機器卸最大手メディアスホールディングスの子会社メディアスソリューションと地域の医療機器卸11社は17年、「医業経営支援研究会MVP(Medical Value-chain Partners)」(会長=武藤正樹・国際医療福祉大学大学院教授)を設立し、同研究会が開発した医療材料の共同購買サービスの提供を開始した。3年間で契約会員数200病院、総購買額700億円を目指すという。医療機関が、こうしたGPOを選択する際は、組織の透明性が鍵となる。

 独自ルートや小グループでの共同購入や価格交渉には限界がある中で、米国流GPOを検討すべき時期に来ているのかもしれない。なお、欧米には、シングルユースデバイス(SUD/単回使用機器)の再利用の仕組みもある。外部のサードパーティー(第三者団体・企業)に再製造を委託して、それが新品と同等であるという承認を政府が与える仕組みもある。

 コスト削減は、全ての病院にとって喫緊の課題であることは、今一度心に刻んでおきたい。

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