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癒やしと安らぎの環境賞2017

心身共に診るための「学び直し」

心身共に診るための「学び直し」

近、実は大学病院の総合診療科で医師としての“学び直し”をさせてもらっている。精神科医としては30年以上のキャリアがある私だが、今は大学の教授職との掛け持ちで外来診療しか行っていないので、身体診察や身体管理の腕前がすっかり衰えているからだ。

 初期研修医と同じように問診を取り、聴診や触診などをさせて頂き、何が問題かの一覧、いわゆるプロブレムリストを作って、考えられる疾患を挙げ、検査のプランを立てる。その時点で、外来医長のドクターなどにチェックしてもらって、実際の検査、診断へと移行する。それだけの流れなのだが、毎回、“目からウロコ”の発見ばかりだ。

 例えば、目の前の患者さんを見ると、どうしても「メンタル疾患ではないか」と思い込んでしまう癖が付いている私だが、外来医長に「甲状腺機能はどうでしょう?」などと言われてハッとする。

 逆に、患者さんの訴えから「これは悪性腫瘍がどこかにあるのではないか」と考えて検査を進めて、結局は何も見つからず、メンタル系の問題だった、とういうこともある。メンタルとフィジカル、常に両方の可能性を考えながら、検査や診断を進めなければならないのだ、と思い知らされる。

 精神科医の仲間にその話をすると、一様に「いいなあ」と羨ましがられる。

 「私も最近、身体疾患についての知識があやふやになってきて、勉強し直したいと思っていたんですよ」「私も来年はそれをやりたいので、総合診療科に紹介してもらえませんか」と言われることさえある。

精神科の勉強に消極的な内科医や外科医

 ところが、内科医や外科医などの知り合いにこの話をして、「メンタルの勉強をしたい」と言われることはまずない。「確かに、外来に『うつ病かな』という人も来るけど、そっちは全然分からないから」「時々、検査の結果は正常と言っても、ずっと通ってくる人がいて対処に困っている」などという愚痴は聞かされるが、「短期間でも精神科でトレーニング受けたい」と言われたことは一度もない。

 さらに、「先生はよく辛抱強く患者さんの話を聴けるね。自分には絶対無理だ」などと言われることさえある。

 どうやら、内科や外科などフィジカルを専門にするドクターから、精神科は「分かりにくい」「自分には縁がない」と思われているようだ。

 しかし、総合診療科での再トレーニングを経て思うのは、「身体を専門とするドクターこそ、少しでもいいから精神科を経験してもらいたい」ということだ。

 もちろん、重症の統合失調症や手がかかるパーソナリティ障害の人達を診られるようになってほしい、とまでは思わない。

 ただ、うつ病などで多彩な身体症状が出てくること、特に痛みやしびれに関しては、それが身体の問題かメンタルの問題か鑑別が難しく、線維筋痛症や慢性疲労症候群のような科をまたぐ疾患もあることなどを、実際に経験してもらいたいのだ。

 さらに、「その人の訴えを尊重し、話をよく聴くだけで改善する症状もある」ということも知ってほしい。

 こう言うと「それは気の持ちよう、ということだろう?」と思われるかもしれないが、それだけではない。

 特に内科や外科で「何でもないんだから、ここに来られても困る」などと受診を拒絶された経験がある患者さんは、ただでさえつらい症状が一層ひどくなっていて、「とにかく少しでも楽になりたい」と思っている。

 そんな人の話を15分でも時間を取って丁寧に聴き、「それはつらかったですね」とその苦しさに共感を寄せるだけでも、症状が半減することがあるのだ。

 「精神科医の私がこうやって身体の勉強に来るように、内科医や外科医も精神科に週1回、半年くらい研修に来る“交換留学”の制度を作ってはどうでしょう」と言ったら、後輩に笑われた。

スペシャリストも「基本路線」は押さえる

 「今はとにかく自分の専門分野の新しい医療技術や医療機器に追い付くだけで精いっぱいなんだから、他の科の勉強なんてする余裕はありませんよ」

 確かにそれも理解出来る。総合診療科での研修でもう一つ発見したのは、その「医療技術の目覚ましい進歩」だからだ。

 例えば、今年になってスマホに接続して画像を確認出来る持ち運び型の超音波検査キットが発売されたと知った。動画で確認しただけなのだが、本当にプローブ(探針)をスマホに接続するだけで、全身の検査が可能なのだそうだ。

 在宅診療などをする医師には強い味方だろうが、小さなスマホ画面に映し出される画像から正確な診断を付けるためには、それなりのスキルを身に付けなければならないだろう。「毎週、こういった新しい技術の講習会や研究会があるんですよ。『週1回、精神科の外来で再研修して』なんて言われても無理」と言われると、こちらも何も言えなくなってしまう。

 もちろん、医師になったからには「この分野においては、誰にも負けない」というスペシャリストになりたい気持ちは誰であれあるだろうが、それでも「患者さんの訴えに、何でも応えられるジェネラリストになりたい」と全く思わない医師もいないだろう。

 スペシャリストかジェネラリストかというのは医師にとって“永遠の悩み”だが、どんなスペシャリストでもやはり「これだけは」という基本路線だけは押さえておいてほしい、と思うのだ。

 ちょっとでも余裕のある内科や外科の先生達、ごくたまにでも良いので、メンタルクリニックや病院の精神科に“学び直し”に来てみませんか。もし私で良ければ、丁寧かつ分かりやすく“メンタル診察のABC”を説明させていただきます……。

 来年あたりこんな呼び掛けをしてみたいな、と総合診療科で汗をかきながら、夢想する私なのであった。

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