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未来の会

第115回 名ばかりの「年金一元化」で年金支給漏れ問題が再発

第115回 名ばかりの「年金一元化」で年金支給漏れ問題が再発

 厚生労働省が所管する「日本年金機構」(理事長=水島藤一郎・元三井住友銀行副頭取)で、また年金未支給が発覚した。対象者は約10万人、未支給額は約598億円に及び、一度に見つかった支給漏れとしては過去最大。しかも、肝いりの「年金一元化」が名ばかりだったことが要因のようだ。旧社会保険庁の解体で生まれ変わったはずの同機構での大規模不祥事に、厚労省幹部は頭を抱えている。

 今回支給漏れが見つかったのは、「振替加算」と呼ばれる年金だ。例えば、夫が年金を受け取るようになった時に妻がまだ基礎年金を受給していない場合、「妻を扶養している」として、夫の年金には「加給年金」がプラスされる。妻が基礎年金を受給し始めると、夫への加給年金は停止されるものの、その代わりとして妻の年金に振替加算が付くようになる。金額は受給者の年齢で異なり、最大で月1万9000円。ただし、20年以上厚生年金に入っている人や、1966年4月2日以降に生まれた人などは対象外だ。

 今回の支給漏れに、厚労省や、国家公務員共済所管の財務省、地方公務員共済所管の総務省は衝撃を受けている。約600億円の未支給のうち、半分を超す260億円が、民間OBの年金を扱う年金機構と、公務員OBの年金を運営する共済組合との連携不足が原因、と指摘されているからだ。加給年金を受給し始めた公務員OBの情報が共済から年金機構に十分伝わっていなかったり、共済が伝えた情報を機構側が記録していなかったりしたことが大きく影響した。

 日本年金機構が発足したのは2010年1月。支給漏れなど様々な問題を起こした旧社会保険庁が解体され、同機構に再編された。その後、厚生年金と共済年金の一元化構想が進展をみせ、公務員OBの天下り先ともなっている国、地方の共済組合を廃止し、年金機構に統合する案も浮上した。

 しかし、共済側の抵抗は強く、15年10月の厚生・共済年金一元化の際には共済組合を存続させることで決着した。事務手続きや積立金の運用は、今も機構と共済組合が二つに分かれたままそれぞれが担当している。今回の支給漏れは「年金一元化」としながら、共済組織を残し、事実上「多元化」状態を維持したことが一因なのは確か。厚労省幹部は「相互の連携不足は、当初から懸念されていたこと。直後に衆院解散・総選挙というタイミングも悪かった」と漏らす。

 振替加算の未払いは03年6月にも300億円規模で露見している。その翌年には、社保庁職員による年金の個人記録“のぞき見”が発覚し、07年2月には持ち主不明の年金記録が5000万件に上ることなどが発覚、第1次安倍政権の退陣の引き金となった。

 機構誕生後も支給ミスは続いている他、15年6月には約125万件の個人情報流出が明らかになった。野党は衆院選で、今回の支給漏れも衆院選での追及材料にしようとしている。厚労省は就任間もない木下賢志・年金局局長や高橋俊之・年金管理審議官らに対する厳重注意で幕引きを図るが、省内では「まだ新たなミスが表に出てくる可能性はある」との声が囁かれる。さらに不祥事が広がれば「共済と機構の組織統合」を求める声が再び出てくるのは避けられない。

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