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未来の会

がん拠点病院から上がる「便利屋じゃない」の悲鳴

がん拠点病院から上がる「便利屋じゃない」の悲鳴
指定返上療機関が懸念

んの専門的な治療を行う病院として国が指定する「がん診療連携拠点病院(拠点病院)」のあり方を巡り、議論が白熱している。全国どこにいても質の高いがん治療が行えるよう治療の均てん化を進める拠点病院だが、このほど策定される国の「第3期がん対策推進基本計画」で、さらにその重要性が増しそうだ。現場から人手不足、資金不足の声が出る中、拠点病院で行われていた自由診療を問題視する報道も噴き出した。

 厚生労働省の資料によると、拠点病院は9月末時点で全国に434カ所ある。434カ所といっても、内訳は400カ所の「がん診療連携拠点病院」と34カ所の「地域がん診療病院」に分かれる。拠点病院に指定されるには、手術数や化学療法の実施数などの診療実績や、人員配置、施設基準などの細かい指定要件を満たすことが必要だが、過疎地域では患者数などが満たないことがあり、がん診療連携拠点病院より基準が緩い地域がん診療病院が出来たのだ。医療担当記者は「地域がん診療病院の指定は2014年から始まり、これによりがん診療の空白地域が減ってきている」と解説する。

 そもそも拠点病院の指定が始まったのは02年のこと。その後、06年に「がん対策基本法」が成立(翌年施行)し、07年には基本法に基づいて第1期がん対策推進基本計画が決定され、拠点病院を整備していくことが盛り込まれた。現在の指定要件は、第2期がん対策推進基本計画を受けたものだ。

 今年は、第3期がん対策推進基本計画の実施期間の初年度。受動喫煙を書き込むか否かの紆余曲折を経て、何とか国の基本計画は策定され、これを元に各都道府県も自治体ごと↖の基本計画をまとめる。これと並行して、厚労省は「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を定期的に開き、第3期基本計画を念頭においた拠点病院の指定要件の変更などを検討している。

就労支援や自殺防止まで行うことに

 ところが、検討会の結論を待たずして、現場からは「このままだと拠点病院の指定を辞退することになるかもしれない」という不満や不安の声が上がっているのだ。複数の医療関係者の話を総合すると、「第3期基本計画には、拠点病院が果たすべき役割が数多く盛り込まれている。これらを全てやることになったら、病院がパンクしてしまう」というものだ。

 計画では、がん患者のリハビリテーションや就労、患者の自殺防止などに拠点病院が関わることが求められている。拠点病院のある医師は「がんの治療、例えば化学療法や希少がん、AYA世代(若年)のがんなどへの対応を拠点病院が中心となってやるというのは分かりやすい。ただ、就労の支援や自殺防止まで拠点病院が関わるというのには違和感がある」と訴える。

 確かに、がんと診断されてうつ状態になる患者は多く、患者の心理的な支援に病院がチームで当たることは実際に行われてもいる。ただ、「自殺の原因は病気だけではないし、院内での自殺を防ぐ対策は必要だが、院外での患者さんの行動や心情をどこまで把握出来るかは難しい」(前述の医師)のが現実だろう。就労支援も同様で、「診断書などで患者さんの就労状況に助言をすることは出来ても、病院の外に出ての支援は難しい」(同)。

 もちろん、計画では全てを拠点病院に任せているわけではなく、院外のコーディネーターなどと連携することを想定している。しかし、全般的に拠点病院が主語になる文章が多く、求められているものは幅広い。人材不足の地域もあり、どこまで機能するかは未知数だ。「まるで便利屋のように全てのがん対策に絡むことを要求されている」との悲鳴ももっともだ。

 西日本の拠点病院の関係者は「全国のがん医療を均てん化するのが拠点病院整備の目的だったはず。しかし、段々と高い目標を掲げられ、実現が困難になってきている」と打ち明ける。医療機関はどこも人材的にも財政的にも厳しく、「せっかく空白地域をなくそうと全国の医療機関が頑張ってきたのに、指定を返上するという医療機関が続出してもおかしくない」のが現場の感想だという。

問題視される免疫療法の自由診療

 関係者が不安を抱える一方で、次なる拠点病院の課題として浮上してきたのが、免疫療法を巡る自由診療である。

 「NHKが10月2日に報じました。全国の拠点病院の少なくとも12施設で、効果が確認されていない免疫療法を行っていたというものです。読売新聞の調査では、少なくとも15病院で行われていたとのことで、拠点病院が保険のきかない自由診療を行うことに様々な声が寄せられています」(全国紙記者)。

 NHKが取り上げたのは、拠点病院である鹿児島県の国立病院機構鹿児島医療センター。患者の血液から特定の細胞を取り出して作った「樹状細胞ワクチン」を使った治療を行う医師を取材し、6年間で400万円を支払ったという患者の声も紹介している。

 全国紙記者は「自由診療による免疫療法の実施はもちろん違法ではない。ただ、報道は、がん治療の均てん化、標準治療を行うべき拠点病院で、効果未確認の診療を行って良いのかという疑問を投げ掛けた」と話す。

 厚労省は、全国の拠点病院を調査することを決定。報道後に開かれた厚労省の検討会でも、今後の拠点病院の指定要件の検討材料に「十分な科学的根拠を有していない免疫療法の取り扱いについて」が加えられた。

 傍聴者によると、検討会では委員から、今回の免疫療法について「治療が難しくなった時のコミュニケーションの問題ではないか」との指摘が出されたという。標準治療をやり尽くしてしまった時、拠点病院が「うちではもう医療的に出来ることはない」と患者に告げるかどうか。緩和ケアにスムーズに繋げることが出来るかどうか。効果が認められていなくても、患者から「やってほしい」と持ち掛けられた時に自由診療で免疫療法を行うことは考えられる。また、臨床研究や患者申し出療養などの形でこうした医療が行われている可能性もある。

 問題なのは、こうした医療が拠点病院で行われると、「国がお墨付きを与えた病院でやっているのだから効果がある」との誤った認識が広まる恐れがあることだ。拠点病院で行っている医療であることを売りにして、高額な費用で似たような免疫療法を行う市井の医院が出てこないとも限らない。

 「これをやらなければならない、と拠点病院に必要な要件を検討してきた中で、これをやってはいけないという条件が加えられるかはまだ分からない」と厚労省関係者。拠点病院の指定要件の見直し作業は今年度いっぱい行われるといい、来年度の早い時期には新たな要件が示されそうだ。拠点病院を巡る熱い議論は、まだまだ続きそうである。

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