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癒やしと安らぎの環境賞2017

係争中には事故調査を中断すべき

係争中には事故調査を中断すべき

1. 産科医を業務上過失致死容疑で送検

 10月6日付の朝日新聞デジタルに「無痛分娩の死亡事故、院長を書類送検へ 大阪府警」という見出しの記事が掲載された。

 大阪府の産婦人科医院で無痛分娩に際して出産中の女性が死亡した事故で、「府警は6日、男性院長(59)を業務上過失致死容疑で書類送検する。無痛分娩をめぐる事故が各地で相次ぐ中、医師が立件されるのは異例だ。府警は容体急変後に適切な処置を怠ったことが過失にあたると判断した」というものである。

 しかし、同じ記事の最後には、「刑事事件化には反対」だとする識者の見解も載せてあった。「院長の書類送検について日本産婦人科医会の石渡勇常務理事は『お産に伴い子が亡くなった場合などで民事上の責任を負うことは当然あるが、刑事事件化には反対だ』と語る。今回は母親が亡くなったが、石渡さんは『赤ちゃんの方を助けようとした可能性もある。そこは医師の裁量の範囲で判断が間違っていると言い切れないのではないか』と述べたうえで、『リスクを恐れて無痛分娩の実施施設が減れば、ハイリスクの妊婦を受け入れるべき医療機関に(無痛分娩を望む)妊婦が集まり、周産期医療体制が壊れてしまう』と懸念する」というものである。良識的な見解と言えよう。

2. 事故調査報告書がミスを裏付け

 ところが、医療界は必ずしも良識的な見解ばかりでもないらしい。医療事故調査制度に基づく医療事故調査・支援センターの報告書が、医学的なミスを裏付けてしまったらしいという記事も、同時期に掲載されている。10月8日付のヨミウリオンラインには「無痛分娩死、急変時処置『蘇生に有効と言えず』」という見出しの記事が掲載された。

 「専門医らでつくる医療事故調査委員会が報告書をまとめ、院長(業務上過失致死容疑で書類送検)による容体急変時の処置について『蘇生に有効とはいえなかった』と指摘していたことがわかった。府警も緊急対応に過失があったとしており、医学的見地からもミスが裏付けられた」としているが、この記事からすると、医療事故調査報告書が刑事事件化の裏付けの役割を担っていたかのようである。

 その医療事故調査報告書の作成・交付は、この記事の書きぶりからすると、「2015年に始まった医療事故調査制度に基づき、第三者機関『医療事故調査・支援センター』(日本医療安全調査機構)が実施。産婦人科医や麻酔科医らが〇〇容疑者から聴き取りなどを行った」らしい(なお、「〇〇容疑者」という箇所は、ヨミウリオンラインでは医師の実名が記されていた)。

 さらに、記事は「読売新聞が入手した報告書によると」と続けて、「蘇生のための気道確保に有効とはいえない」とか「人工呼吸が優先されるべきだった」などと、その医療行為の医学的評価を述べている。

 もしもヨミウリオンラインの記事が正確だったとしたならば、これではまるで医療事故調査が、刑事事件化の裏付けのために行われたかの如き結果を招いてしまった。

3. 全国医学部長病院長会議の申入れ

 このような事態が生じるであろうことを、全国医学部長病院長会議は以前から懸念していたらしい。1年以上前の平成28年9月23日に既に、「一般社団法人全国医学部長病院長会議」と「大学病院の医療事故対策委員会」が連名で、「一般社団法人日本医療安全調査機構」宛に、「現に事故調査報告書が係争の具として利用されることが明らかな場合には、医療安全の確保という制度の目的に鑑みて、貴機構において今回の法に規定されている作業は行わない。係争の手段として行われる事象は全て、この法の埒外にて処理されるべきである」との申入れをしていた。

 ただ、残念なことに、日本医療安全調査機構は本年1月31日に、この全国医学部長病院長会議の申し入れを採用しないことを確認していたのである(平成29年2月1日付m3.comの記事「“事故調”、係争例もセンター調査の対象に—日本医療安全調査機構、運営委員会で確認」、平成29年1月6日付の坂根みち子医師のMRICの記事「木村壮介氏は辞任せよ—医療事故調査・支援センター・木村壮介先生へ」などを参照)。

4. 係争中は事故調査を「中断」

 「警察捜査中または民事訴訟中の事故調査」のあり方について、かつて筆者自身も見解を述べたことがあった(筆者著「『医療事故調査制度』法令解釈・実務運用指針Q&A」マイナビより平成27 年10月8日に発行)。同書の139頁・Q&A91において、「Q 警察が捜査中であったり、民事訴訟が係属している時には、院内事故調査はどうすればよいですか」「A 院内事故調査は無理に進めず、捜査や訴訟が終了するまで中断させます」との見解を打ち出したのである。

 その解説では、「院内での医療事故調査は、法的責任とは完全に切り離して、もっぱら再発防止や広く医療安全の確保・推進のために進めるべきものです。しかし、現に警察が捜査中で当該医療従事者が事情聴取の参考人となっている最中や、民事訴訟が提起されて当該医療従事者が被告本人か証人予定の場合に、同時並行し、院内での医療事故調査を進めるのは、当該医療従事者の法的責任と密接に関わらざるをえません。無理に進めて一歩間違えれば、当該医療従事者に対する人権侵害にもなりかねません。そこで、残念ですが事故調査は一歩引いて、捜査や訴訟が終了するまでの間、一時的に中断させます」と述べた。センター調査についても、もちろん同様である(同書192頁・Q&A158「遺族によるセンター調査依頼」)。

 「調査をしない」と言っているのではない。「調査はする」けれども、一旦「中断する」だけである。このことを強調しておきたい。刑事の捜査や民事の訴訟が終了したところで、中断していた調査を再開させると言っているに過ぎない。このようにすれば、刑事責任や民事責任の有無・程度の適切な対応・負担も、そして、医療安全の確保・向上も、共に成り立ちうることとなろう。

 今後の院内医療事故調査やセンター調査を運用していく上で心掛けておくべき重要ポイントの一つと言ってよい。

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