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癒やしと安らぎの環境賞2017

「マイナス金利」政策が地方経済を蝕む

「マイナス金利」政策が地方経済を蝕む
「地銀の破綻」と「地方経済の劇的悪化」という悪夢

「金融緩和政策の継続により、長短金利差が縮小し、収益性が低下している」

 「今後においても、金融機関が保有する比較的高い金利の融資や債権が次第に低金利の融資・債券に置き換わり、資金利益の低下圧力が継続することが予想される」——。

 これは、10月25日に金融庁が発表した、地方銀行の苦境を伝える「金融レポート」の一節だ。そこでは、日本銀行が2016年2月にマイナス金利を導入して以降、初の通期決算となった17年3月期に、第二地銀を含む地銀106行の半数が、本業である顧客向け金融サービス業務で赤字に陥ったとされる。

 無論、主たる理由はアベノミクスの「異次元の金融緩和」政策が生んだマイナス金利政策による「収益性」の低下で、預貸金利ザヤの縮小が一段と加速している。しかも、預金を国債で運用することで得ていた「特定取引純益」も、望むべくもない。

実質業務純益は前期比約2割減

 安倍晋三首相が乱発し、一時的に関心を集めたものの、その後何かのプラス面があったか定かでなく、記憶にも残りにくいようなバナナの叩き売りに酷似した種々の「政策」の一つに、「地方創生」がある。しかし、地銀は地方経済にとって欠かせない存在だから、その経営の落ち込みは「地方創生」どころではない悪影響を与えるのは間違いない。

 何しろ、地銀64行の実質業務純益の現状は、前期比で19・8%も減少しているのだ。もはや、銀行の本来業務では食えなくなりつつあると言ってよい。第二地銀も、41行の合計値はやはり同じく16%の減少だ。しかも、過疎化と人口減で、地銀の貸出先の減少が止まらない。

 資金需要が乏しいが故に、一部では少ない融資先を巡って金利のダンピング競争が起きているという話を聞く。地銀関係者によれば、顧客先を訪問すると「マイナス金利だから、金利を下げろ」と要求されるという笑えない話も珍しくないとか。

 他方で、マイナス金利政策はメガバンクも直撃している。店舗の削減のみならず、三菱東京UFJ銀行は今後10年間で総合職3500人を削減し、みずほ銀行は従業員約1万9000人を削減。三井住友銀行は20年度までに、4000人分の業務を削減する。

 だがメガバンクは、既に収益基盤を海外での手数料ビジネスに求めるようになっており、三菱東京UFJだけでももはや全収益の約40%が海外業務の時代だ。生き残りの道はある。連日の相場上昇で一時、東京証券取引所の業種別指数の上昇率で全33業種中、大規模なリストラが避けられなくなっている3大メガバンクの株がトップになった。これは、よく指摘される「株式市場のマネーゲーム化」ということだけでは必ずしも説明されないだろう。

 しかし、地銀はメガバンクと違う。その収益源に、海外業務はほとんど存在しないに等しい。このままの趨勢が続くと、金融庁の試算では25年3月期までに地銀の半数以上が赤字に転落するのは疑いない。ただでさえ疲弊した地方経済に今後、どれだけマイナス要因として働くか予想がつき難い面がある。

 当面の打開策として考えられるのは、有価証券の運用などによる収益の確保だろうが、問題は金融庁だ。運用体制面や運用ノウハウでリスクを抱えたケースがあるという理由で、「金融システムの安定性」から有価証券運用の検査を厳しくしている。その結果、ますます地銀にとって収益源の確保は至難になっていく。

 既に昨年3月の時点で、全国地方銀行協会の寺沢辰麿会長(横浜銀行頭取)は定例の記者会見で、地銀を取り巻く厳しい環境について、「再編も一つの手段」と発言している。だが、いくら地銀同士の合併が繰り返されたところで、マイナス金利政策に対応する抜本策にはならない。フィンテック(金融テクノロジー)のような最新技術を導入して決済業務のような人件費を削減しても、限界がある。そもそも一口に地銀と言っても、横浜銀行や千葉銀行のように、富裕層を多く抱えた大都市圏を立地条件にしている地銀ばかりではないはずだ。

 このままだと生じかねないのは、「地方創生」どころか「地方切り捨て」だ。だが、そもそも地銀だけが不利を被らなければならない合理的理由はないはずだ。本質的な問題は、資本主義の経済原理とはどう考えても相容れないはずのマイナス金利という政策を、いつまで続けるのかという点にあるだろう。

日銀が出口戦略を議論しない理由

 日銀は今年4月に発表した「金融システムレポート」で、地銀について「収益力の低迷が続き、損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融機関全体でみた金融仲介機能が低下して実体経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられる」などと他人事風だ。しかし、マイナス金利政策は地方経済、さらには経済全体を蝕む元凶にもなりかねない。

 黒田東彦・日銀総裁は、物価上昇率の2%目標実現を既に6回も先送りしているのでから、この辺でマイナス金利政策に象徴される超緩和策からの出口戦略をいつから具体化するのか、という議論を始めてしかるべきだ。しかし、その気配は一向にない。理由は、それほど複雑ではないだろう。日銀が金融政策を正常化し、金利の上昇を容認でもしたなら、政府の毎年の利払費が激増するからだ。

 過去16年の間に、国債の残高は実に4倍以上増えている。だが、利払費は現在9兆円ほどで、2000年の約10兆円と比較すると逆に減っている。マネタリーベース(資金供給量)で見ても、アベノミクスのスタート当初から今年6月までに330兆円も増加して、計468兆円にもなっているにもかかわらずだ。先進国でこれほど財政規律が弛緩した国も珍しい。

 国債残高が4倍に増えても利払費がそうならなかったのは、ひとえに金利低下のペースを早くしてきたらで、その挙げ句がマイナス金利だ。本来なら利払費に40兆円前後を充てねばならず、日本は今頃、予算を組むのに往生する財政難に追い込まれていたに違いない。安倍がこれまで繰り返してきた人気取りや米国のご機嫌伺いを狙った、歳出上限を設けない大盤振る舞いの予算編成も、最初から実現不可能だったはずだ。

 だが、安倍や日銀がどうあがこうが、マイナス金利を永久に続けることなど出来ない。11月2日にはイングランド銀行(英国の中央銀行)が10年ぶりの利上げに踏み切ったが、欧米の中銀は緩和政策の出口に向かって既に動き始めている。米国の連邦準備制度理事会(FBR)も緩和を縮小し、金利を引き上げた。安倍の後先考えない国家予算の実質的な私物化は、いつか財政の極度の悪化という形でツケを払わねばならない日が必ず来る。

 その日が、地銀の破綻と地方経済の劇的悪化の前に来るのか後に来るのか、定かではない。だが、宴には終わりがある。そのことを、今回の総選挙でまたも安倍に勝たせた有権者達のどれほどが知っていたのか。 (敬称略)

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