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「国難突破解散」の先にある「日本経済の沈下」

「国難突破解散」の先にある「日本経済の沈下」
まで「国の信問う

 やはり、この男にまともな思考力を期待するのは無理なのだろう。今時、何の必要があってか、9月25日に記者会見を開いて解散を宣言した安倍晋三首相の記者会見を聞いて、健忘症に冒されていない国民であるなら、誰しもそう思ったに違いない。

 例によって、登場した虚言の最たるものが、当の解散理由だった。何と「消費税の使い道を見直すので、すみやかに国民の信を問わねばならないと決心した」という。周知のように、安倍は2014年11月の衆議院解散では、消費税の税率10%への引き上げを、予定されていた15年10月から、17年4月まで延期することを口実にしていた。昨年の参議院選では、さらに選挙対策で再延長し、19年10月とすることを打ち出した。

 ところが今回は、増税を前提としながら、「使い道」について「国民の信を問う」のだという。つまり、消費税の増収分を借金返済に充てたのは「国民の皆様に約束していたこと」であったが、今度は「我が国の社会保障制度を全世代型へと大きく転換する」ために使うからだとする。こんなことが、果たして解散までして「国民の信を問う」までの大義名分となるのか。

 だが、現在の日本経済の状況からして、もし消費税が解散の口実になり得るとしたら、それは増税することの是非ではあっても、「使い道」などではないはずだ。いくら安倍でも、14年4月に8%までの消費税アップを実施した後、どのような結果になったかぐらいの記憶はあるだろう。同年第2四半期までに急落した国内総生産(GDP)は約14兆円にも達し、後に安倍自身も、「予想以上に消費が落ち込み、それが現在まで続いている」(16年3月3日の参議院予算委員会答弁)状況を認めている。

消費税率引き上げの本音は法人税減税か

 実際、消費税の税率が5%から8%へ引き上げられた結果、3年以上たった17年7月までの40カ月で、家計の消費支出が前年同月を上回ったのはたったの3カ月だけだ。残りの37カ月は全て前年同月比でマイナスを記録しており、これで「消費が落ち込」まないはずがない。のみならず、増税があっても賃金が引き上げられたならまだ救われるが、安倍政権発足直後の12年12月からやはり17年7月まで、実質賃金は32・6万円から31・8万円になり、8000円も低下している。

 これで、本気で19年10月に8%から10%に消費税を増税するつもりなのか。少なく見積もってもGDPの損失は10兆円を超し、個人消費がより低迷することはあっても、上向く可能性などまずゼロに等しい。さすがに官邸では、密かに「消費税の5%戻し」すら検討された形跡があるが、それでも消費税率を上げようとする本音は、結局は法人税減税のためだろう。

 消費税が導入された1989年4月から、税率が8%に上げられた2014年度まで、消費税による税収は282兆円に達したが、一方で法人税収はその額にほぼ匹敵する255兆円も減っている。法人税率がその間、相次いで引き下げられたためで、その原資が消費税である実態を如実に示している。

 その結果、16年度決算で国の一般会計税収は、安倍がとかく宣伝したがる「アベノミクスの成果」はどこへいったのか、前年度を8200億円も下回った。うち減収幅が最大となったのは法人税で、全体の約6割の5000億円にも上る。言うまでもなく、安倍政権が進めてきた法人実効税率の引き下げが原因で、12年度の37%が16年度には29・97%となった。しかも来年度には、さらに29・74%にまで引き下げられることが既に決定済みだ。

 自民党の大スポンサーの財界は、かねてから19年10月の消費税率の10%引き上げを求める一方で、さらなる法人税減税を求め、このうち経済同友会は「法人実効税率を早期に25%へ」と公言している。来年以降も、引き続き段階的に法人税減税は続きそうだ。

 だが一方で、大企業は16年度に52・6兆円という前年度1兆円アップの過去最高の経常利益を上げながら、収めた法人3税(法人税、法人事業税、法人住民税の合計)は逆に前年度より1兆円もマイナスとなっている。しかも周知のように、内部留保は403・4兆円と、史上最高額を更新しているにもかかわらずだ。

 利益を貯め込み続けている大企業には、それをはき出させるどころか、さらに減税という恩恵を与え、実質賃金が減り続けている勤労者に対しては、消費税の税率を上げるというのは、果たして妥当な判断だろうか。どう考えても総選挙で「国民の信を問う」べきなのは、消費税を増税した分の「使い道」などでは決してなく、繰り返すように増税すること自体ではないのか。

社会保障の充実は8兆円のうち1兆円

 しかも、仮に消費税の増税が避けがたく、そこでは「使い道」こそが争点だとしよう。それでも安倍の言い分には、首を傾げるばかりだ。14年4月に消費税率が5%から8%に上げられた際、「引き上げ分は全額、社会保障の充実と安定化に使う」と自分で口にしていたことを、安倍はもう忘れたのか。

 しかし、その後の経過が示している事実は、増収分の8兆2000億円のうち、「社会保障の充実と安定化」に投じられたのはたったの1兆3500億円だった。今回、「使い道」が「我が国の社会保障制度を全世代型へと大きく転換する」からと、解散の大義名分までに祭り上げておきながら、また安倍の嘘が繰り返されるのは目に見えている。

 例えば、前述の記者会見では、「使い道」の変更の内容になるらしい「アベノミクス最大の勝負」だという「生産性革命、人づくり革命」の一環に、堂々と「所得の低い家庭の高等教育無償化」だの、「3〜5歳児の幼児教育無償化および0〜2歳児も低所得世帯に限って無償化」だのが、並べ立てられていた。

 しかしながら、「幼児教育無償化」は、12年の選挙公約にも同じく掲げられたが、いとも簡単に反故にしたのは安倍自身ではなかったのか。

 そもそも安倍は今年5月3日、保守団体「日本会議」(会長=田久保忠衛・杏林大学名誉教授)系の改憲グループが主催した集会に寄せたビデオメッセージで、堂々と憲法第9条と並び、「大学や短大などの高等教育の無償化」を改憲項目として挙げていたはずだ。改憲という、尋常ならざる手段によってしか「高等教育の無償化」が実現出来ないと思いきや、今度はいとも簡単に消費税増税の「使い道」の一つに格下げされている。

 安倍のような政治家に、そもそも政策の整合性や一貫性を求めるのはないものねだりだが、消費税が増税されれば、こんな見え透いた「使い道」論議などあっという間に雲散霧消するだろう。確実なのは、消費のさらなる低迷による、日本経済の沈下だけだ。これで「国難突破解散」(安倍)とは、悪い冗談ではないのか。(敬称略)

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