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癒やしと安らぎの環境賞2017

第99回 「医師だってマルチに活躍」の新世代

第99回 「医師だってマルチに活躍」の新世代

若いドクターと話していると、医師という仕事の捉え方、考え方が私の時代とはかなり変わった、と感じずにはいられない。

 私が医学生だったのは30年以上前のことだが、「医者は一生の仕事」「人生の全てを医療に捧げるべき」というムードが色濃く、基礎の実習や実験でも何度もやり直しを命じられ、夜9時、10時になることも少なくなかった。そこで泣き言を言うと、教員達から「これで音を上げるようでは、臨床に行ったらとても乗り切れない」などと脅かされた。

 もちろん、今もそういう雰囲気はあるはずだし、勉強する内容は格段に増えて国家試験もかなりハードルが上がっているようだが、「医師という仕事をどう捉えるか」は人によって大きく異なるようだ。

 ある若いドクターは医療ビジネスに興味があり、「臨床は生活のためにやっているだけ。なるべく定時で終わる勤務先を選んで働き、夜は経営の勉強のために時間を使いたい」とはっきり述べていた。

 また、「私は将来、ヨーロッパに行って国際機関で働きたい。臨床は離れるつもりだけど、一応、専門医の資格は取りたいから病院にいる」と教えてくれた20代の女性医師にも会ったことがある。

皆堂々と自分のライフプランを語り、「本当は地域医療にまい進するべきですが」といった言い訳もない。

 「国家試験合格の予備校を作りたい」「本当は筋トレの動画の配信で食べて行きたい」「オペラ歌手の夢が諦め切れず、レッスンを受けている」といった“変わり種ドクター”もいる。実際にモデルやタレントを兼業しながら、雑誌やテレビで活躍する女性医師も増えてきた。

 しかし、医師のこういった多様な選択に対して、世間はまだ完全に寛容とは言えない気がする。

 例えば、昨年、国立大学医学部を卒業し、医師国家試験にも合格した女性が、民放キー局の正社員として採用されたことが明らかになった。その女性は志望動機を「医療ドラマが大好きで医者になろうと思ったが、でも本当に好きなのはドラマだったと気づいてテレビ局に挑戦した」と語っていた。

 メディアでも活躍する先輩医師達からも、「医師資格を持つ人の選択が広がることは、医療の世界にとってもプラスになる」とエールが送られた。

 ところが、ネットの世界では「医者になったなら、人の命を救うべき」「国立大学にいくら税金が投じられたと思っているのか」など厳しい意見が相次いだ。

衆院選には医師有資格者41人が立候補

 とはいえ、そういった批判をよそに、活動の場を広げる医師は確実に増えつつある。

 例えば、今回の衆議院選挙では、全国で41人もの医師有資格者が立候補した。前回の衆院選では22人だったので、ほぼ倍増したことになる。 

 特に新党・希望の党からは、自民党の12人を上回る17人ものドクターが立候補した。

 その中には、何度も当選し政治家として実績十分の人もいるが、今回初めてのチャレンジという若手も少なくない。その人達一人一人に「なぜ政治家に」という動機やきっかけがあると思うが、医師と政治家というどちらもとても片手間では出来ない仕事を両方やろう、という決意は並大抵のものではない。

 また、これだけの数になれば、「医療に専念すべき」という声ももはや出ないだろう。

 30年ほど前に医学部を卒業した私は、その点、「医師は医療のみ」の旧世代と「医師だってマルチに」の新世代のちょうど狭間にいると言える。「地方医療一筋」の先輩を見ては、尊敬の念とともに「やはり、かくあるべき」と思い、バイオ関連企業を立ち上げながら、臨床もこなす後輩を見ては「すごい。この姿勢に学ばなければ」と感心する。

 そして、かく言う私も、臨床の傍ら文系大学の教員を務め、こうして時々、雑誌の原稿を書いたり、一般向けの講演を行ったりする機会がある。

 大学のメールボックスには「そんな時間があるなら、1人でも多く患者さんを診たらどうか」という批判のハガキや手紙も時折届く。そのたびに「確かにその通りだ」と思いつつも、「講演を通して心の健康について広く知ってもらうのも、私の仕事ではないか」という気持ちにもなる。

医師が他の職業と決定的に違う点

 そんな私の逡巡をよそに、今後も医療の世界を飛び越えて二つ、三つの世界で同時に活躍するマルチな医者はどんどん増えるに違いない。

 ただ、どこまで行っても医師の仕事は他の職業とは決定的に違う面がある。それは人の「生き死に」に直接関わる、ということだ。

 もし、自分が病を得て入院し、急変して主治医のケアを受けたいと思った時に、ナースが「先生は今、自分の会社の上場で忙しくて来られません」と言ったとしよう。もちろん、医師にも様々な事情があるとは分かっていても、患者としては「この先生に私の命を託して良いのだろうか」と心細さを感じてしまいそうだ。

 たとえ幻想であっても、「私の先生は医者として全身全霊をかけて私の治療をしてくれている」と思いたいのが、患者というものなのではないだろうか。

 ある時、長い付き合いの患者さんに率直に聞いてみたことがある。その人は、私がペンネームで本などを執筆していることを知っている人だ。

 「私が本なんか書くのをやめて、もっと長い時間この病院で仕事するのと、今までのようにメディアの仕事と兼業するのと、患者さんとしてはどちらが好ましいことなのでしょう」

 すると、その人は答えた。

 「自分の主治医が本を出して評判になったりすると、患者としては密かに嬉しいのは確かです。でも、それでも診療時間が短くなるのは困る。我がままかもしれませんが、『どちらもお願いします』と言いたいですね」

 この問題、永遠に解決しそうにない。

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